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銃撃剣士カルム〜目立ちたくないのでソロでダンジョン潜ってたのに、助けた子が超有名人で目立たないとか無理そうです〜  作者: Some/How
第一章

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第一話

 

 ザンッ!という斬撃音と共に、体長3メートル弱はありそうな大虎型の魔物が力なく地に(たお)れた。

 最後、頚椎部への一撃がトドメとなったようだ。


 この魔物はここら一帯を縄張りとしていた討伐指定個体だ。

 ダンジョンを食い扶持としている少女にとってこの上ない獲物。

 他の探索者に取られる前に急ぎ動いたのが幸いし、討伐報酬のみならずドロップアイテムなどの戦利品も独り占めだ。


 少女はふぅ……と一息つくと眼鏡の縁に手を伸ばした。

 カチリとボタンを押下すると、視界に配信画面が投影された。


 :おつかれー!

 :ナイス

 :指定個体討伐おめ

 :さすが我らのカルムちゃんや

 

 カルム、それが私の活動名だ。

 ダンジョンへの潜行時は配信をすることが義務付けられているため仕方なくやっている。

 ナンバリングだけのタイトルにBGMもアバターも無し。

 顔出し声出しなんてありえない。

 同接も0~10の間をさまよっているし、最近は観戦メンバーも固定されてきた。


 |Calm:終わりました、お疲れ様です。


 業務報告のような淡々としたコメントを投下する。

 すると、チャット欄に数件のレスポンス。


 :おつおつ

 :相変わらずの事務チャット助かる

 :いつも思うけどチャットの打ち込み早すぎww


 こんなでも一応は生存確認と不正防止というギルドの規定は満たしている。

 

 |Calm:ここまでのご視聴ありがとうございました。規定の配信時間は越えましたので、ここまでとします。

 

 数少ないコメントを眺めながら返信をする。

 

 そして配信を閉じようとしたその時、新たなコメントが流れてきた。


 :初コメ失礼、初見なんすけどこの配信って顔出しない感じ?


 :初見さんオッスオッス~

 :顔どころか声も出して無いゾ

 :我最古参民、未だ声も顔も確認できず

 :身バレが嫌っていう至極真っ当な理由らしいで


 :おかげで全然同接伸びないのよね……

 :その結果変人視聴者ばかり集まって来たという()

 :おめぇと一緒にするんじゃない、俺はCalmちゃんの技術に惚れ込んだんだ!

 :おまえは綺麗な視聴者!?絶滅したのでは!?

 :ブチ○すぞ

 :スンマセンカンベンシテクダサイ

 :めっちゃ早口そうで草


 私は配信映像をデバイスに投影する。


 ーーうん、問題なし。

 

 カメラは眼鏡型デバイスに付属の物をつかっているから、私の顔は映らない。

 念のため顔半分はマスクで隠してあるし。


 マイクの感度も調整して、できうる限り私の声を拾わないようにしてある。


 :ソロで指定個体狩れるなら相当な腕じゃん、顔出しすればいいのに


 :あーあ。初見よ、お前は何もわかっちゃいない

 :どゆこと??


 :顔も声もわからんということはな……妄想が捗るということだ!

 :わ か る

 :今時に初期アバターすら使わないガチ硬派だもんね……


 :俺は仕事終わりに夢を見に来てるんだ、起こすな

 :初見よ、お前もこっちに来ないか?現実逃避は楽しいぞ?


 :まぁ男の面見ててもあれだし……とはいってもトークが面白かったり強かったら見るけど

 :そうねぇ


 :よくわからんけど……視点的に背は平均くらい?いや若干低めかな


 :おいおい、詮索はダメよ初見さん

 :カルムちゃんが辞めちゃったらどうするんだい?


 :コメ返なんて始めと終わりくらいしかやってくんないけど。まぁ万が一、億が一もありえるべ。

 :そうそう。個人勢なんて完全に趣味なんだし、弱メンタルの可能性もあるんだからね


 配信は基本毎日だけど開始時間は不定期。

 顔出し声出し無し、アバターも無し、チャットすらもほぼ無し。

 どう考えても人気なんか出るはずもない。


 配信タイトルはナンバリングのみ。

 概要欄には「よろしくお願いします。」だけ。

 その無機質さ、完全に趣味という振り切った潔さに惹かれたという変わり者数人が同接を維持してくれている。


 この内輪感が私としては居心地いいのだが、初見さんはどうしても居つかない。

 それが普通だろう。


 いや、そもそもこんなBGMすら無く、獲物を待つ間はひたすら何十分も身じろぎ一つしない配信、普通なら即ブラウザバックだ。


 


 そんな配信に何時間も張り付いている、この"普通じゃない"人たちは何者なんだろうね。


 無職かな?


 性別も明かしてはいないのに「カルムちゃん」って呼んでくるし。


 :それにしてもカルムちゃんがコレ始めてから4年近くなるのか

 :黎明期のような清々しい演出の無さがもはや心地いいもんな

 :点けっぱにしてたらハマっちゃったんだよなぁ……


 :在宅だから作業用にちょうどいいんだ

 :わかる、勉強捗るんよ

 :おっと、自宅警備員の存在を忘れて貰っちゃ困るぜ

 :それっぽい言い方してんじゃないよ糞尿製造機のクセに

 :うっ……

 :死んじゃった!

 :草


 こんな視聴者同士の会話も他の配信じゃ忌避されるけど、ここまでの過疎地だといい賑やかしになる。

 

 リスナーのじゃれあいが盛り上がってきたところだけど、これ以上の配信は不要かな。


┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓

┃ Chat-チャット-

┃------------------------------------------

┃ : こんちゃー

┃ : おつかれさまです

┃ : わこつ

┃ : きょうの天気は?

┃ : きたあああああ

┃------------------------------------------

┃ お疲れさまでした_        ┃投稿┃

┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

 

 少女が配信終了の定型文を流そうとしたその時――。


 

 BEEP! BEEP! BEEP!


 けたたましいアラートが鳴り響いた。


 「……っ!」


 ――救難要請。

 ダンジョン内で危機的状況に陥った際に、他の探索者に救援アラートを発信する。


 :救難!?

 :まぁた無茶した奴がいるんか

 :カルムちゃんどうする?

 |Calm:仕方ないので行きます

 :さっすが俺たちのカルムちゃんやでぇ!


 騒がしくなるコメントに一つ返信して、少女は駆け出した。



 §



 :ツバキちゃんがんばれ!

 :救助要請!

 :あ!承認通知……え、たったひとり!?


「ごめんね、みんな……こんな所で……!」


 数えるのも億劫になるほどの数のモンスターに追われながらも少女――ダンジョン配信者のツバキは魔法弾を展開する。


光魔弾(ルミナス)……!!」


 無数の光の玉がモンスターを襲う。

 がしかし、この深層という魔境に生きる彼らにとってソレは蚊に刺されるようなもの。

 降り注ぐ光弾を意にも介さず、突き進む。


「あぁああぁあ!!全然効かないんですケド!!?要塞かなんかなのアイツら!!」


 :恐怖が裏返ってキレ始めてて草

 :さすが配信者の鑑

 

 絶体絶命こそ配信者の大好物である。

 だが、ここまで明確な危機だと撮れ高がどうだとか気にする暇などありはしない。

 本当は泣き喚いてしまいたい衝動を、ツバキはプロ意識の一点で何とか抑えていた。


 :これけっこうまずくね??

 :めちゃくちゃまずいよ?

 :くっそ、今会社じゃ無ければ……


 普通、複数人でのパーティを組んでダンジョン攻略に臨むものだ。

 今危機に瀕する彼女もそれは同じ。

 少女ツバキはとある事務所に所属する人気配信者だ。

 同接は万を下らず、登録者はもうすぐ100万の大台に手が届く期待の新星。

 

 そんな彼女に事務所がソロ攻略なんて危険事を打診するはずがない。


 今回の攻略は彼女自身の強い希望を事務所が泣く泣く飲んだものだ。

 もちろん条件はあった。

 攻略とは言いつつも中階層までで帰還すること。

 つまり、本来であれば今頃配信は終了して、無事に地上に戻っていたはずなのだ。


 だが現実は残酷であった。

 不運にも発生したイレギュラー、ダンジョン災害の一つにも数えられる"魔獣の行進(スタンピード)"。

 小規模ではあるが、それが発生してしまったのだ。


 運悪く、その発生源の直近にいたツバキは、退路を断たれ深層へと追い落とされた。

 本来、彼女の実力では到底太刀打ちできない領域。

 魔力の枯渇、迫りくる死の足音。

 

「はぁ、はぁ……っ! もう、魔力が……!」


 展開していた光魔弾が、電球が切れるようにプツリと消える。

 それを見逃すほど、深層の魔物は甘くない。

 先頭を走っていた三頭の魔狼――シャドウウルフが、勝利を確信したように獰猛な牙を剥いて跳躍した。


「あっ……」


 ツバキは眼前に迫る死に、目を瞑る。

 その瞬間――。


 ザンッ!!!!


 鋭い斬撃音と共に、三つ首が宙を舞う。


 目の前で肉塊が飛び散る感触に、ツバキは恐る恐る目を開けた。

 そこには、先ほどまで自分を喰い殺そうとしていたシャドウウルフたちが、原型を留めぬ無残な姿で地に転がっている光景があった。


 もうもうと立ち込める砂塵の向こう側。

 逆手で、身幅の広い「異形の剣」を構えた人影がそこに立っていた。


 その人物は地面にへたり込むツバキを一瞥すると、魔物の群れへと駆け出す。


 救助者は、地鳴りを立てて押し寄せる魔獣の奔流に対し、逃げるどころか真っ向から突っ込んでいった。


「……あ、あの……!」


 ツバキの呼びかけは、空気を切り裂く爆音にかき消された。

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