エピローグ 青春は廊下を走るスピードで去って行く。かも。
あのとんでもないイベント以降、僕の立ち位置は大分変わった。
まるで空気のような存在だったのに、今では『ガリ勉ヤンキー』としてあの風紀委員に名を連ねている。
個性派揃いで泣く子も黙ったり、笑ったり、諦めたりさせる、言ってしまえば悪名高い組織にいるのがおよそ当たり前なイメージを持たれていた。
見栄えは相変わらずガリ勉スタイルだから、そこも影響しているのだろう。
底が知れない、計り知れないオーラを図らずも演出しているのだ。エミレアには負けるけど。
そんな風紀委員が朝の挨拶運動をしているとやっぱり嫌が応にも目を引いてしまう。
インパクトの強い四人がやっぱりトラメガを使って余計な大音量で
「おはようございます」
「ございまーす!」
「デス」
「お、おおはようございます……」
なんて言っていたら誰でもビックリするだろうけど。
個性に富んだ面々に溶け込めているのは、そんなに悪い気分じゃない。
※
「うん。そしたらちょっと来週行うイベントの資料を取りに行ってくるわね。かなて君ちょっと量が多いから手伝ってくれるかしら?」
「わかりました」
委員会室で僕と委員長が席を立つと、祭さんとエミレアが手を振って送り出してくれる。
僕はこれでも一応、唯一の男手なので力仕事は何でも僕が手伝った。
廊下を歩いていると、ふと風を感じる。
「あ、開けっ放し」
誰かが占め忘れた窓でカーテンが揺れていた。教室に入って窓を閉める。その時、校庭で練習している運動部の姿が目に入った。
みんなそれぞれがそれぞれの気持ちを持って練習している。その先にある目指すものが同じでも、違っても、この高校生活で得られるものがきっとあるからこそ、こうして時間を共有出来ているのだろう。人はそれぞれ、だけど人は人なのだ。
結果は出てからじゃないとわからない。僕たちが何になるのかなんて誰も知らない。
だから考える必要なんて無い。
今はこうして、一瞬一瞬で変わる感情をそのまま認めていれば良い。
僕たちはまだまだこれから。卒業したってその未来で何になったってずっとこれからなのかもしれないけれど。
いつくるかもわからない本番の為に僕は、僕らは今もこうして青春している。
青春とは準備である。
それは大人になる為の、大人になるまでの。
大人になってからも。
「かなて君。何してるの? 早く」
「は、はーい!」
遠くから聞こえた委員長の呆れた声に慌てて返事をして、教室を飛び出した。
とりあえず、僕は廊下を走る事から始めて見る。
青春はそれでもあっという間だ。
きっとこのスピードで去っていくのだ。
上履きが廊下を踏む音がキュッキュッと鳴り響く。
不思議と先生には怒られなかった————。
「こらーー!」
……青春とは準備である。
準備とは得てしてスムーズにいかないものである。
と言う事は、青春もまたそういうものなのだろう。




