21 人に恵まれて王太子妃になりました
クレイ殿下が婚約を申し込む前に、陛下とお父様との間ではすでに取り決めがあったらしい。
貴族の派閥は落ち着いて殿下の命の危険も無くなった。隣国にもしっかり釘を刺して関税の見直しも行い、ネルコム侯爵家には慰謝料と賠償金が支払われた。
その上で、殿下の婚約の申し込みを私が受けないというならば、それで良いと。政略結婚ではなく、あくまで当人同士の気持ちを第一に、と親同士で決めていたらしい。
殿下はその立場故に迫られる事も多かったが婚約できず、私は逆に幼い頃に婚約していたから他の殿方とそこまで親しくなる機会もなかった。夜会にも行ったのは数える程だ。
王弟殿下……宰相閣下もこの話を聞いて、年貢の納め時か、と呟いて真剣に婚約者探しを始めたらしい。魔術師団長もだ。王宮では暫くウェディングラッシュが続くだろう。
クレイ殿下からこの話を聞いた私は「まぁ、よかったですね!」と素直に喜んだのだが、クレイ殿下は苦笑いをしていた。お父様もお母様もだ。何か変なことを言ったかしら?
義母になるのは王妃殿下だし、陛下も優しい方だ。私にとってはこれ以上無いほどの旦那様と家族が増える。
パスカルお兄様たちも祝辞と祝いの品を贈ってくれた。宰相閣下も、魔術師団長も、騎士団長も。お祝いが被らなかったのは示し合わせでもしたのかしら?
結婚式が近づくと、私は、やっとか、という気持ちと、もう、という気持ちの両方を噛み締めていた。
王室に嫁ぐことには変わりない。だけど、クレイ殿下の面影を求めてアンドリュー殿下の好みになろうとしていた部分が私にもある。
そう思うと、実はずっと長い片想いをしていたのかもしれない。狡い女だな、なんて思って鏡を見ていた所に、部屋のドアがノックされた。
「殿下には先に贈ったが、これは私たちからのお祝いだ。……長い間、よく頑張ったな。誇らしく思うぞ」
「きっと似合うと思うの。石は違うけどクレイ殿下とのお揃いよ」
そう言って渡されたのは、ブローチ。
大きなアメジストはクレイ殿下の瞳の色そのもので、窓から入る光を取り込んで眩しいくらいだ。私の髪と同じ銀色の細工の土台は豪奢でありながら繊細で、石をよく引き立てている。
領内でも滅多にとれない最高級品のはずだ。こんなにいい物を? と思って顔を上げると、穏やかに笑った両親が頷く。
石違いという事は、殿下のはもしかして、ルビーではないだろうか。そして、台座は金色。
お互いの結婚式の衣装に合うように造られたそれは、私にとって一生の宝物になるだろう。
「ありがとうございます、お父様、お母様」
私は笑顔で答えた。もう、狡い女だなんて悩むのはやめよう。そんな暗い顔では、このブローチは似合わない。
純白のウェディングドレスに銀に青い石の宝飾品を身につけ、胸の真ん中に貰ったブローチを付けた。合わせたかのように彩りが豊かで、それでいて似合っている。
バージンロードの先には式典服を着たクレイ殿下がいて、私が頑張るのを手伝い、応援してくれた誰もが拍手で出迎えてくれた。
殿下の胸にも揃いの、やはり金の台座にルビーがはまったブローチが留めてある。
私たちはそれに小さく笑って、神父様に向き直った。
……私は、沢山の人に恵まれて、王太子妃となった。この先ずっと、この国を支えていけるように。努力したい、今度は振り向いてもらうためではなく、良い国を造っていくために。
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