第二十八話 マッドサイエンティストテリトリーその11
炎の壁はやり過ごせる。
だがあの炎の螺旋だけが秘面の効力を受け付けない唯一のイレギュラーとなっている。
刃すら溶かす極炎の前に攻撃はすべて無効化され、踏み込んだとすれば体ごと燃やし尽くされてしまうことは必至だ。
『収束点に到達した魔導は全て効力を失うのです』
魔導の特性がバアトルが語る通りだとするならば、あの螺旋にも収束点はあるはずなのである。
魔導研究所を運営するアルティメイツが生み出した新たな魔導ではない限り。
ここで倒れるわけにはいかないラグネイトは、なんとしてもあの螺旋の攻略法を見つけ出さなければならなかった。
手がかりとなるのは先ほどの不思議な挙動。
なぜあの一瞬だけ炎は消えていたのか。
ラグネイトは思考する。
すると目の前に再び炎が現れた。
炎の壁ではない。肌を焼く灼熱の螺旋だ。
「なにっ?!」
コート越しに伝わる固い感触。
突然の強襲に防御が間に合わない。
「ぐっ」
「どうした!? 肉弾戦はできんと思っていたか。カカシを殴り殺すなど日常時よっ!」
レンブラントはそううそぶきながら拳を繰り出す。
いうだけあってかレンブラントの打撃は見た目からは信じられないほどに速く重く、そして殺意にあふれていた。
「こ、これがアルティメイツのやることなのか」
「反乱者にはお似合いだろうがっ!」
迂闊に手を出せないラグネイトはレンブラントの猛撃を受ける他なかった。
だがなぜ拳なのか。
相手は魔導士の長たるアルティメイツなのである。
ラグネイトには魔道は通用しないと判断したからなのだろうか。
しかし炎の螺旋は秘面の効力を貫いているのだ。
理由は分からなかったが、このままでは殺されてしまう。
「ち、調子に乗るなっ!!」
なんとか地獄から逃れようとラグネイトは刃を振り下ろす。
だが螺旋の炎に触れた瞬間に刃は氷菓子のように融けてしまった。
そして今の攻撃で予備の刃はほぼ無くなってしまった。
反撃を覚悟して身をこわばらせるラグネイト。
だが、なぜかレンブラントは後ろに跳躍して距離を取っていた。
その瞬間、ラグネイトの頭の中で閃光が弾けた。
「いい加減理解できただろう。いくらやってもキサマの攻撃は通用はせんということがな。大人しく投降すれば楽に死なせてやる」
冷酷に告げるレンブラントの表情に焦りはない。
だが、額面通りとは、限らない。
「……アルティメイツの口上はどれも似たり寄ったりで個性がないな。法典に文例集でも載ってるのか?」
「……何だと」
「前のアルティメイツも同じようなことを言っていた。ああそれ以上はやめておけよ。なんせソイツはその後無様に命乞いしながらオレに切り刻まれる末路を辿ったからな」
「私がエンドバーと同じになるだと? チャチなカラクリ一つで調子に乗るなよ。追い詰められているのはキサマなのだぞ」
ラグネイトは仮面の中から盛大に吹き出す。
「おいおい、忠告したそばからコレかよ。本当に法典しか読んでないから独創性がなくなっちまったんじゃ」
嘲笑するラグネイトにレンブラントの前蹴りが飛んできた。見ていたはずなのに見えなかった。まともな人間の速度ではない。
ラグネイトの体はベッドにはね返って大火傷を負ったバアトルの傍まで吹き飛ばされる。だが
(いま、理解した。コイツの魔導は―――)
ラグネイトの身体が震える。
リッキーで受けた屈辱は奥底にまで刻み込まれていた。




