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7.いきなり女の子にキスされてしまうお話

 お昼になって弁当を食べようとしたら昨日に引き続いて何人かの女子が一緒に食べようと群がってきた。昨日は「すわ、毒殺か!?」と緊張を強いられたがどうやらその心配は必要無いっぽい。彼女らはいたってフレンドリーだ。女の子に囲まれての食事…男としてこれ以上ないシチュエーションだ。とはいえ、女子たちの会話に僕が入り込む余地は皆無で適当に相槌を打つしかできなかった。他者とのコミュニケーションって難しいね。まさか、こんなにもコミュニケーション能力が必要とされる事態が来るなんて想像だにしなかった。しかし、なぜ女子たちはこんなにも僕に友好的に接するのだろう?確かに可愛くはなった。だが、女の子である。女の子たちが積極的に仲良くなろうとする要因にはならないと思うが。


(もし、女の子じゃなく格好いい男になってたら…)

 いま感じている違和感も無しに女子たちと接することができていたかもしれない。いや、そうなったらそうなったで状況が悪くなってた可能性もある。格好良い男にそうでない男がなったら、整形したみたいに思われるかもしれない。女の子になったから僕は皆に受け入れられることになった。仲良くなれる友達ができるチャンス、一生巡り合えないと思っていたチャンスを手に入れた。だが、なんでだろう。僕と他人の間に見えない壁があるのを感じる。壁はずっとあったんだが、それは他者が僕との交流を遮断するためにつくったものだと思っていた。だから、その壁は他者がその気になればたやすく壊れるもののはずだったし、事実そうなった。しかし、いままでとは違う壁ができてしまっている気がするんだ。この壁は誰がつくったんだ?まさか僕?


(ううん、そんなはずない)

 前から女の子と仲良くなりたいと思っていた。叶わぬ願いと半ば自棄になっていたけど、でもやはり彼女というものを持ってみたいと思っていた。そんな僕が女の子との間に壁なんてつくるはずなんてない。じゃ、この見えない壁はなんだ?


「どしたの?」

 見えない壁について考えていると女の子の一人が声をかけてきた。


「え?」

「さっきからボーっとしちゃって何か悩み事?」

「う、ううん、なんでもない」

 僕は慌てて否定した。ん?さっきから?


「だったらいいんだけど、さっきからあなたに話を振っても何にも返ってこないしさ」

 そうだったのか。で、何の話?


「あなたって化粧したことないでしょ?」

 化粧?当然だ。するわけない。


「ダメよ。もう女の子なんだからメイクぐらいしないと」

「いや、必要ないんじゃないかな」

 化粧って女が見た目を良くするためにするんだろ。別に僕は見た目を良くしたいとは思わない。


「そりゃ、あなたは素材が良いんだからメイクしなくても十分に綺麗よ。でもメイクしたらもっと綺麗になれるって。素材は磨いてこそその良さを際立たせるものだよ」

「でも、僕はメイクのやり方なんて知らないよ」

「大丈夫、私たちが教えてあげるから」

「でもでも、化粧道具なんか持ってない……」

「だったら、買いに行こうよ。私たちがついて行ってアドバイスしたげるからさ」

 僕の脳裏に先日の悪夢が蘇る。あの時は生きた心地がしなかった。


「いや、遠慮しとく」

 丁重にお断りすることにした。


「そうね。そのままでも十分よね」

「いいなぁ、メイクしなくてもいい顔って」

「あんたはメイクしないと外に出られない顔だもんね」

「ひどぉい、そこまでひどくないわよっ」

 そこで笑いが起こる。僕も場に合わせて笑った。


「あの、お楽しみのところ悪いんだけどさ」

 声がする方へ顔を向けると、クラスの男子が緊張した面持ちで立っていた。どうやら僕に用事があるらしい。


「なに?」

「放課後空いてるかな?」

 放課後?特に用事はないけど。


「だったら体育館裏に来てほしいんだ。そこで待ってるから。じゃ」

「えっ?ちょっ」

 僕の返事も聞かずに彼は逃げるように去っていった。


「な、なんなんだ…」

 体育館裏に来い?なんで?まさか、果し合い?


「告白じゃないの?」

 女の子の一人があっさりと言ってしまった。


「……」

 だよねぇ。それくらい僕でも察しはついてたさ。でも、人間ってどうしても認めたくない事ってあるじゃない?僕は頭を抱えた。どうして、男だった奴に告白するかな?気色悪いと思わないのかな?僕は思うよ。はっきし言って気色悪い。生まれて初めて他人を気色悪いと思った。


「ど、どうしよう」

 行くべきか否か。はっきり行くとは言っていないので行かなくてもいいのかな?でも、待ちぼうけをくわされている彼の事を思うとそれも気が引ける。


「そんなに考え込むことないよ。ちょっと行ってきて“ごめんなさい”って言えばいいだけなんだから」

 女の子の一人がアドバイスしてくれた。そうか、そうだよね。さっきだって男子からの告白を断ったんだ。軽い気持ちで行けばいいんだ。


「ありがとう、気が楽になったよ」

 さて、弁当も食い終ったしいつもの場所でくつろぐか。この学校で唯一の僕の憩いの場所。あそこに行くと本当、落ち着くんだよね。ところがである。教室を出た途端に男子からの告白攻勢にさらされてしまった。その場で告白してくる人、手紙を渡してくる人、放課後に来てくれと言う人と様々だが共通して言えるのは頭のネジが一本どころかかなり抜け落ちていることだろう。その場で告白してきた人に、男と付き合うつもりは一切無いと断言しているのに、それを聞いているはずの後続が同じように告白してきたり手紙を渡したりしてくるのだ。僕が男だった事は皆知っているみたい。なのに、なんで告白してくるかなあ。


 ------

 どうにか振り切っていつもの憩いの場所で一服しているとイケメンくんがやってきた。


「よお、えらい人気者らしいじゃないか」

 彼は一目見るなり僕を認識できたらしい。まあ、あれだけ騒ぎになったらわかるよね。


「どうして、皆僕が男だったってわかってるのに告白してくるのかな」

 もし、クラスメートが女の子になったとしたら僕だったらその娘を好きになるだろうか。ならないな。いくら可愛くても元が男だって知っているんだし好きの対象にはならない。それなのに元が男だったと知れ渡っている僕にこうも告白ラッシュが襲来してきたのは如何なる事情があるのか。究明してみたい気分だ。


「可愛いからだろ」

 イケメンくんがもっともな説を出してくれた。確かに可愛い。


「可愛かったらそれでいいの?元が男だったとか関係ないの?」

「そういった事が無かったことにできるくらいお前さんは可愛いって事だよ」

 そうなの?でも、イケメンくんはいつもの通りだ。さすがに女の子に慣れているだけの事はある。


「安心したよ」

「なにが?」

「だって、もし君までもが同じように取り乱していたらと思ったらさ」

「はははははっ、俺だって最初お前さんを見た時は驚いたさ。噂には聞いてたけど実際見てみたら想像以上に美人だったんだからな」

 イケメンくんまでもが驚く美人さんだったんだ。自分の事だから過小評価していたのかもしれない。しかし、ナルシストじゃないんだから自分の容姿に己惚れないのは人間として持ち合わせるべき最低限の節度だ。


「で、どうする気だ?」

 僕の傍らに置いてある手紙の山を見てイケメンくんが問う。


「どうしよう」

 返事を書くべきかな?そうだ、イケメンくんに訊いてみよう。こういう手紙なら女の子からたくさんもらっているはずだ。まさか、こういう質問をするなんてついこないだまで想像すらできなかった。贅沢を言わせてもらうと男からじゃなくて女からの手紙に対してどうするべきか訊きたかった。


「俺?俺は返事なんか書いたことねえな」

 そうなの?


「だって、付き合う気なんかさらさらねえもん」

「でも、それだったら断りの返事を書かないと出した人に失礼にならない?」

「面倒くせえじゃん」

 これがモテモテの域に上り詰めた男の境地か。彼の周囲には大抵女の子たちがいる。だから、女の子に慣れすぎているのだ。一方、ごく一般の男子高校生は女の子からそういう手紙をもらうのは高校生活で一回あるかどうかなので、もらったらすごく舞い上がってそして友達からボコられることになる。


「じゃ、僕も返事を書かなくても…」

「いいんじゃね」

 うーん、しかしね……。やはり、出した人の心情を考えるとね。


「そんなに真剣に考えることじゃないだろ。お前さんの見た目に騙されて心を奪われてしまうような軽薄な奴らのことなんかよ」

 ちょっと、その言い方はやめてくれない?言っている事は正しいと思うよ。でも、もう少し言い様があるんじゃない?


「やっぱり返事は書くよ。そんなに多くはないからね」

 それが一番だと思う。


「お前さん、まさかそれだけで済むって思ってんのか?」

「え?」

「呆れたね。それだけで済むはずないだろ。これからもずっとラブレターをもらう事になるぞ」

 ラブレター…あんましそういう表現は使いたくなかった。男からラブレターなんて男だった僕からしたら悍ましいだけだ。


「じゃ、どうしたらいいのさ」

「男をつくれば一発で解決するぞ」

「やだ」

「男でなくても女でもいいんじゃないか?」

 女の子か。どっちかと言うとそっちの方がいいな。でも、女の子同士って…。そういう人たちがいるってことは知ってるけどさ。それって少数派じゃない?


「いや、お前さんなら女すらも虜にするだろうね」

 ……嬉しいようなそうじゃないような。


「まあ、俺から言えることはあまり気にしすぎるなってことだけだ」

 女の子たちからもそう言われた。僕って考えすぎなのかな?でも、こういうのって安易に考えるのもどうかとも思う。結局、自分で考えるしかないか。


「うーん」

 返事書いて終わるならそれでいいんだけど、イケメンくんが言うにはどうもそれだけでは済まないっぽい。僕は女の子にラブレターはおろか手紙すら出したことがないのでわからない。


「うーん」

 元々よろしくない頭だからか中々良い案が浮かばない。これ以上一人で考えても良い案が浮かばないと見切りをつけた僕はやはりイケメンくんの意見もほしいと彼の方をふと見上げた。僕が座っていたのに対して彼はずっと立ったままだ。すると、僕と目が合った彼は慌てて視線を逸らした。


「?」

 彼がこうも慌てるとは珍しい。僕がきょとんとしているとイケメンくんはコホンとわざとらしく咳をした。


「すまん、俺用事を思い出した。じゃな」

 そう言い残して彼はそそくさと立ち去った。


「どうしたんだろう」

 彼は僕以上にこの場所を安らぎの場にしていた。いつも、チャイムが鳴るギリギリまでここにいるのだ。その彼が僕より先に立ち去るなんて。よほど重要な用事なのか。うーん、相談しようと思ったのに。やはり一人で考えるしかないのか。


「女の子と付き合う…か」

 付き合っている人がいたら告白されることもない。男が無理なら女の子と。他に妙案も浮かばないのでイケメンくんの案を採用してみるか。


 ------

 教室に戻った僕は重大な見落としをしている事に気づいた。そう、誰に頼むかだ。生まれてこの方、女の子と話した事など皆無に等しい。どう切り出せばいいのか。しかも、女の子が女の子に付き合ってと言うのだ。まともな神経じゃない。


「うーん」

 どうしたものか。自分の机で悩んでいると女の子たちが集まってきた。


「どうしたの?」

「え?あ、いや、別に…」

 悩み始めてすぐに声をかけてきたことに僕は戸惑った。誰かに気をかけてもらうなんて本当になかった人生だったから。だからか、つい身構えてしまう。そうか、これが僕と皆との間に見えない壁をつくっていたんだな。仲良くなりたいと思う反面、そんな事は有り得ない、期待して裏切られるのが怖いという恐怖心もあって自分から歩み寄ろうとはしない。いつの間にか僕が気づかないうちに他人が僕を忌避しているんじゃなくて僕も他人を忌避するようになっていたんだ。てっきり、僕は他人が僕を忌避しているのに合わせているだけかと思っていた。双方が壁を作っていたら、そりゃ片方のみが壁を壊してももう片方の壁が残ってるんだから双方の距離が縮まるわけはないな。


「聞いたわよ。いっぱい告られたんだって?」

「う、うん……」

「大変よね。まあ、あんたみたいに可愛い娘だったら私も告りたくなるわね」

「え?」

「そうそう、こんな可愛い娘を男の汚い手で穢されるくらいならってなるわよ」

「いっそのこと、私と付き合わない?」

「ええーっ?」

 いきなりの申し出に僕は両手を挙げて驚いた。僕が言おうか言わないか迷っている事をあっさり口にしてくれたのだ。元がどうあれ、見た目女の子が女の子に付き合ってと言ったら、「やだ、キモい」とか言われて元のキモキャラ生活に逆戻りするんじゃないかって懸念していたのに、どうもそれは杞憂っぽいようだ。


「あー、ずるいぞ抜け駆けなんて。私だって」

「この娘は誰にも渡さないわよ。この娘は私の嫁になるんだから」

 え?僕が嫁なの?女の子たちが僕を取り合っている。夢じゃないだろうか。知らない人が見たら、僕がついこないだまで女の子たちからキモたがれていたなんて思いもしないだろう。僕だって信じられない。


(もう、男に戻れなくてもいいかも……)

 つい、そんなことを考えてしまう。実際、博士が見つからないかぎり男には戻れないんだが。


「あ、あのさ…」

 僕はイケメンくんのことは出さずに男子からの告白を根絶するために女の子と付き合うという案を伝えた。


「いいんじゃない?あなたがレズってわかったら男も言い寄ったりしないでしょ」

「え?レ、レズ?」

 そうか、女の子同士だったらそうなるのか。でも、レズって……。


「大々的に発表したら?私は女の子にしか興味がありませんって」

 確かにそうしたら男子からの告白が根絶できるか。でも、レズという風評が流れるのも……。


「別に恥ずかしいことじゃないわよ。愛なんて人それぞれなんだし」

「で、でも……」

「ああもう、じれったいわね。そんなに固くなることはないって私が教えてあげる」

 そう言うと彼女は僕の両肩に手を置いて顔を近づけてきた。


「あの……んっ?」

 間近に女の子の顔が迫ってドキドキが抑えられなくなった僕が何かを言おうとした途端に唇を唇で塞がれた。塞がれていたのはほんの一瞬だったが、それだけで僕は足先から顔まで真っ赤になってしまった。


「もしかして初めてだった?」

 頭がのぼせてしまっていた僕は反射的に頷いた。初めてのチュウが、自分には未来永劫訪れないだろうと諦めてた女の子とのチュウがまさか実現するなんて。こればっかはたとえ美少女になったとしても無いとばかり思っていたのに。しかし、女の子ってこういうのに抵抗がないんだな。いや、この娘が特殊なだけか。その証拠に他の女の子たちは「えーっ大胆」ってな顔をしている。


「これであなたと私は恋人同士よ。もう男どもに追い回される心配はいらないわ」

 やったぁ初彼女ゲットだ。って、素直に喜んでいいの?これって……。

なんか話が妙な方向に行ってしまいましたね。

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