表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第五話


 アリシアの前には2人の男女が立っていた。


 出会ってまだ、一日と立っていない2人の男女。シュラウドとレイネだ。


シュラウドは右手に黒刀を握りながら泰然と立っている。顔は前をむいているから見えないが、初めて会った時のように冷徹な目をしているのがアリシアには雰囲気でわかった。


 シュラウドの後ろにいるレイネは心配そうな顔で近づきアリシアの手を優しく握る。


「アリシア……大丈夫?」


「私は大丈夫だレイネ」


 優しく握るレイネ手は暖かく、気持ちを落ち着かせる。自分を心配そうにみるレイネの表情にアリシアは愛らしさを感じる。

 

 出会ってまだ、一日もたっていないというのにアリシアはレイネに慈愛という感情を抱いていた。


 レイネを初めて見た者は彼女を美しい人形のような少女というだろう。シミ一つない白雪の肌、どの部分を抜き取っても最高のものだと思わせる美貌。そして、まるで感情を持ち合わせていない表情を見てそう思うだろう。


 事実アリシアもシュラウドばかりに意識が言っていたが、レイネを初めてみたときそう思ったのだ。しかし、レイネと話してみると彼女がちゃんと感情を持っていると分かったのだ。レイネは感情の表し方を知らないだけで、みんなと同じようにいろんな感情を持っている。


 人は成長の過程で感情の表し方を身に着けていく。それは周囲の影響が一番大きいだろう。


 レイネが感情を顔に表せなかったのは環境のせいなのではないか……


 どんな環境で育ったのかは聞いてはいない。


 いや、聞いてはいけないのではないかと……


 なぜかそう思ったのだ……

 

 アリシアはレイネには純粋なままでいてほしいとおもっているが、それは無理だろうとも思っている。


 世の中は綺麗なものばかりではない。むしろ、汚れている。世の中で生きていけばおのずと心が荒み汚れを纏っていく。


 それでもアリシアはレイネには純真無垢のままでいてほしいと願う。


 それはアリシアが、自らが穢れを纏っているためそうねがうのかもしれない。




「なんだお前は!魔法を剣で斬るなんて」


 赤マントの男が戦慄わななくように声を上げる。


(剣じゃなくて刀だけどな)


 シュラウドは赤マントの男を無視して、周囲を見渡す。


 斬られて血を流す盗賊の死体。盗賊とは別の鎧を着た男が2人血を流し倒れていて、他には焼け焦げた死体が2人分転がっている。


 アリシアは怪我一つないがレイネが心配そうに付き添っている。


(アリシアは無事か。あとは……)


 シュラウドの視線の先にはテリーが少女をかばって一緒に倒れこんでいる。2人は盗賊が流した血で汚れていた。


(死んではいないな)


 2人とも気絶しているようだ。シュラウドは赤マントの男の魔法を切り裂いたが、炎の渦から生まれた熱風の余波まで防げたわけではない。


「おい!俺を無視してんじゃねーよ!」


 赤マントの男が自身の魔法を切り裂かれたという驚きと恐怖を打ち消すように声を荒げて叫ぶ。


「黙れよ。三下が」


「な!」


「お前のちゃちな魔法などなんてことはない」


 三下と馬鹿にされてプライドを傷つけられた赤マントの男は俯き、肩を怒らせる。


「俺が三下だとー……いいぜ……おまえ。ぶち殺してやる。まぐれで魔法を切り裂いたくらいで!」


 そう激昂して、火焔石の埋め込まれた杖をシュラウドに向け、魔法を発動させる。


「燃えちって死ねや~~」


 男は怒りでさきほどの魔法を斬られた驚きと恐怖を消すかのように激情し、複数の火の玉を生み出しシュラウドに向けて放つ。


『ファイアーボール』


 火属性の下級魔法だが、詠唱無しで発動できるため好んで使われる。赤マントの生み出した火の玉は火焔石で増幅され、通常のものより倍以上で人くらいの大きさがあり、それが複数個シュラウドに向かってくる。


「シュラウド!」


 アリシアが叫ぶ。


(火焔石か!よくそんな高価なものを……。躱せば後ろの2人にあたってしまうな)


 シュラウドは黒刀を両手で握り前で構える。


 向かってきた火の玉を上段から切り裂く。


「「「!」」」


 テリーとマルゴット、アリシアが驚くが、シュラウドは気にせず、向かってくる2個目の火の玉を横から切り裂く。


 そのまま前進して向かってくる火の玉をすべて切り裂く。


「ハッ」


 切り裂いた火の玉の熱があたりに散る。


 シュラウドは右手で握った刀を赤マントの男に向ける。


「舐めやがってー」


 男はそれを挑発行為と受け取ったのか激昂し、早口で呪文を唱える。


 男は笑みを浮かべ魔法を発動させる……


 炎が発現し、竜の顎の形をとろうとするが迫っていたシュラウドが男と一緒に斬りさく。


 ブシュッ


 赤マントの男は右肩からななめ左に斬られ血を吹き出しながら倒れる。その際かぶっていたフードがめくれ顔がさらされる。やややつれた頬した男だ。顔の左側には刺青が彫ってある。


(コイツ……やはり)


「どうして……殺さない」


 血がドクッドクッと男の体からあふれる。


「お前には少し聞きたいことがある」


 何が聞きたいと、目で問いかけるが、その目には何も言う気はないと物語っている。


「お前は『笑う死神』の生き残りか?」


 だが、シュラウドは問いかけた。


 その眼差しは非常で冷酷で、見た者を身震いさせるものだが、シュラウドをみていたアリシアにはなぜか体を熱くさせるものになる。


 赤マントの男はシュラウドの冷たい眼差しに身震いしながらも引きつるような笑みをみせる。ひきつっているのはシュラウドの眼差しで体が硬直したためだ。


「……そうか。答える気はないか。ならば、死ね」


 黒い刀の刃を男の喉にあて、いう。


 手に力を込め、刃を突き立てようとすると


「待ってー!!」


 その叫びでピタリと手を止め、声のほうに顔だけを向けて睨む。


 そこには少女がいた。マルゴットだ。


 さきほどまで気絶していた彼女はいつの間にか起きていた。


 何だと、言おうとして口を開くが彼女の手にあるものを見て口を閉じた。彼女の手にあるのは盗賊が使っていた反りの付いたボロい剣だ。


「その男は私に殺させてください」


 彼女の瞳が憎しみに囚われていることにシュラウドは気づいた。


「マルゴット様!いけません!」


 彼女の後ろから騎士のテリーがやってきて彼女をとめようとする。


「その男はリーネを……」


「だからといってマルゴット様が手を汚す必要はありません。自分がやります。自分もリーネと仲間を殺されて頭にきています」


 テリーは拳を強く握りしめ、唇を噛みしめるように言う。


「いいえ。だめです。私がやらないといけないのです……」


「マルゴット様!」


 テリーの説得にも頑なに応じず、自分の手で殺すと言うマルゴットにシュラウドは赤マントの男の喉元に突き立てようとしていた刀を鞘に納め、言う。


「なら、殺せばいい。お前にとって、とても大事な人がコイツに殺されたんだろ?」


「……そうです。大切な人を……リーネを……」


 彼女にはそうしてもその先が言えずにいた。リーネが死んだという現実を拒みたいかのように……


「なら殺せ。そのリーネとかいうやつはあそこに転がってる焦げた肉塊のどちらかだろう。あんな無惨に殺されたんだ。憎んで当然だ。だから、殺せばいい」


 その言葉にマルゴットは怒りを滲ませてシュラウドを睨み


「あ、あなた!よくも、よくもそんなこと……肉塊だなんて。よくもそんなひどいこと」


 声を荒げていう。怒りで全身が震え、肩を怒らせる。


「シュラウド!いいすぎだ!」


 アリシアが窘める。


「き、貴様ー!」


 テリーは怒りからシュラウドに斬りかかる……


「はぁー」


 シュラウドは胴に素早い蹴りを入れ、テリーを蹴り飛ばす。


「ぐあっ」


 テリーは活きよいよく後方へ飛ばされて気絶する。


「どうした。殺さないのか?」


 シュラウドはなにごともなかったようにマルゴットを見る。マルゴットは剣を強く握り、倒れている赤マントの男に立ち剣を振り上げ、思いっきり振り下ろすが………途中で手を止める。


「憎い、憎いのに……どうして……」


 マルゴットは憎くて仕方がないのに赤マントの男を殺せない自分に歯噛みする。


 なぜ、殺せないのかはわかっている。以前リーネが憎しみと戦える強い人になってほしいといっていた。マルゴットの心にはその言葉が深く刻み込まれているのだ。


 そこにアリシアと一緒にいたレイネが、マルゴットに近づき、男を刺そうと握られている手に触れて、やめさせる。マルゴットは突然自分の手に触れてきたレイネに驚いて彼女をみる。その負の感情など浮かんでいない純粋で強く、優しげな茶色の瞳にマルゴットの心は貫かれ。マルゴットは瞳から涙を流しながらレイネの純真無垢な瞳を見続ける。


 マルゴットはレイネの瞳を見ながらなぜか昔のことを思い出していた。それはリーネが生きていたときの優しい思い出の記憶。鮮明に浮かんでくる、その記憶に、さらに涙をあふれさせる。

 

 その記憶の中ではリーネが自分に優しげな表情で笑いかけている。


(あぁ………リーネ……リーネ……)


 マルゴットは溢れ出てくる、どうしようもない思いに、堪えきれず声を上げて泣く。


 そんなマルゴットをレイネは何も言わずに優しく抱きしめる。それをアリシアはなんともいえない表情で見つめ、シュラウドはただ無表情に彼女たちを見つめる。



 実はマルゴットはこの国の国王たるダグラス王の娘なのだ。だが、国王ダグラスとフローラ女王の間に生まれたわけではない。

 ダグラス王にはハンター時代に惚れていた女性がいた。その女性の名はアナスタシア。ダグラスと同じチーム『栄光の剣』の女剣士で、気が強く目つきが鋭いが、子供好きで、なにより強く美しくどんな危険な状況でも決して諦めない芯の強いところにダグラスは惹かれていた。

 ヴァルバ王国に迫った大群の魔物から、国を守ったことで英雄となったダグラスは、国王の娘のフローラと結婚した。国王は王家の血にダグラスのような強いものの血を求めたのだ。ダグラス自身も野心を持っていた。

 いや、誰とて国王になれるのならそうなりたいと願うだろう。アナスタシアを愛していたが、野心とハンターに対する偏見などに不満があったダグラスは、フローラとの婚姻を決めたのだ。

 だが、アナスタシアへの強い愛から彼女との間に子供ができた。

 それがマルゴットだ。

 マルゴットには王家の血が流れていないため王女とは認められない。なにより妻であるフローラと貴族たちを恐れたダグラスはアナスタシアとマルゴットを信頼のおける者にまかせ王都から遠ざけようとヴァルバ王国の北に位置する山に囲まれた田舎コザン村に住まわせた。

 マルゴットはそこでリーネと出会い姉妹のように育った。マルゴットが7歳のときに母であるアナスタシアが亡くなり、マルゴットは愛情をリーネに求めるようになった。

 

 マルゴットにとってリーネは友だとであり、姉であり、母のような存在なのだ。だが、殺された。赤マントの男に無惨に殺された。


 そんな残酷な現実に、男を殺せない自分に打ちひしがれながら、レイネの胸の中で泣きつづける。



 シュラウドはマルゴットから空に目を向けると、夜空には大きな月が少女の鳴き声に呼応するように輝いていて、小さく輝く星々があたり一面に散りばめられているのが見える。


「そろそろ帰るか」


 夜空を見上げながら言う。


「それは賛成だが、その男はどうする?殺すのか?」


 地面に倒れている男を見やりながらアリシアがシュラウドにかえす。その言葉に反応してマルゴットがレイネの胸にうずめていた顔を上げた。


「この男か。コイツはもう死んでるさ」


「え!」


 アリシアもマルゴットもレイネも驚く。アリシアは男のそば片膝をつき、男の首元に手をあて脈を図る。


「死んでいる」


 ホッと息をついたアリシアは、それだけをマルゴットに言った。


「これでお前はコイツを殺せなくなったな。いや、そのほうがお前にとってはよかったか」


「シュラウド。貴公は意地が悪いな」


 アリシアはシュラウドを軽く睨む。


「そう……かもしれませんね」


「ん?」


 シュラウドはどこか肯定するようにいうマルゴットを不思議そうに見る。


「その人は憎いです。とても……とても憎いです。……けれど、リーネは私が人を殺すことを望まなかったでしょう。リーネはどんなことがあろうと人を殺さない強い人でした。私も彼女のようになりたい。」


 彼女は濡れた瞳でシュラウドの瞳を見つめる。その瞳には強い意志が灯っているようにシュラウドにはみえた。


「そうか。なんでもいいさ。俺はさっさと帰ってベットで寝たいんだが」


「そうだな。それには私も賛成だが、この場をどうするべきか」


 アリシアは周囲を見回す。盗賊とマルゴットの仲間たちの死体がある。


「あの馬車に大事な者と、赤マントの死体だけ積んで、あとは魔物にでもくわせてやればいい」


 シュラウドは気絶してる青年のもとへいき蹴り起こす。


「っ!なんだ!」


「なんだじゃない。とっとと起きろ」


 シュラウドたちの行動は早く、馬車に死体を積み、みんな乗り込み王都へと向かう。


「あ!シュラウド。荷車置いてきちゃったね」


 王都に向かう途中の帰り道にレイネの言葉を聞き、しまったと、言いながら顔を顰める。


 帰り道を夜空に浮かぶ月の明かりだけが照らしす。

技名が思いつかない。誰か技名を一緒に考えてくれんかなー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ