スクラップーⅠ
「いってて……何が起きたんだ?」
頭痛で目を覚ました。空間内は狭く、首を動かすと壁に後頭部が当たる。体育座りのような態勢で目を覚ました神浦は、気が気でない様子になる。
「は?」
暗い空間の中で先程のことを考える。画面に引き摺り込まれた、そこだけしか覚えていない。無機質な手が伸びて、画面が光った瞬間、暗闇へと誘われた。そして、気がついたらここに閉じ込められていた。
「なんか鉄臭いし錆び臭いし……ってそれはいつも通りではあるが……にしても狭いし、ゴミ箱の中のような……」
神浦は箱にすっぽりと収まっており、かろうじて息ができる極狭の空間。狭いが酸欠はしていないことから、そこまで時間も経っていないようであった。
箱から脱出するため上を見て右手で開けようと触ってみるが動かない。錆でざらついていた。冷えた鉄板の冷気が右手から血流越しに伝ってくる。作業着越しでもすぐに体温が奪われていくような感覚を覚える。
「さむ、上の蓋開かねえのかよ。もしや拉致られたのか……クソ! 開けてくれ!!」
助けを求めてみるが反応はなかった。初めての誘拐だということに益々焦る神浦は、額に汗をかき始める。
激しく体を横に揺さぶって打ち付けた。箱が動いている気がした。揺れ動かせば開くような気配がした神浦は、勢いをつけようともう一度同じようにやってみる。
ゴミ箱は倒れ、上部の蓋が開き神浦は出ることに成功した。
「あいたた……え……」
鉄屑入れ『ゴミ箱』から這い出た神浦は、地面に向けていた視線を正面へと上げてみると、目に入る光景に心臓を鷲掴みにされたのだった。
神浦は呆然とする。これまで見てきた世界とは違う、全く異なる異世界のようだった。
巨大な工場内。鉄と煙の匂いが鼻を突く。
見たことがあるようでない、工場内の様相。
都市化されたその工場はインフラが整備され、剥き出しの配管やら構造物がオブジェのように乱立していた。
配管から白い煙が出れば、所々で配線が火花を出してスパークしている。退廃的な様子に美しさを感じた。しかし、神浦は違和感を覚えていた。最適化されているように見える巨大な工場環境は、どこか寂れていて人気を感じなかったのだ。
外から壁面に亀裂が入ったところから吹雪が舞い込み、冷気が地面へと伝っている。
「とりあえず、拉致ではなさそう……?」
感動を覚えた間も無く拉致でなさそうなことから心から安堵する。助けを求めるため周囲を見渡した。
近くにはスクラップが山ほど積み上がり、積層技術を使ってドローンのような小型機を製作している据置アーム型ロボや、ベルトコンベアで製作された小型機を移動させるアンドロイドが居たりと、忙しなく動いていた。
工場の作業エリアの壁面を見れば、ドローンが巨大な配管を溶接して繋ぎ目を補修していたり、何やらディスプレイ画面で表情を出し合いながら会話しているように見えた。
無人機で自律した機械の姿は、人間のようなコミュニティを獲得し、独自の世界観を創り出していた。
「スクラップから機械を自ら造っているとでもいうのか……それも人間のような素振りで……」
神浦は感嘆する。革新的なアイデアと技術で出来上がった工場都市の壮観さ、そしてそれが機械自身によって編み出され造り上げられた事実を認識すると、脳を銃弾で撃たれたような衝撃が走る。
圧倒的な物質量が、叡智の結晶がそこに在る。機械が集団として存在し、互いを育んでいたのだ。心が少年のように湧き立つのと同時に、不安も湧き起こる。
「この場所は、一体――?」
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