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最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第4章 血牙と地上の夜

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第049話 落ちない梟

 夜狩り梟を待つ前に、右の翼を治した。


 集落が狩った角兎の血をもらい、黒巣で一度眠る。


 深かった二本の爪痕は薄い線になった。


 翼を強く開いても、もう血は出ない。


 次の夜、フィナと北の森へ向かった。


 罠を張る場所は、夜狩り梟の巣から少し離れた細道だった。


 左右に太い木が並び、上では枝が重なっている。


 翼を広げて通れる場所は、中央に一本しかない。


「ここなら上から回れない」


 フィナが木を見上げる。


『俺も飛びにくい』


「ミナトは先に入って、枝へ掴まれる」


『追いつかれたら』


「その前に落とす」


 簡単に言う。


 フィナは集落から運んできた網を広げた。


 角兎を飼う檻の上に使っていたものらしい。


 縄は太いが、大梟の爪なら切れる。


 切る前に地面へ落とす必要がある。


 網の両端を、しなる若木へ結ぶ。


 枝を曲げ、細い縄で固定する。


 中央の縄を引けば、二本の若木が戻って網を持ち上げる。


 地面へ落とす罠ではない。


 飛んできた相手を、左右から包む罠だった。


「問題は、あそこを通らせること」


 フィナが道の中央へ角兎の死骸を置く。


 血は抜かれている。


 匂いが弱い。


 俺は自分の牙へ血を一滴集めた。


 傷を作らず、体内に蓄えた血だけを出す。


 滴を角兎の毛へ落とす。


 もう一滴。


 三滴目で、頭の奥が重くなった。


「それだけ?」


『今は』


「血の魔法って、もっとすごいと思ってた」


『俺も思った』


 フィナが笑いかけ、すぐ口を閉じた。


 俺が血牙魔蝙蝠になってから、牙が見えるたび少し身構える。


 話せることと、近づけることは別らしい。


 角兎へ俺の血の匂いがついた。


 夜狩り梟は、俺の匂いを覚えている。


 死骸だけでは足りなくても、これなら来るかもしれない。


 フィナは罠の横にある茂みへ入った。


 手元には、網を動かす縄がある。


「合図は?」


『俺が鳴く』


「音を吸うんじゃなかった?」


『お前には聞こえる』


 大梟を倒すための音撃ではない。


 フィナへ網を上げる瞬間を伝えるだけなら、普通の鳴き声で足りる。


 俺は死骸の上にある枝へ掴まった。


 夜が深くなる。


 虫の音が少しずつ減り、遠くで小型の魔物が地面を走った。


 大梟の羽音は聞こえない。


 何度か鳴いて、周囲を確かめる。


 柔らかく滲む大きな形は返ってこなかった。


 角兎の血が冷えていく。


 フィナが茂みの中で姿勢を変えた。


 葉が小さく擦れる。


『動くな』


「脚が痺れた」


『食われる』


「分かってる」


 声は小さいが、不満だけは消えていない。


 さらに待った。


 月が枝の間から外れ、道が暗くなる。


 頭上の小鳥が、一斉に飛び立った。


 羽音が森へ広がる。


 その中に、大梟の音だけがない。


 熱感知へ意識を向ける。


 木々の上を、大きな熱が横切った。


 一度通り過ぎる。


 罠へ来ない。


 俺たちの匂いを確かめるように、遠くを回っている。


 もう一度、熱が現れた。


 今度は低い。


 角兎の死骸へ向かっている。


 俺は枝から飛び、中央の道へ出た。


 夜狩り梟の頭がこちらへ向く。


 死骸ではなく、俺を見た。


 大きな翼が畳まれる。


 急降下が始まった。


 俺は罠の中央を抜け、奥へ飛ぶ。


 背後から風が迫る。


 網の間へ入った。


 もう少し。


 俺が鳴こうとした瞬間、夜狩り梟の翼が開いた。


 中央の道へ入らず、片方の木へ爪を立てる。


 幹を蹴り、横から茂みへ向きを変えた。


 フィナがいる場所だった。


『右へ逃げろ』


 フィナが茂みから転がり出た。


 直後に、夜狩り梟の爪が葉を切り裂く。


 隠れていた場所へ太い脚が入り、地面ごと掻き上げた。


 フィナは起き上がらず、手に持っていた縄を引く。


 曲げられていた若木が戻った。


 網が左右から持ち上がる。


 夜狩り梟の片翼を包み、体が空中で傾いた。


 落ちる。


 そう思ったが、大梟は残った翼を広げた。


 網を引きずったまま木の幹へ爪を立てる。


 太い縄が張り、若木の片方が根元から裂けた。


 網が緩む。


 大梟の嘴が縄を一度挟んだ。


 切れた縄が跳ね、網の半分が地面へ落ちる。


「もう切ったの?」


 フィナが立ち上がる。


 大梟の眼が、その動きを追った。


 俺ではない。


 罠を動かした相手を先に狙っている。


 幹から爪が離れた。


 フィナへ向かって落ちる。


 俺は横から飛びついた。


 首へ牙を入れようとしたが、厚い羽毛に埋まる。


 皮まで届かない。


 大梟が首を回す。


 嘴が顔の横を通り、耳の端を裂いた。


 離れず、羽毛の中へ頭を押し込む。


 血の匂いを探す。


 翼の付け根に細い血管がある。


 牙を立てる前に、大梟の体が回った。


 背中から枝へ叩きつけられる。


 爪が外れ、地面へ落ちた。


 大梟は追ってこない。


 フィナへ向きを戻している。


 あいつは、俺が罠へ誘ったことを理解しているのかもしれない。


 それでも、飛べない相手から先に殺す。


 考えていることは、それだけでも足りる。


 フィナが短い刃を抜いた。


 大梟へ向けるが、あの爪を受けられる長さではない。


「ミナト、もう一回!」


 何をするか聞く余裕はなかった。


 俺は大梟の頭へ音撃を放つ。


 音が羽毛へ散る。


 眼が閉じ、急降下がわずかにずれた。


 フィナは避けず、地面へ残っていた縄を切った。


 罠を支えていたもう一本の若木が跳ね上がる。


 枝先が大梟の腹へ当たった。


 大きな体が横へ流れ、翼が木へぶつかる。


 今度は落ちた。


 俺は地面を蹴る。


 大梟が起き上がる前に首へ行く。


 だが、片方の翼が土を払った。


 風と枯れ葉が顔へぶつかる。


 視界が塞がれた間に、大梟の爪が胸へ入った。


 体を掴まれ、持ち上げられる。


 四本の爪が毛の中へ沈む。


 今度は翼ではない。


 締められるほど息が出ていく。


 俺は脚へ牙を立てた。


 前に傷つけた方だ。


 固まった血の下へ牙が入り、温かいものが流れ込む。


 大梟が脚を振った。


 爪から外れ、地面を二度転がる。


 吸えたのは一口だけだった。


 それでも、胸に開いた傷へ熱を回す。


 止血する前に、大梟がまた飛び上がった。


「こっち!」


 フィナは細道の外へ走っている。


 逃げる先には、低い岩が重なった場所がある。


 俺も地面すれすれを飛ぶ。


 大梟は追ってきた。


 頭上の熱が近づく。


 岩の隙間へフィナが滑り込んだ。


 俺も翼を畳み、その横へ入る。


 太い爪が入口へ届いたが、肩より奥には来ない。


 石を二度掻き、やがて引いた。


 外で羽が動く。


 音はほとんどしない。


 しばらく待つと、熱も遠ざかった。


 フィナは短い刃を持ったまま、岩へ背をつけていた。


「見られてた」


『お前が動いた』


「脚が痺れたんだから仕方ないでしょ」


『それで見つかった』


「分かってる」


 返事が強かった。


 俺もそれ以上は言わなかった。


 胸から血が滲んでいる。


 さっき吸った一口を使っても、四本の傷すべては閉じない。


 フィナの腕にも、枝で切った細い傷がある。


 罠を作った時より、二人とも血の匂いが濃くなっていた。


「同じ罠は、もう無理」


『最初から見ていた』


「たぶんね」


 フィナは切れた縄の端を握っている。


 そこに、灰色の羽が一枚絡んでいた。


 大梟が網を破った時に抜けたらしい。


 指で撫でても、羽はほとんど音を立てない。


「こっちが待つ場所を作ったから、見つかった」


 フィナが羽を見ながら言う。


「次は、あいつが待つ場所へ行く」


 岩の外は静かだった。


 夜狩り梟は去ったのか、音を消して待っているのか分からない。


 俺たちが出てくる場所も、もう知られていた。

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