↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱コウモリ幼体に転生したので、血を吸って進化する  作者: HATENA 
第6章 魔境を拓く者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/119

第119話 羽の値段

 町へ着く前に、背負い籠の中で硬い羽が鳴った。


 一本ずつ布で巻いていても、薄い縁が触れると金属に近い音がする。


 灰灯苔の束へ食い込んでいないか、籠を下ろして確かめた。


 九本のうち一本は、根元に細い割れがある。


 二つの嘴も、片方の先が欠けていた。


 倒すために岩へぶつけた方だ。


 売れる形を残すために戦ったわけではない。


 それでも、値段は下がる。


 割れた羽だけ包みを分け、町へ向かった。


 東門の衛兵が、籠から出た黒い先を見る。


「何だ、それ」

「鎧羽ガラス」

「一羽分か?」

「二羽」

「依頼で?」

「違う」


 登録証を見せる。


 深緑の縁を確かめた衛兵は、俺の左腕へ視線を移した。


「二羽とも一人でやったのか」

「三人」

「残りは」

「経路にいる」

「町へ入らないのか?」

「入れない」


 衛兵の眉が動いた。


 それ以上は聞かれず、門の記録板へ鎧羽ガラス二羽と書かれた。


 正確な場所と、経路にいる二人のことはギルドで話す。


 市場へ向かわず、先に冒険者ギルドへ入った。


 昼を過ぎた受付には、依頼帰りの冒険者が並んでいる。


 濡れた革鎧と、薬草と、乾いた泥の匂いが混じっていた。


 籠を壁際へ置く。


 ネラが受付の向こうから、黒い羽を見つけた。


「依頼票は?」

「ない」

「持ち込みだけ?」

「報告もある」

「怪我の報告ですか」

「鎧羽ガラス」

「見れば分かります」

「二羽いた」


 ネラが開きかけた帳面を閉じた。


「場所は?」

「非公開経路の北」

「町から何日ですか」

「歩いて一日より少し」

「街道に出ますか」

「今はいない」

「今は?」

「二羽とも倒した」


 後ろに並んでいた男が、籠を覗こうとした。


 俺が体をずらすと、男は何も言わず列へ戻る。


 ネラは報告卓を指した。


「素材も持ってきてください」


 籠を運ぶ。


 羽の包みと二つの嘴だけを取り出し、灰灯苔は中へ残した。


 ネラの前に、硬い羽を九本並べる。


「討伐したのは、いつですか」

「昨日の昼と夜」

「同じ場所で?」

「最初は割れ角岩」

「地名ですか」

「集落でそう呼んでる」

「集落?」


 筆が止まる。


「経路にいる人たち」

「種族と人数は?」

「町への危険はない」

「それを決めるのはセインさんではありません」

「場所は出さない登録にした」

「登録した経路から町へ危険が出た時は、別です」

「鎧羽ガラスは町へ来てない」

「荷置き場には?」


 答えるまで、ネラは筆を動かさなかった。


「血吸いコウモリを一匹取った」

「飼っているんですか」

「勝手に住んでた」

「人は襲われましたか」

「襲われてない」

「家畜は?」

「いない」

「二羽の巣は?」

「見てない」

「雛や卵は?」

「なかった」


 ネラが書いた行を読み返す。


「ねぐらにしていた可能性はあるが、繁殖巣は未確認」

「そう」

「同行者は二人?」

「昼は二人と。夜は一人と行った」


 ネラは紙の途中に線を引き、昼と夜の欄を分けた。


「では、二羽まとめてではなく、一羽ずつ聞きます」


 昼に二羽を見つけたこと。


 一度逃げたこと。


 肉と二つの罠で一羽を落としたこと。


 もう一羽を傷つけ、夜に追ったこと。


 名前を出さず、起きた順に話した。


「同行者の一人は、負傷した脚で戦ったんですか」

「走ってない」

「負傷していたことは否定しないんですね」

「槍を固定して使った」

「もう一人は?」

「短弓と縄」

「夜も弓を?」

「夜は持ってない」


 説明するたび、ネラの紙へ行が増えた。


「二羽とも、討伐依頼には出ていません」

「知ってる」

「依頼の完了数には入りません」

「素材は売れる?」

「先に危険記録です」

「もう死んでる」

「次の群れが同じ場所へ来るかもしれません」


 死んだら終わりではない。


 鎧羽ガラスが使っていた岩場は、そのまま残っている。


 別の魔物が空いた場所へ入ることもある。


「次に戻った時も見る」

「異常があれば報告してください」

「何もいなくても?」

「それは毎回でなくて結構です」


 ネラがようやく素材係を呼んだ。


 灰色の前掛けをした男が、羽を一本ずつ持ち上げる。


 指で曲げず、根元と縁を光へ向けた。


「八本は使える」

「一本は?」

「割れが深い」

「いくら」

「使える方は一本、銅貨三枚」

「割れた方は」

「銅貨一枚」

「嘴は?」


 男は二つを並べた。


「こっちは五枚、欠けた方は三枚」


 硬い羽が銅貨二十五枚。


 嘴が銅貨八枚。


 合わせて銀貨三枚と銅貨三枚になった。


「何に使う」

「外側を削って、小刀の背や籠手へ入れる」

「矢には?」

「重すぎる」


 フィナが聞けば、少し残念がるかもしれない。


 俺の分と、フィナの分は別の布に包んである。


 フィナの二本は、どちらも割れていない。


「二本分だけ分けて」


 素材係が銅貨六枚を別へ置いた。


 残りの銀貨二枚と銅貨七枚が俺の分になる。


 昨日までの所持金と合わせて、銀貨四枚と銅貨二枚。


 ネラは素材の受取札と、危険記録の控えを並べた。


「討伐ランクはDです」

「二羽なら?」

「地形と群れ方によっては、依頼全体をCで出します」

「三人で倒した」

「Eランクが受けてよい依頼だった、という意味にはなりません」

「依頼じゃない」

「次に二羽見つけた時、同じことをしないでください」

「荷置き場を使えなくなる」

「先に報告して、応援を連れていく選択もあります」

「報告してる間に、また一匹取られる」

「一匹で済まなくなるよりはいいでしょう」


 返事はしなかった。


 あの時、待てば残った六匹まで見つかったかもしれない。


 けれど、次も同じ形になるとは限らない。


 控えを受け取り、籠の中から灰灯苔を出す。


「これも売る」

「乾燥品ですね」

「六束」


 前と同じ量を量り、銅貨五枚になった。


 これは俺の金ではない。


 フィナの銅貨六枚とも混ぜず、別の小袋へ入れる。


 苔の売却札には、これまでの繰越が二束ある。


 今日の六束を足し、繰越は八束になった。


 十束分になるまでは、新しい運び賃は出ない。


「自分で決めた条件ですよね」


 ネラが木札を見る。


「そう」

「嫌そうです」

「二束足りない」

「次に運べば増えます」

「次が乾燥とは限らない」

「生でも一束は一束でしょう」


 札の端へ、八本目の線を刻んだ。


 ギルドを出る前に、依頼板を見る。


 夜道の護衛。


 農地へ入った角兎の追い払い。


 南の古い橋で途切れた荷の確認。


 受けられる札は増えている。


 左腕を上げると、布の下が引きつった。


 今日は取らない。


 片靴亭へ戻ると、ベッカが空の鍋を抱えて厨房から出てきた。


「二晩いなかったね」

「部屋はある?」

「金はもらってる」

「あと五晩」

「数えてるなら聞かないで」


 鍵箱から、俺の鍵が出てくる。


 ベッカは籠の中を見た。


「今度は何を持って帰ったの」

「今回は何もない。羽は売った」

「それで羽はないのに、怪我だけ増やして帰ってきたのかい」

「……そう」

「晩飯は食べるんだろ。血も要るのかい」

「食べる」

「血は残ってる?」

「豚なら」


 銀貨四枚と銅貨二枚から、銅貨二枚を出した。


 食事と血で一枚ずつ。


 残りは銀貨四枚になった。


 部屋へ上がり、扉へ鍵をかける。


 床へ三つの小袋を置いた。


 俺の銀貨四枚。


 フィナへ返す銅貨六枚。


 集落へ返す灰灯苔の銅貨五枚。


 ゴルナが預かった二本の羽は、合わせて銅貨六枚になる。


 洞窟兎の肉代を引けば、次に銅貨四枚を受け取る。


 古い文字表を開き、紙の端へ数字を書いた。


 六。


 五。


 四。


 誰の金か分からなくならないよう、横へ名前も書いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。