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魔女のための童話はない  作者: HoneyApis
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Ch.01 修道院の魔女 003

「戦闘聖職者試験についてご存知ですか?」


「なんとなくは。聖職者どもの頭に等級をつけて序列を決める試験じゃないのか?」


バンは大したことではないというように肩をすくめる。


「近いです。4級から1級まで、等級によって聖十字教から与えられる職責の重さが変わりますから。3級を取るだけでも、聖騎士団や異端審問官に入団するための最低資格は得られます」


「それなりに体系は整っているんだな。あの地位にいる連中を見ると、酒と黄金でその座に就いたのかと思っていた⋯」


バンが聖十字教を皮肉る言葉を口にしかけて、周りにいる修道女たちと子どもたちの様子を窺い、言葉の末を濁す。


「こほん、それで戦闘聖職者試験がどうしたというんだ?」


「数日前、カンディア教会で戦闘聖職者試験が行われ、アーサーは2級試験に応募しました」


「ふむ、見た目は幼そうだが、なかなか実力があるようだな」


バンは興味深い顔でアーサーが通っていった廊下を見やる。


「16歳での挑戦ですから、最年少の受験者です。アーサーの才能は、これまで私が見てきた子どもたちの中でも群を抜いて際立っています。まだ無理かもしれませんが、今すぐ1級試験を受けたとしても、運が良ければ合格できるレベルですよ」


「人の評価に誰よりも辛い君がそう言うのなら⋯。それで結果はどうなった?」


「保留です」


「まあ確かに、数日前に受けた試験の結果がもう出るはずが⋯」


バンはエドウィンの答えに何か引っかかるものを感じ、言葉を止める。


「保留?不合格じゃなくて、保留?」


「はい、保留です」


「結果が出ていないのではなく、結果を保留しているということか?理由は何だ?アーサーが試験で何か不正でもしたのか?」


「いいえ。アーサーは堂々と自分の実力で試験を受けました。そもそも実力が十分あるのに不正をする理由がありません。試験結果だけ見れば、今すぐ2級に昇格しても不思議はありません」


「⋯何かトラブルがあったんだな」


「はい。アーサーは試験が終わった後、試験を行った場所で先輩5人と喧嘩をしました」


「肝の据わったやつだな」


バンがくすりと笑う。


「それで子どもの喧嘩のせいで保留なのか?」


「単なる子どもの喧嘩なら、私がここまで来なくてもよかったはずです」


「神学校の生徒たちの喧嘩か⋯。まさか神性を使ったのか?」


「はい、そうです」


神性とは、聖十字教において光輝の恩寵と教えられる力だ。

それゆえ神性は、ひたすら光輝の栄光と御意のためにのみ用いるべきであり、決して路上の喧嘩で使ってよい奇跡ではない。

神性の誤った使用は光輝への侮辱であり、教団の律法によれば破門、あるいは処刑にまで至り得る重罪だ。


「⋯事件の概要から話してもらえるか?」


事態の深刻さを直感したバンが眉間を押さえ、エドウィンの声に集中する。


「⋯事件の発端は、2級戦闘聖職者試験が終わった直後でした。目撃者の証言によれば、アーサーの先輩たちがアーサーに絡んできたとのことです」


「理由は?」


「おそらく、チームワーク評価でアーサーだけが飛び抜けた活躍を見せたからでしょう。団体評価で一人だけ突出してしまうと、他のチームメンバーの個人評価は低い点数をつけられるものですから。落第の危機に追い込まれた先輩たちが、アーサーに責任を取らせたかったようです」


「⋯それで先に拳を振るったのは?」


「アーサーです」


「話がやっかいな方向にもつれるな⋯」


「しかし神性の呪文を先に使ったのはアーサーの先輩たちです」


「五人がかりで向かってきたというじゃないか。それなら情状酌量の余地があるんじゃないか?大勢が神性をまとって圧迫してきたなら、自分を守るために奇跡で応戦したと弁護できるはずだが」


「それも程度の問題です⋯」


エドウィンは目をぎゅっと閉じてため息をつく。


「アーサーが⋯先輩たちを全員叩きのめしてしまいました。正当防衛とは呼べないほど、徹底的かつ圧倒的に」


「⋯何?」


「子どもたちは全員意識を失った状態で手当てを受け、そのうちの一人はまだ目を覚ましていません。意識を取り戻した子たちも、しばらく治療を続けなければなりませんし」


「⋯先輩という肩書きをかぶっただけの愚か者どもだったわけだ。相手との格差も測れずに向かっていくとは」


バンが冷笑するが、エドウィンはそんなバンを見て首を振る。


「あの子たちもそれなりに有望株と呼ばれていた者たちです。あの年頃の一、二歳の差は埋めがたい格差なのですが、アーサーの才能が常識をはるかに超えていただけのことです」


「⋯それならアーサーの方が厄介だな。将来が嘱望される大切な子どもの背後には、いつも騒々しい親が控えているものだから」


「ええ⋯まさにその通りです」


エドウィンの顔色が重く沈む。


「彼らは今、公平と公正という名目のもとに即刻の懲戒を求めています。言葉だけは立派ですが、実態は自分の子どもたちの過ちは揉み消して、アーサーにすべての罪をなすりつけようという魂胆です」


「といっても、お前が彼らの顔色を窺う立場でもないだろう。なのにこんなに困り果てているということは⋯」


「まだ⋯解決されていない問題が残っています」


エドウィンが深くため息をつく。


「先ほど申し上げた通り、アーサーが手を出す前に相手が先に絡んできたのを目撃した証人がいます。その証言によれば、アーサーは何度もその場を離れようとしていたそうです。ところがひとりがアーサーの耳元に近づいて何かをささやき、その直後にアーサーが理性を失って拳を振るったというのです」


「なら、二人の間でどんな言葉が交わされたかが核心だな。ところで何が問題だというのか⋯」


「アーサーがその言葉の内容をひと言も口にしないのです」


バンは腑に落ちないという表情を浮かべる。


「なぜだ?もう事件は起きてしまったのだし、アーサーが何を言われたとしても、アーサーへの懲戒の重さが軽くなることはあっても重くなる理由はないはずだが⋯」


「私もそう思います。しかし何を言っても口を開かないので、ただ気が焦るばかりです」


「どうしてもアーサーに口を開かせなければならないのか?耳元でささやいたという本人に直接聞けばすむ話じゃないのか」


「先ほど話した、まだ意識を取り戻せていない生徒が、まさにその生徒なのです」


「こじれたな。とことんこじれた」


「そうなんです。下手をすれば破門にまで至り得る深刻な問題なのに、当事者本人がああして口を閉ざしているのですから⋯」


エドウィンはアーサーが立っていた場所を見つめてため息をつく。


***


「⋯食事をお部屋に持ち込むことはできません。食べ物は必ず食堂をご利用ください。それと⋯その他の決まりは、上がってくる途中でお伝えした通りにしていただければ結構です。子どもたちが勝手に部屋に出入りすることはないと思いますが、ご不安でしたらこの鍵でドアに鍵をかけてください」


「肝に銘じます」


トゥリアンはバンに古びた銅の鍵を渡す。


「では、ゆっくりお休みください」


がちゃ、トゥリアンが遠ざかり、扉が荒い摩擦音を立てて閉まる。

バンは背に担いでいた黒くて重い大剣を壁の隅に立てかけ、埃のついた赤いコートを脱いでかけておく。

靴を脱いで投げると、どっしりとした疲れが足の先から全身へと伝い上がってくる。

バンはそのままベッドに身を投げる。冷たくて固い毛布の感触が頬に当たる。


「ふう⋯」


しばらく目を閉じていたバンは、押し寄せる倦怠感に抗えず顔を向けたが、やがて固い表情で懐をまさぐる。

小さな鳥が枝をくわえている紋様の刻まれた銀のペンダント。

バンの手のひらの上で、ペンダントが細い痙攣のように微かに振動し始める。


「休む間も与えてくれないな⋯」


短い嘆きとともにバンがベッドから身を起こす。

視線はすでに閉ざされた扉へと向けられている。

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