Act1 演算とコンビネーション
地下の彼らの体育館で、龍輝は上機嫌で腕を振り回していた。
「なあ航聖、今の連携は悪くなかっただろ?お前が『罠』を仕掛けて、俺が『物理的』に破壊する。……で、希とも練習したいんだよな。こう、パパッと息の合った「コンビネーション」ってやつをさ!!」
龍輝の頭の中では、希との華麗な共闘シーンが再生されているのであろう。だが、航聖はメガネのブリッジを指先で杭と押し上げ、無慈悲な正論を口にした。
「Combinationね。……お前が希と息を合わせる前に、その頭を何とかしろ……丁度良い。演算室に戻ったら……そうだな『順列(Permutation)と組合せ(Combination)』を始めよう」
「……何?なんだよその、強そうな必殺技みたいな名前」
龍輝が怪訝そうな顔をする。航聖は淡々と続けた。
「数学だよ。異なるn個の中から、r個を選ぶ組合せの数。これを理解せずして、戦術的なコンビネーションを語るなど論理的ではない。だが、安心しろ。……お前の脳でも理解できるように、牛丼のトッピングの組み合わせを例題にしてやる」
龍輝の足が、ピタリと止まった。「数学」という言葉が、龍輝の顔を青ざめさせていく。
「……いや。やっぱ、勉強はいいわ。……今の無し。コンビネーションとか言った俺がバカだった。俺は感覚派でいくからいいや」
「逃げるな。nCrの公式を覚えれば、希の行動パターンを統計的に予想できる可能性が0.02%ほど上昇するぞ」
「0.02って、ほぼ0じゃん!……おう、ヒメ、希!こいつ、また『算数モンスター』に戻りかけているぞ!誰か止めてくれ!」
龍輝が近くにいた二人に助けを求め、航聖はそれを見て密かな笑みをこぼした。
「やれやれ……龍輝。お前に数学を教えるよりも、僕が希の動きを演算してお前に指令を出すほうが……よっぽど効率的だな」
「航聖……お前、今サラッと俺のことバカにしただろ?」
騒がしく、けれど心地よい声が学園に響く。
演算室へ続く階段を上りながら、航聖はふと、ポケットの中のスマートフォンに指を触れた。
耀心の影はもうどこにもない。そこにあるのは、次に龍輝にどんな皮肉を言ってやろうかという、くだらない……しかし替えがたい思考だけだった。
さて、ひとまず有難うございました。
薫との出会い編も要るかな? うーむ。




