オレ様の栄光への道ははじまったばかり!
最終話です。
そして今。
オレ様は帝国との国境まで一日のところにある山小屋にいる。
すでに破滅からは脱した。
オレ様の光輝く人生が途切れることなどあるわけがなかったのだ。
山中はとっぷりと夜だ。
見張りに立っている護衛3名以外は眠りにつき、床で寝ている部下達の寝息、ケダモノどもの鳴き声、風のそよぎ、木々のざわめき以外は何も聞こえない。
小屋にひとつだけあったベッドは質素すぎて、本来ならオレ様にはふさわしくない。
だが、判決後は重罪犯牢暮らしが続いていたオレ様にとって、天国にも等しい。
こうやって新しい事に気づけるのもオレ様の才覚ならではだ。
だが眠れない。心地よいのに眠れない。
オレ様は興奮している。
明日は帝国。
再びオレ様の輝かしい人生が始まるのだ。
特別に選ばれし運命の下で生まれてきた人間だという思いを更に強くしている。
全てがオレ様を大陸の覇王にするべく動いていく。
一旦は破滅を逃れられないと絶望しかけたが、今まで積み重ねてきた人徳がオレ様を生かしたのだ!
オレ様は断種されなかった。
書類上は処置を受けたことになったが、それだけだった。
オレ様を生かし、オレ様に王家の高貴な血筋を繋がせたい者達がいるのだ。
オレ様の国を思う心は、通じていたのだ。
それに、まともな人間であれば、優秀なオレ様を王にするべきだと考えている筈。
そういう人間が、あの裁きの場の外では圧倒的多数なのだ。
あの女は優秀とはいっても、所詮はメス。
その貧血気味で視野狭窄の思考では、人の心、国を愛する熱い男達の心など、判る筈がない。
心ある者達は判っているのだ。
光輝くオレ様こそが、この国の、いや大陸の覇王になるべきだと!
流刑地である名誉男爵領へ護送のため載せられた馬車にも、オレ様のための手配りがされていた。
御者も十名の護衛もオレ様の部下達で、間一髪で捕縛を免れた者達だった。
匿名の警告に従って、いち早く逃亡したのだという。
馬車と護送人員のすり替えにだけでなく、向かう先も逃走ルートも指示されているのだと。
向かう先は帝国領。
なるほど。
全てを手配したのは、あの帝国第四皇子か。
あいつ、オレ様ほどではないが、物事がよく見えている。
オレ様がこの国の王となり、あいつの後ろ盾にならなければ困る、と判っているのだ。
オレ様へ恩を売れば、領地を譲り渡さなくて済むと計算しているのだろう。
まぁ、計算するのは自由だ。しばらくは夢を見させておいてやろう。
このたびのことは、オレ様の油断が招いたこと。
あのメスが、あんなに気が触れた愚かものだとは思ってもいなかったオレ様が悪い。
あれがメスだと判っていたのに、高く評価しすぎていた。
捲土重来し、オレ様が正当に受け取るべき全てを取り戻したら――処刑してやる。
あの愚鈍の妻として殉じさせてやる。
二人並べて公開処刑だ。
半日以上の時間を掛けてゆっくりゆっくりと首を絞めて処刑してやろう。
その前に、王都の住民達に提供してやるか……。
凶悪犯の牢獄へ放り込み、メスとして生まれた事を後悔させてやるか。
あの淫婦なら天国かもだが。
いや、その前に、オレ様が抱いてやろう。
そして、側女くらいにはして貰えるだろうと、あのメスが希望を持った所で、処刑してやるのだ。
「ふふ。はははは」
あの生意気な顔が、窒息して土気色になり、喉を圧迫されて声の出ない声で、オレ様に命乞いをする。
それを見てやる。
絶対に見てやる!
馬車の中でオレ様が笑うと、側近達も笑った。
笑うのはいい。
「それで……すぐに国境を越えられるのか?」
そう問えば、検問を避けるため、険しい間道へ入るので、少々日数がいるとのこと。
途中の山小屋で夜を明かし、翌日迎えと合流して、その日の夕刻には帝国領へ到着すると。
山小屋にはディナーまで用意してあった。
どうやって運んだかは知らないが、質量共に満足のいくものだった。
いたれりつくせりだ。
本当にあの皇子はよくわかっている。
オレ様の協力が、オレ様の能力が、オレ様の人徳が、いかに重要か。
もう少し評価をあげてやらないとな。
だが、甘やかしてはいけない。
オレ様が上だということを、常に思い知らせねばならない。
あいつがオレ様を助けたのは当然の事だという態度でいなければ。
簡単だな。
なぜなら、それが赤子でも判る事実だからだ。
…………。
いつのまにか少し眠っていたようだ。
外がうっすらと明るくなりはじめている。
多数の人の気配が、近づいてくるのを感じる。
迎えが来たのだ。
もうすぐ。もうすぐだ。
オレ様の栄光への道。大陸の覇王となる戦いが始まるのだ!
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ちなみに、この勘違い男の末路(お察しとは思いますが)は『わたくしの婚約者はセンスがないので、一緒に買い物にいくとかありえませんわ』の一話目に書いてあります。