自覚
イライザの話を思い出しながら、アルフレッドのことを考えてみる。
ドキドキするのが恋であれば、アルフレッドといると心臓が持たないくらいなので恋である。
彼の良いところしか目につかなければ盲目なほど恋に落ちているということらしい。
アルフレッドの嫌なところなんてない。次期領主となるため努力しており、半年の期間が終わっても筋トレは続けているようで、かっこいい細マッチョである。イケメンで、努力家で、ストレートに好意を伝えてくれて、でも婚約は待って欲しいと伝えると紳士的に待ってくれて、出かけるときのエスコートも完璧だ。あの低い声で俺のだなんて、思い出しただけで動悸がする。だれか心臓の薬を下さい。
学園での告白騒ぎがあったこともあり、男子生徒はステラと関わろうとしない。辺境伯は爵位が高いのだ。爵位が高い人の好きな人を奪ったとなれば、色々と問題に発展するため距離を置かれている。距離を置かれていなくても、アルフレッドと比べると芋ばかりである。イライザと会話するところをたまに見かける堅物そうな騎士は客観的に見てかっこいいとは思うが、その程度だ。
つまりステラはアルフレッド以外かっこいいと思う人がいないのである。これは盲目である。
ステラはアルフレッドが好きなんだと自覚すると、そこからどうしたらいいかわからなかった。
言葉で言うのは恥ずかしいので、私も好きですという意味でプレゼントを贈ろうと考えた。アルフレッドは自分の髪の色の小物を贈ってくれたから、お返しはステラの髪と同じピンクの小物にしようと思う。ネクタイピンか、ブレスレットか、石がついていて身に付けられるもの。
装飾品の販売を手掛ける成金男爵家なのだから、両親に伝えればそれはそれは立派なプレゼントを用意してくれるだろう。
しかし、それではアルフレッドの好みに合うかわからない。アルフレッドはステラの好みを熟知していて、実用的なものや邪魔にならないアクセサリーを何度もくれた。
アルフレッドが実用的なものを好むかどうかがわからない。どうやって聞き出せばよいだろうか。
学園ではアルフレッドが定期的に虫よけだと言いながら会いに来てくれる。せっかくだから話をする時間をもうけてもらおう。
「あの、アルフレッド様」
「なに?改まって」
「よろしければ、今度お昼をご一緒しませんか?」
「する!もちろんする!いつがいい?何時でも空けるよ」
「でしたら、金曜日はどうでしょうか。テラスを予約しますわ」
この学園に通う婚約者同士はかなり多い。学園側も未来の夫婦が過ごせるようテラスを何ヵ所かもうけている。話す内容が聞こえないようにテラスの数は少ないため予約制となり、カップルや女子会でも利用するので競争率は高い。
「予約はしておくよ。お昼も用意しとく。金曜なら午後の講義は薬学だったよね?講義で眠くならないよう軽い食事にしとく」
どこまで把握しているのだろう。ストーカー疑惑が浮かび上がる。
「あまり、甘やかされると困ります」
「ステラはしっかりものなんだから、俺の前でくらい甘えてよ」
ああ、もう心臓が騒ぎだす。いつから俺と言うようになったのだろう。身長もいつの間にか10センチの差がついて、少し見上げなければいけなくなった。きっとこれから成長して、もっと見上げる日が来るのだろう。
「わかりましたわ。ではお願いします」
アルフレッドは嬉しそうに去っていく。クラスメイトのご令嬢達から「どうやったら婚約者の方からあんなに愛されますの?」と質問攻めにされた。
ご令嬢とはいえまだまだ幼さの残る女の子、親に決められた婚約者でも愛されたいと願うのだ。羨ましいとしょんぼりしているご令嬢の想いが少しでも報われて欲しい。ただ、協力したい気持ちはやまやまでも有益なことは何も言えないのだが。
約束した金曜日のお昼休みになり、アルフレッドに指定されたテラスへ向かった。アルフレッドはステラから少し遅れて、カゴを持ってやって来る。
「お待たせ。ステラの分はこっちね、フルーツののったサラダと、卵と野菜のサンドイッチ。あとドライフルーツとナッツの蜂蜜漬けもあるよ」
テーブルにはアルフレッド用のホットドッグが2つとピクルスが並ぶ。
「美味しそう。いただきますね」
「俺のが良かったら交換するから言ってね」
「いえ、このままで。私の好きなものばかりですわ」
「だろう?ステラと何度お茶したことか。でも食事に行くことは少なかったから、誘ってくれて嬉しいよ」
「いつも私の好きなものばかりなので、アルフレッド様のお好きなものを教えてください。次回にご用意しますわ」
「俺の好きなもの?ステラと一緒に食べられるならなんでも嬉しいよ」
「なんでもいいならカエル料理にしますわよ。食べたことはありませんが、太ももが美味しいらしいですわ」
アルフレッドは珍しく嫌そうな顔をする。
「カエルはさすがに遠慮したい。芋が好きかな。カージナル領でよく採れるから、芋料理をよく食べてたんだ。あとはソーセージと、鹿肉も好き」
「今日もソーセージのホットドッグですわね」
「うん。これ、ソーセージの下にはソテーした野菜が入ってて、見た目のわりに食べごたえあるんだ。腹持ちもいいからよく食べてる」
大きな口で食べる姿をじっと見つめていた。特徴的な赤毛に青い服、アクセサリーはどこにもつけていない。ネクタイピンも学園から支給される物を使っている。
「どうかした?やっぱり食べてみたくなった?」
「違いますわよ」
「残念。あーんってしてあげたかったなぁ」
「またそんなこと」
「皆の前で告白した俺に、恐れるものはもうないんだよ。ステラが俺のことを好きだって言ってくれるまで遠慮なく言うから」
自棄を起こしているのだろうかと少し不安を覚える。
「何度だって言うよ。ステラが好きだよ」
アルフレッドはまっすぐステラを見て言った。
「俺の好きな人は君だけだ」
アルフレッドが近づいてきて、ステラの頬を両手で包むようにして顔を固定されてしまった。恥ずかしくて目をそらし、鼓動が激しくなり何も言えない。顔が赤くなっていくのがわかる。
「そんな表情されると、期待してしまうな。他の人に見せちゃダメだよ」
ステラの心臓が持たない。
「………あなたにしか、見せませんわ」
アルフレッドの目が大きく開き、頬が赤らんだ。
「それは、ズルいよ」
自分の顔に手を当て、ヘナヘナと座り込むアルフレッド。
「確認してもいい?俺のこと好き?」
コクン、と首を縦にふった。
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