序話 愛知県弥富の温泉旅館にて
なんとか、設定が固まりました。
元旦に三話の「密談」まで投稿します。
後は、皆さんの批評を受けた後で順次投稿していきます。
少し、臆病かもしれませんが、前の失敗を繰り返したくありません。
序話
愛知県弥富市の温泉旅館にて
「しかし、地元なのに初めて見たけど、綺麗だったな」
発知が冷えた麦茶を飲みながらホテルのラウンジバーで一緒に休んでいる二人に言った。
「本当にね、特に川面に映った巻藁舟は夢のようだったわ。何であんなに綺麗なんだろう、不思議ね。」
二人のうちの一人、妻の富士子が弾んだ声で答えた。妻の言葉に発知はうなずいた。
「うん、不思議だった。光のイルミネーションはいろんなところで見た。それこそ規模だけだったら、たちばなの里のLEDのイルミネーションの方が遙かに大きい。でも、何というのかな、提灯の光の揺らぎ具合と、水面に映った揺らぎなのかな、油断していると水の中に引き込まれそうだった」
二人はそれからも、これまで旅行してきたいろいろの場所の夜景や花火の思い出を交え語り続けた。
「しかし、おまえら相変わらず仲がいいな。結婚何十年目だ、50年以上だろうが。いつまでもお熱いことで、たわけた奴らだ。」
二人の会話を一人だけ麦茶ではなく、スコッチのオンザロックを飲んでいた、これも二人と同じく80才になる、がっちりした体格を紺色の土方スタイルで包んだ老人が茶々を入れた。ちなみに発知は紺のジーンスに白のボタンダウンシャツ、富士子は紺のジーンズに茶色のボタンダウンシャツで、シャツと同じ色のベルトがアクセントになっていた。
「ふん、その熱い仲の夫婦旅行に独り身のくせにくっついてくる、面の皮の厚いたわけの安兵衛にたわけた奴などと言われたくないわ。」
発知がすかさず言い返した。このがっちりした体格の老人の名前は「安兵衛」と言うらしい。現代人に似合わない名前である、江戸時代の人なのかな。江戸時代の人がさらに言い返す。
「たわけめ、俺がおまえら二人の旅行につきあうようになったのは、おまえらに子供ができてからだろうが。次から次と子供を量産しやがって、それで旅行やめるならともかく何人も子供引き連れて行くから、俺を子守として無理矢理誘ったんだろうが、違いますかい?」
二人の口げんかがしばらく続く。「たわけ」、「くそたわけ」、「どくそたわけ」と、名古屋弁の悪口がどんどん過激度が増してくる。名古屋人は「たわけ」以外の悪口を知らないのだろうか、「たわけ」の派生形ばかりである
ちなみに「たわけ」は「田分け」が語源の説の一つとしてある。兄弟に両親の田を細分化して分けていくと食えなくなっていくため、相続は長男が総取りする風習が正しいということらしい。それと「たわけ」と書くが、発音は「タァーケ」が近い、まあどうでもいいが他県のひとは名古屋人の会話と言えば語尾の「きゃあ、きゃあ」しか知らないらしいので説明した。
「はいはい、私よりも10年近く長いおつきあいのお二人さん、けんかはやめましょう。」 妻の富士子があきれた声で男二人のけんかを仲裁した。
この男たちは幼稚園からのつきあいである。確かに発知と富士子は小学校5年生からのつきあいであるからしてそれよりは7年は長い。それにしてもこの三人、お互いに70年以上の知り合いとは、あきれた「タァーケ」どもである。仲がいいのにもほどがある。
ここは愛知県弥富市にある温泉旅館のラウンジバーである。
発知は発電技術者である。水力発電から始め、火力発電、原子力発電と従事してきた。 だが、2011年の福島原発事故がその生涯を変えた。40過ぎの働きざかりの発知にとってその衝撃はすさまじかった。彼は勤めていた電力会社を辞め、京都の大学に聴講生として学んだ。その後、東京の大学院に進み、4年後「テラキャパシタ」を開発した。電力が超低損失で貯められるようになった。この影響はすさまじかった。電力で問題なのは年間の発電量だけではない、というより、夏の昼間ピーク電力消費が問題なのである。
世間的には「テラキャパシタ」開発の十年後、発知とその後継者たちが開発した高効率の熱電対の方が有名だ。日本には地震がある。だから火山があり、温泉がある。だが、地熱発電は効率が悪い。だったら、熱を直接に電力に変えたらいい。高効率の熱電対こそが日本を救う道だ、とテレビ、新聞、週刊誌が「ネオエネルギー革命」と騒ぎ立てた。
この二つの成果は、実際に日本を救ったし、世界をも救った。高効率の熱電対はあらゆるところで使われた。砂漠で、熱帯雨林で、火山でだ。
その後の彼とその弟子たちは様々の自然エネルギーを電気に変えた。海底と海面の温度差、地表と地下の温度差。高速道路の振動に騒音までもである。しかもそれぞれの電気エネルギーをテラキャパシタで蓄えた。エネルギーはあらゆるところで発生する、だが、電気には変えられなかったし、蓄えられなかった。それが電気に変えられ、しかも蓄えられてエネルギー革命が起きた。当然だが、自動車を完全電化され、原油価格は暴落した。
彼らはエネルギー革命を成し遂げた。塵も積もれば山となるを彼らは成し遂げたのである。
この発知の最初の4年間の研究時代、発知の幼なじみの安兵衛はもちろん独り身であった。150センチの低身長でがっちり過ぎる体型に怖い顔では、現代女性にはもてなかったのである。全く現代女性は見る目がない。確かに安兵衛は低身長だし、顔もごつい。だけど、現代女性は彼の目の優しさに気がつかなかった。
うん、彼が女性にもてなかったのはどうでもよかった。ここで安兵衛の仕事を語ろう。彼は練達のロケット技術者である。名古屋の四菱重工のロケット部門で彼は親方と呼ばれていた。その風貌と服装と技術の確かさと部下の面倒見の良さで。
発知は会社を辞める前、安兵衛に自分のやることを説明したらしい。「たぶん5年かかる、その間、家族を頼む。」
その数日後の土曜日、それまで会社の独身寮の主だった安兵衛は大きな風呂敷包みを背負って、名古屋東部の丘陵地帯にある発知の家に歩いてやってきた。名古屋北部の独身寮からだから三時間歩いてである。服装は上から下まで土方スタイルで、色は紺。腹巻きと頭に海賊風に巻いた手ぬぐいが白地に藍色の花の模様。首には赤地に同じく藍色の花の模様の手ぬぐいがのどを守っている。そして、紺地の法被をはおり、法被の背中には白抜きの「丸に剣花角」、安兵衛の家に伝わる家紋入りである。
安兵衛の服装はいつもどこでも同じだが、法被は彼なりにTPOがあった。今回の家紋入りの法被は彼に従えば、正装である。
玄関で安兵衛を迎えた富士子は、地下足袋を脱ぐためにかまちに座り背中を見せた安兵衛の姿からそれに気がついた。富士子は彼を家奥の座敷に通した。そして、家にいた発知と富士子は床の間を背に正座した。
安兵衛は彼ら二人に正対して座り、風呂敷包みを脇に下ろし、頭と首の手ぬぐいを外した。そして、背筋を伸ばして頭を下げた。
「すまんが、寮を追い出された。しばらく家に置いてくれ。」
富士子は既に夫からこれからの計画を聞かされていたので、発知の顔をちらりと見てから、床に三つ指をつき頭を下げた。発知もまた頭を下げた。
「こちらこそよろしくお願いいたします。」
夫婦そろってそう、唱和した。様式美である。
その日から三十数年後である。
今では、安兵衛は発知の隣の敷地を買い取り、小さな家を建てて住んでいた。
さて、三人が話していた巻藁舟の光景が何かというと愛知県津島市の尾張津島天王祭である。織田信長の経済的な支えとなった津島湊の五百年以上続く祭りの宵祭りである。
今はその翌日、朝祭りも終わり、三人は旅館に戻ってきて、一風呂浴びたところである。三人の予定ではこの旅館でもう一泊して、明日、ゆっくりと名古屋に戻る予定である。
「発知、何か予定は?」
安兵衛がそう問いかけると、発知は首を振った。
すると、安兵衛が嬉しそうに続けた。
「 Administration & War in Fantasy で新しい旅を始めないか?富士子も連れて三人でさ? 」
富士子がきょとんとした顔で安兵衛に尋ねた。
「 Administration & War in Fantasyって何?」
発知が横から口を入れた。
「 Administration & War in Fantasyは剣と魔法のある史実世界で旅をしたり、暮らしたり戦争に参加するフルダイブ型のVRRPGだ。作ったのはイタリア系アメリカ人が主になったらしい。初代のバージョンではB.C.三世紀のローマ帝国 ポエニ戦争時代 魔族役はカルタゴ、人役はローマ。ああ、魔族は格好は魔族っぽいけど身体能力も魔法も人とは変わらない。舞台、ゲーム用語で言えばマップは地中海世界。戦争をしたい人は第1次ポエニ戦争なら紀元前264年のシチリア島へ行くことになる。他にも戦争の場所と時期は色々ある。ただ、プレイヤーが何もしなければ結果は史実通りになる。ゲーム自体がMMOつまりMassively Multiplayer Onlineじゃないから同じゲームでプレイできるのは六人まで、剣と魔法とは言うけれど、プレイヤーも戦闘力自体は大したことはない。魔法には攻撃魔法がない。治癒魔法は初期から診断能力は高い。治療は上達すれば病気やけがも短期間で直せる程度になる。火魔法は鍛冶師御用達の魔法で、燃料もなしに金属を熱したり溶かしたりできる。まあ、そんな魔法を応用して、火魔法無双をやった人もいたらしい。水魔法は最初は水筒役から始まり、極めれば近くの川を増水させて魔族を押し流した人もいたらしい。そこら辺は工夫次第か。土魔法で落とし穴を掘ることもできる。風魔法はない。ただ、人にも種族が会って人、エルフ、ドワーフ、人の特徴は数が多く交易が得意で魔法を何種類も身につけることができる。エルフやドワーフと混血ができる。エルフとドワーフは魔法は一つしかできないが魔法の上達は早く、魔力も多い。」
「二代めバージョンは一三、四世紀、モンゴル帝国が魔族 初代チンギスハーンから五代のクビライまで 人役は東欧のヨーロッパ人、ロシア人、中央アジアのイスラム系と中東のアラブ人、インド人、中国人、ベトナム人、日本人等々。戦場も初代バージョンより格段に増えて数十ヶ所になった。マップはユーラシア大陸全体から日本まで。俺と安兵衞が参加したのはこのバージョンからだ。ちなみにこのバージョンのおかげでこのゲームは世界中で大ブレイクした。それにこのバージョンから魔族側にもプレイヤーは参加できるようにもなった。アメリカ人の中には今度こそベトナム戦争の借りを返すとばかりモンゴル軍に加わった人もいたな。まあ、大多数は史実通り1288年の白藤江の戦いでベトナムの焦土作戦で侵攻を諦めて帰ろうとしたところをベトナムに叩かれてゲームオーバーしている。アメリカの4chanでは『ベトナムのゲリラ戦法は800年前から』とかのスレッドが乱立していた。それからこのバージョンから魔族は更に史実に近づいて、魔族軍この場合はモンゴル軍が支配した地域でも人族は普通に生活できるようになった。支配者が変わるだけだ。」
「へぇ、あなたたちも戦争に参加したの?」
発知と安兵衞が顔を見合わせて苦笑した。
「負けたのね。」富士子が突っ込むと安兵衞が答えた。
「『文永の役』の対馬で戦ったんだ。向こうが大型船八隻で兵士は千人、こっちは俺たちを入れて85人。」
「勝てるわけない。」
「いや、ちゃんと焼夷弾付きのロケット弾を多数用意しておいたんだ。いけると思ったんだけど、命中率が悪いのと燃やすことにこだわって爆発力が足りなかった。結局一隻を沈めただけだった。対馬の宗助国さんは古今無双と褒めてくれた・・・・・・・・・」
「あの時は参ったな、対馬の武士は・・・・・・・・・・」発知も言葉を続けることができなかった。
あれがゲーム上の仮想現実でしかないと分かってはいた。だが、できるだけの民を逃がしてくれと俺たちに頼み、弓を射続けた対馬の武士たち。発知と安兵衞は彼らの死を直接は見ていない。あらかじめ用意しておいた三十艘ほどの船に女子供数百人を乗せ、発知と安兵衞は博多を目指して、対馬を脱出していたからだ。あれからゲーム内で安兵衞はロケット弾の改良に血道を上げた。発知は学生時代に習っていた杖術の道場に通い、ゲーム内でも修行した。次の弘安の役に備えてだった。
弘安の役で、二人の最初の挫折は対馬や壱岐の武士、及び民の避難に失敗したことだ。どうせ勝てない、だったら博多に戦力を集中した方がいい筈だ。そう思ったんだが、と愚痴った発知と安兵衞に富士子が突っ込んだ。
「ゲームだからでしょう?」
発知と安兵衞があっけにとられて、顔を見合わせた。どのように言葉を尽くしても武士たちは「一所懸命は武士の習い」としか答えなかった訳がようやく分かった二人を富士子が憐れむように見ていた。
その後、二人は博多湾、志賀島、壱岐島で東路軍と戦った。だけど文永の役の高揚感と悔しさはなかったらしい。鷹島沖海戦と台風による元軍の壊滅を見届けた二人は、別府に向かった。
負傷した武士たちがそこへ湯治に行くという話を聞いたからだった。楠という土地で、発知は土魔法で湯治場を作った。それに喜んだ現地の温泉奉行は、発知と安兵衞に協力を申し出てくれた。安兵衞がロケット弾を改良して、亡くなった人々を偲ぶ奉納花火を作った。
人々の驚きと喜び方が凄かった。
NPCの反応の良さに二人はログアウトして、改めてゲームの情報を集め出した。
そこで気がついたのは、このゲームは表題通り内政に力を入れていたことだ。
ネット上にも、「俺が再興した町」とかのゲーム情報がちらほらと出始めていた。
日本向け課金アイテムの米の品種の充実ぶりに、発知は目を見張った。コシヒカリ、あきたこまちは勿論、北海度のゆめぴりか、酒米向きの山田錦、五百万石、雄町。いったいどこで調べたと発知が驚いたのは麻の品種の「とちぎしろ」があったことだ。とちぎしろは酩酊成分が極小で無毒大麻と呼ばれている。
二人は、それから元寇以後、疲弊した九州の村、それから元々冷害で貧しい東北の村々を豊かにする活動を始めた。課金アイテムで得た冷害に強い稲の栽培、安兵衞が考案し作った様々な農具等々。それらをNPCである農民たちに配り、動き出せば後は時間経過を短縮して、観察できるモードがゲームにはあった。途中問題があれば随時、介入した。ゲームの仕様なのか、領主である武士も農民も二人の言うことをどんどんと受け入れてくれた。
戦いの話とは違い富士子も興味深そうに聞いていた。田植えの終わった田んぼを時間短縮で観察した動画、NPCの農民たちが嬉々として稲刈りをする動画、安兵衞が作った清酒で盛り上がった田植え後の宴会の動画などを、安兵衞がタブレットで富士子に見せていた。
「まあ、楽しそうね。だけどゲームかあ、あんまり気乗りがしないかなあ?」
すると、安兵衛がにやりとした。
「ゲーム内限定だが富士子、若返るぞ。体が若い頃のように動くし、顔のしわもなくなるし、肌のたるみも消える。」
そう、これが俺たちがこのゲームにはまった理由だった。
そしてその気持ちは男性である発知たちより、女性である富士子の方が絶対に強かった。
後は、富士子が暴走した。安兵衛をせかして車からゲーム機一式とダイブ用のフルフェイスヘルメット型の端末3個を取りに行かせ、ラウンジバーから部屋に戻って、二人を質問漬けにした。主に、キャラクター作成の容姿と服装のアレンジ方法について。二人は女性の長い、ながーい買い物につきあわされる気分を2時間に渡って、延々と味あわさせられる事になった。
「それで、ゲームの舞台はどこ?」
それを最初に聞けよ、と思いながら安兵衞が答えた。
「時代は一四世紀半ばオスマン帝国の三代皇帝ムラト1世からスレイマン1世を経て一六世紀のムラト3世まで。当然、魔族はオスマントルコになるけど、舞台が狭いんでポルトガルとスペインの大航海時代も加わる。姿こそ人だけど、ポルトガルは西印度諸島、アフリカやインドでは殆ど魔族扱いらしい。南アメリカ大陸でのスペインも一緒だけど。でもってマップはこれ。」
そう言って安兵衞が広げたのが「カンティノの世界図」に朝鮮半島と日本を加えたマップだ。縦60センチ、横180センチと大きいものだった。安兵衞の説明によると、カンティノの世界図は元々バスコ・ダ・ガマのアフリカ航路発見やコロンブスの新大陸発見などが続いた一五世紀末、ポルトガルが作成した世界地図だった。それをイタリアの貴族がスパイを放ち盗み取った。そのスパイの名がカンティノだったらしい。ただ、本来の「カンティノの世界図」には朝鮮半島や日本はない。
「だけど、日本がないとゲームの売り上げが三割は減る。」
そんなわけで、コロンブスやアメリゴ・ヴェスプッチが発見した北アメリカ大陸の一部やブラジルの一部が西の果て、東が朝鮮半島から日本まで。北は今のロシアが北の果て、南はアフリカ大陸はあるけど、太平洋はまだ発見されていない設定になってた。
安兵衞が話を続けた。
「この世界で旅をするフルダイブ型のVRRPGだ。俺と発知もまだこのバージョンはやっていない。前のバージョンでは俺がドワーフで火魔法が得意な鍛治師、発知はハーフエルフで土魔法が得意な山師。今回もそのつもりだ。容姿はこんな感じ。」
安兵衞がタブレットを見せた。
「ふーん、それで移動方法は?」富士子が聞いた。
「えっ、歩きだけど。」安兵衞が思ってもいない事を聞かれてそう答えた。
富士子は肩をすくめると部屋の大型テレビをつけ、ネットに繋げてゲームのサイトを表示した。
「ねえ安兵衞、この公式MODて、何?」
「ああ、MODと言うのはユーザーがゲームのデータを改造してキャラクターの容姿や新しい衣服、ゲームにはない武器を追加したり、新しいマップを作ったりするデータやファイルのこと。公式というのはそのデータやファイルをメーカーが認めたものだ。」
「やった、これ入れれば肌がもっと綺麗にできるし、スタイルだって・・・・・」
「おい、ちょっとそれやり過ぎじゃあ・・・」安兵衞が止めには入ったが。
「えー、これ入れればほら、この例のように安兵衞の髪や髭だって、こーんな風に格好良く・・・・」
安兵衞が富士子の説得に失敗どころか逆に説得された。
一通り容姿や衣装のMODを漁って、安兵衞にインストールさせ、富士子は自分の衣装や発知の衣装、ついでに安兵衞の土方ファッションも決めてくれた。そして武器のMODを漁り、これもゲームにインストールさせた。自分の武器に弓を選び、デザインを決める。
次に鍛治師の槌を武器にしていた安兵衞をやり込め、指輪物語のギムリを例に挙げて斧の柄を長くしたバルディッシュにするか、剣道の高段位を持っている安兵衞の特技を生かして日本刀にするかの選択を迫った。安兵衞は仕方なく日本刀を選んだ。無銘だが丈夫で質実剛健な刀を選んだ。安兵衞は他にも柔道や合気道もそれなりに取得している。
富士子がMODを駆使して作り上げた安兵衞の姿は、元の安兵衞の顔を保ちながらも、ドワーフというより、ローマ神話の海神ネプチューンを彷彿させるようになっていた。
最後に夫の顔を富士子は憐れむ様に眺めて、あなたはどうせこの棒よね、と発知の五尺五寸の杖には手を出さなかったし、容姿も肌のきめをよくした以外は触らなかった。
三人の武器を決めた富士子は課金アイテムの中で移動手段のアイテムを調べ始めた。
富士子が次々と移動アイテムをぽちぽちとしていく、課金金額は既に五万円になっていた。次いで、彼女は医療関係の課金アイテムに移動した。そして、・・・・・。
「うん、こんな感じでいいんじゃない。」
富士子がそう言った時はそろそろ夕食の時間だった。課金アイテムの金額はあらかじめ安兵衞が購入していた農業関係を含めると二十万円を越えていた。どこの世界に一万円ぐらいのゲームソフトにその二十倍に及ぶ金を使う輩がいるだろうか?と発知は思った。
発知と安兵衞が今まで自分たちが考えてもいないゲームでの準備を終えて、富士子のゲームでのキャラクター設定に移った。
「どーせ安兵衛に腹案があるんでしょう。容姿と服装のセンスと準備以外ではあなたを信頼してるわよ、2分で決めなさい。」富士子が丸投げした。
「はいはい、とりあえず回復役は決定。だから職業は医者で決定、種族は発知と同じハーフエルフで決定。後、体力はそこそこで、スピード重視で魔力を多め。とはいっても種族的に魔力は恵まれているからな。そう心配することはない。年齢は80才と・・・・」
「何、言ってるの!そこは『永遠の』17才でしょうが?」
「あのな、ハーフエルフの寿命は400才だぞ、4で割ったのが実年齢だ。」
「じゃあ、68才。これは譲れないわ。」
「はあー、さいですか、お姫様。わかった、ついでにエルフだけが取れる、草原の友の称号を課金で取れ、俺たちに二十万円を課金させたんだ、一万円ぐらい自腹切れるだろう?」
「なに、それ???」
安兵衛がまた、にやりとした。
「馬と交信ができて、牧羊犬を扱える能力。あんな高価な馬を六頭も仕入れたんだ、これがないと危なくて仕方がない。」
富士子のご機嫌が更によくなった。
「だけど、何でもありね。」
ここで俺が口を挟んだ。
「まあ、課金システム様々だ。」
「後はゲーム内でおいおいと、説明していくさ。さあ、夕飯を済まして、ゲームを始めよう。」
「駄目、明日うちに帰って、この時代の病気や出来事を調べて、その次の日にね。急いだらろくな事にはならないでしょう? ゆっくり冷静になって取りあえず安全なスタート地点を決めてから始めましょう。」
ゲームについては、基本、出たとこ勝負の発知と安兵衞は富士子の言葉にうなずくことしかできなかった。
参考文献
1.ウィキペディア様、これがなければどうにもなりませんでした。
2.津島市HP http://www.city.tsushima.lg.jp/index.html
参考ゲーム及びMOD
1.Fallour3 及び Fallout4
2.Caliente's Beautiful Bodies Enhancer -CBBE-
他にもあると思いますが、とりあえず以上です。