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Lv.0でニューゲーム(仮)  作者: 槻白倫
第一章 レベルゼロ
30/39

029 届け

気がつけば三十話です。こんなに長くする気は無かったんだけどな…。

まあ!とにかく!一章ラストスパート!多分あと二話くらいで終わります!

 突破口は知られてしまった。


 武器も段々と減ってきた。


 それに、レインボーキャンディーの効果時間も残りわずかときている。 


 これ以上の奥の手も存在しない。


 それでも、日陰は数多の武器を振るう。


 頭は、酷使しているせいか頭痛がする。手足は、何度も衝撃を受け痺れてきている。心は、全てを凌がれて折れかけている。


(…もう、無理ですかね)


 絶体絶命。その言葉が脳裏をちらつく。


 そんな、雑念が入っていたからだろうか。


 ーーーーーエラー。その操作は実行できません。


 頭に響くシステムアナウンス。


 そう。喚装に失敗したのだ。


 日陰は精密機械でもなければ完璧超人でもないのだ。


(マズいっ!)


 手持ちの武器は殺鬼の一撃で砕けてしまっている。


 慌てて喚装しようにも、焦っているせいで思考が纏まらない。


 そして、そんな隙を逃すほど殺鬼は甘くはない。


「ネタ切れか?だったらーーーーー」


 太刀が振り上げられる。   


「死ね!」


 死の間際は見たくない。そう思い、ぎゅっと目を瞑る。


(…結局…ダメでした…)


 何がいけなかったのかはわからない。いや。多分、単純にレベルの差であろう。流石にこの数でいっても80越えには適わない。自身の倍のレベルを持っているんだ。それに、種族的に見ても鬼は強者だ。人とはスタートラインが違う。


(次は…もっとうまく立ち回れたらいいな…)


 人付き合いにしろなんにしろ、日陰は立ち回りは器用な方ではなかった。だから、死んで次があるのならば、もっと立ち回りをうまくできるようになりたい。そう思ったのだ。


 目を瞑っているから太刀がどれほど迫っているのかわからない。分からない事への恐怖もあるが、それでも直視するよりかは幾分かましだった。それでも、大差は無いが。


 何かが迫る気配を感じる。もう終わりなのだろう。


(…すみません。先に行ってしまいます…。ああ、でも。お母さんに会えるのは、楽しみですね…)


 そうして、音が鳴り響く。


 ーーーーーガキイイィィィンッ!!


 肉を切り裂く音ではなく、金属同士がぶつかり合う音が。


「っ!?」


 日陰ははっとなり目を開く。そこに映ったのは、殺鬼の太刀をいつか自慢していた片手剣で受けるくすんだ金髪の少女の背中であった。


「…金元…さん?」


「なに、目ぇ瞑ってんだよ…!」


 ギイィンと太刀を弾き間髪入れずにもう一撃放つ。


 太刀を弾かれ、無防備な体制となったさっきでは合ったが、紙一重でそれをかわすと、大きく後ろに跳び距離をとる。直後、数多の矢と魔法が飛来する。 


 それに気付くと対処をしようとするが、何発か当たってしまう。


「があっ!?」


 先ほどと何ら変化のない攻撃パターン。だが、それでも殺鬼は攻撃を食らってしまう。なぜか?それは、殺鬼も自覚していた。


 鬼神化による疲労。蓄積されていくけっして浅くはない傷。そして、楽しみすぎた故の長時間に及ぶ戦闘。


 そう。単純に疲れてきているのだ。だから対応しきれない。    


「ちょぉっと…楽しみすぎたかな~?」


 楽しみすぎると自身のことを鑑みなくなるのは悪い癖だと、惨鬼には耳にたこができるほど言われているのだが、いつもその言葉を無視してきた。それのつけがきたのだろう。


「まあ、負ける気無いけど…」


 一歩足を踏み込む。が、行き先を遮るように前に躍り出るミリーと豊。


「悪いが、私達を忘れてもらっても困るんだ」


「少々、お相手願いますね?」


 二人が武器を構えるその後ろで恭子と日陰は少しだけ言葉をかわす。


「なんで目を瞑ったんだよ」


「…もう…ダメかと思いまして…」


「っ!!」


 日陰の言葉を聞き恭子は日陰お胸ぐらを掴む。


「さっき信じるって言ったのは嘘だったのか!?ワタシが助けに来ることを信じて次に繋げられるようにしろよ!!仲間ならもっと信じろよ!!お前は!!もう一人じゃないんだぞ!?」


「…ぁっ…」


 恭子の言葉に大きく目を見開く。


 だが、それもすぐに戻る。


「…すみません…」


「分かったっぽいからいい…それより…」


 恭子は掴んでいた手を離すと振り返る。


「あいつも、だいぶ弱ってるみたいだな」


「叩くなら、今しかないですよね?」 


「そりゃあな。回復されても面倒だし」


「それじゃあ、行きましょうか」


 日陰はそう言うと武器を装備する。今朝、瑞穂にもらった上等な鉈だ。


 小細工はもう通用しない。だったら、いつも通り慣れている物を使った方が良いと判断したのだ。


 視線を前に向ける。ミリーと豊が惨鬼相手に押しているのが見える。だが、豊が一撃を受け吹き飛ばされる。攻めるなら今しかない。


 どちらも、合図も無しに駆け出す。


「ミリーさん!僕らが入ります!離脱してください!」


「了解した!」


 ミリーがバックステップで距離をとり、その間に二人が入る。


 恭子が入りざまに切り上げる。それを、殺鬼は横に弾く。弾いた太刀を返して横凪の一撃を放つ。そこに、すかさず日陰が割って入りその一撃を止める。だが、その一撃を日陰は止めきれず状態を崩す。


 恭子は横に移動し空いた左側から攻撃を仕掛け、日陰への攻撃を与える隙をなくす。だが、殺鬼もそれに反応し剣を受け止める。


 日陰は、俊敏さと観察眼を生かし。恭子は上昇させた筋力を生かして立ち回る。


 殺鬼は恭子がいることで、日陰が喚装をしないと分かっているのか、迷いなく動く。


 二人の息のあった入れ替わり立ち替わりつつの攻撃を、殺鬼はその反射神経と戦闘センスだけで凌ぐ。


 だが、結局は足跡タッグ。息のあったコンビネーションといえども、綻びは生まれる。


 行動がダブり体を接触させてしまう。恭子はバランスを崩してし、殺鬼の前に無防備に躍り出てしまう。


「はい、もぉらいぃっ!!」


 振り下ろされる太刀。だが、恭子はそれを見据える。信じているから。絶対に、日陰が何とかしてくれると。


 刹那。その信頼通り日陰が恭子の前に出る。それを見て恭子は直ぐに次の動作へ移る。


 振り下ろされる太刀を日陰は、横に弾く。その直後、バリィィィィンと金属が砕ける音が鳴り響く。


 砕けたのは、太刀と鉈の両方だった。


 一対一であればそこから距離をとったであろう。なにせ、素手格闘ステゴロでは絶対に勝たないから。だが、今はそれをしなくてもいい。なぜなら、後ろには仲間がいるから。自分を信じて行動してくれる仲間がいるから。


 日陰の横から恭子が飛び出す。その剣は炎が燃え盛っていた。


火薙駆ひなぎく!!」


 片手剣の攻撃スキルを発動する。


 恭子の放ったスキルは殺鬼に直撃する。


「があっ!!」


 直撃を受けた殺鬼は勢い良く後方に吹き飛び、校舎の壁に激突する。


 壁は砕け、煙がもうもうと立ちこめる。


 いくら殺鬼とは言え、先ほどのスキルを直撃で食らえば無事ではいられないだろう。勝ちを確信したその時、恭子が切羽詰まった声を上げる。


「陽太!!行けっ!!あいつまだやられてない!!直前で折れた太刀を滑りこませやがった!!」


「なっ!?」


 その言葉を聞いた日陰は弾かれたように走り出し、右手には今まで使っていた黒色の鉈を装備する。煙の中ではもうすでに影が動いている。だが、レインボーキャンディーで俊敏が上昇している今であれば間に合う。そう思った矢先であった。


「あ、れ…?」


 ガクンと日陰の走る速度が落ちる。そう。レインボーキャンディーの効力が切れたのだ。恭子達よりも早くにレインボーキャンディーを服用していた日陰は、恭子達よりも早くその効力を失ったのだ。


(まずい…これじゃあ…!)


 追い付けない。追いつく前に殺鬼は体制を立て直して撤退するだろう。そうなれば、折角のチャンスを棒に振るうことになる。それに、こちらの手は出し尽くしている。二度目はこちらが明らかに不利になる。


 だが、頭では分かっていても彼我の距離は埋まらない。


(届かない…)


 直線に進めるスキルを使ったところで、届かない。


(また…ダメなのか…)


「「陽太!!跳びなさい!!」」 


 諦めかけたその時、二人の声が聞こえてきた。その声を聞いた途端、反射的に前に跳んでいた。そして、足の裏に伝わる感触。


 ちらりと振り返ってみれば、日陰の後ろに立っていたのは美波とリリスであった。


 美波は斧の側面を、リリスは槍の胴体を日陰の足の裏に押し当てていた。


 彼女らのやろうとしていることを理解して日陰は殺鬼を見据える。


「「いっけえええぇぇぇぇぇぇえええ!!」」


 そうして、思い切り振り切る。 


 筋力を上昇させている彼女らの力であれば、余裕で彼我の距離を届かせることができる。


 日陰は、空中で鉈を引き左手を軽く前に出す。片手剣攻撃スキル『飛来突ひらいとつ』。


「届けぇぇぇえええええ!!」


 日陰が迫っていることに気付いた殺鬼は慌てて折れた太刀で防ぐ。だが、それで防げるほど、日陰の一撃は甘くはなかった。


 日陰の鉈が、折れた太刀を砕き殺鬼の胸に深々と突き刺さる。


 そして、勢いそのまま校舎の壁に再度激突する。


 衝撃と轟音が辺りに響き渡り、先ほどとは比べものにならないほどの煙が立ちこめる。


「ひ、陽太ああああぁぁぁぁぁあっ!!」


 これほど強大な威力で突っ込んでしまっては、殺鬼はもとより、技を放った日陰もただではすまない。そう理解した恭子は悲鳴に近い叫び声をあげていた。


 雪子もそれを理解したのか、遠くから風系統の魔法を使い煙を払う。餡子もすぐさま日陰の元へ駆けつける。が、その心配は杞憂に終わった。


 煙が晴れると同時に日陰と殺鬼の姿が見つかる。


「…陽太…?」


 恭子が二人の姿を見て疑問系で日陰に問う。他の者も不思議そうな顔をしていた。なぜなら、日陰が殺鬼に抱き留められていたのだから。それも、体制的に仕方のないものではなく、きっちりと日陰を抱きしめているのだ。そう、庇ったのだ。殺鬼が衝撃から日陰を。


 だが、その手も次第に緩められると、パタリと地面に落ちる。


 日陰はゆっくりと上半身だけを起こすと、戸惑いを隠せないといった表情で殺鬼に問いかけた。


「な…なんで…」


「………………なんで…助けた、かって………?決まってんじゃん……………………お前に生きてて欲しいからだよ………」


 訳が分からなかった。敵同士なのに生きていて欲しいだなんて。


「…どう、いう…」


「…………ワタシは……ワタシを倒した奴に…死んで欲しくないんだよ…………………」


 そう言うと殺鬼は力なく地面に落ちた手を最後の力を振り絞って日陰の頬に当てる。


「お前の……勝ち、だ……おめで…とう………もし、ワタシから…ドロップしたも、のが…あれば……おまえが…使ってくれ……………」


 そうしてまた、力なく地面に手が落ちる。


 今度こそ、死んだのだ。


 死んだ殺鬼の体は光の粒子となり宙に舞う。宙に舞った光の粒子は空に溶け。やがて消えた。


 こうして、『復活の双鬼』の片割れは倒された。


  


 

  


      


 


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