013
魔法競技大会。
それは、ケレス王国、王立魔法学園で開催される魔法の大会である。
若き才能を見つけ出すために王国中の魔法士が集まるこの大会の注目度は非常に高い。
この大会でよい成績を修めた学生は、将来を保証されるようなものだ。
今日はその魔法競技大会当日である。
誠とナタリアは出場を決めてからの2週間も欠かさず勉強会をし、共に魔法への理解を深め、魔法の制御を上達させていた。
この大会に向けてしっかりと魔法を準備してきている2人は自信に満ち溢れた表情だ。
そんな自信満々の2人は大会当日である今日もそろって受付に来ている。
ナタリアの方が誠の前に並んでいるため、彼女の方が先に受付される。
そして彼女の受付が終わったところで、今度は誠の番だ。
「学年とお名前をお願いします」
「1年の誠・藤堂です」
「マコト・トウドウ様ですね。確かに受付が完了しました。今大会の説明をお聞きになりますか」
「お願いします」
誠は一応大会の内容は知っているのだが、念には念を入れてということで説明を受けることにする。
「はい。今大会の競技種目は魔法披露です。出場者の方には順番にステージ上でご自分の得意な魔法を披露していただきます。それを審査員の方が採点し、その得点で順位が決定いたします。採点基準ですが、その魔法の難易度、安定度、美しさ、複数の魔法の組み合わせによる加点などを総合的に見られます。最終的に結果は100点を満点として、換算されることになります。マコト様の競技順ですが……最終演技者でしたか。今回の参加者は128人ですので、マコト様は128番目ということになりますね。自分の順番が来るまでは基本的に何をしていても問題ありませんが、順番が近づいてきましたら待合室の方へいらしてください。以上で説明は終了いたしますが、何かご質問はございますか」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「ご健闘、お祈りしております」
そうして誠は受付を完了し、ナタリアと再び合流する。
「誠は競技順、何番目だった?」
ナタリアは誠が近づいてくると、すぐにそう尋ねる。
「一番最後だってさ」
「あら、ついてないわね。私は30番目だから割と前の方よ」
誠もできることなら早めに終わらせたかったようだ。
その方が気が楽だからというだけだが。
こうして、魔法競技大会は開幕した。
魔法競技会は、誠にとって問題にならないレベルであった。
まだ序盤の30人程を見た限りでは、ということではあるが。
大抵の者は、まず目立とうとして火の魔法を使うが、その精度はあまりにも低い。
火の出力が安定していないのは問題である。
また、複数の魔法を組み合わせている者も今のところ見当たらない。
これで流石に高得点が出るはずもなく、大体50から60程度に落ち着いている状態だ。
「30番、ナタリア・スカーレット」
「はい」
審査委員長であるサラの声が響き、その声に対してナタリアは綺麗な声で返事をする。
ついにナタリアの出番だ。
ナタリアはステージに立ち一礼すると、一歩前に出る。
その美しく、また気品あふれる立ち振る舞いに会場中の視線が集まる。
会場中に注目されても、ナタリアが自信に満ち溢れたその表情を崩すことはない。
1年生でこれほどの態度で競技に臨める者はそういないだろう。
いや、学年など関係ないのかもしれない。
そして、ナタリアの魔法が始まる。
ナタリアは両手を前方の空間にかざし、そこに火が点る。
最初に現れた小さい火に、会場は一瞬落胆に包まれる。
だが、その魔法を見ている誠は安心した表情だ。
(練習通りだな。さすがナタリアだ)
ナタリアの生成した火は非常に安定度が高かったのである。
さらにナタリアの魔法はここから次の段階に移行する。
最初は小さかった火が徐々に大きくなっていったのだ。
しかも、その安定度を維持したままで。
そして、生成した火がナタリアの身長の3倍にはなろうかという大きさになったところで、大きさが安定する。
この段階で会場はかなりの盛り上がりをみせている。
おそらく、審査員の評価も上々だろう。
だが、ナタリアの魔法はまだまだ終わらない。
ナタリアの前方の空間で出力が安定していた火が、突然細くなっていったと思えばそれは竜巻のような見た目となる。
これは、風魔法と組み合わせた火災旋風のような状況を引き起こす魔法である。
ナタリアの魔法に対して会場中が騒然としている。
この魔法はすでに一人の学生が起こせる魔法のレベルを超えているからである。
さらにナタリアは目の前に放っている炎の旋風の魔法を離散させ、自分から2メートルあたりの位置に円を描くように小さな火の玉を配置してみせた。
最後にその火の玉を消して、ナタリアの魔法は終了した。
ナタリアは最初と同様に一礼し、ステージから退場する。
その間中、会場は割れんばかりの歓声に包まれていた。
少し時間が経った後に結果が発表されたが、点数は90点。
当然のごとく、ここまでのトップである。
その順位は、全く変動することはない。
当然であろう。
あそこまでの魔法を使える学生など、いるはずもないのだ。
これは、この会場にいる誰もが思ったことだろう。
そうしてナタリアの順位が変動しないまま、最終競技者、つまりは誠の出番がやってきた。
「128番、マコト・トウドウ」
「はい」
ステージの中央に向かって歩く誠に、緊張の様子は全くない。
ここまでの競技者たちを見てきて、そして自分の魔法が最も優れていると確信していたからだ。
そして、ステージの中央まで来た誠はその足を止め、一礼する。
誠はまず掌を前に出し、受け皿のようにする。
その様子を見た観客は、何をやっているんだ、という様子であったが、次の瞬間には驚愕包まれる。
誠のその手からは水があふれ出したからだ。
「なんだあれは」
「水の生成!?」
「ありえない……」
観客、審査員共に目の前に起きている現象に理解が追いつかない。
だが、誠の魔法がこんなところで終わるはずもない。
あふれ出した水は、ステージのフロアに向かって流れ落ちていくのだが、どうもその様子がおかしい。
その水は、ある一定の空間に収まっているのだ。
そして流れ落ちる水は、どんどん集まっていき、マコトの前方には大きな水槽のように水の溜まったものが出来上がる。
そこから誠は、そのたまった水を離散させ、水の玉として自分の周囲に配置する。
これはナタリアの火の玉の時と同じである。
しかし、誠は今凄まじいことをしているのだ。
ナタリアの場合、火の制御だけですんでいた。
それでも、複数の火を一度に制御するのだからかなりの難易度である。
だが、誠の場合は複数の水を制御するだけでなく、その水が流れだしたりしないように溜め込んでおくこともしなくてはならないのである。
さらに誠の魔法は続く。
誠は周りに配置した水の玉を少しずつ宙に浮かべていった。
重力制御魔法をその水の周りにだけ発生させたのである。
会場はそんな幻想的な水のショーに完全に見入っており、静まり返っている。
空中に浮遊した水の玉を、様々な方向に飛び交わせつつ、誠はタイミングを計っている。
会場を魅了するためには、タイミングも重要だ。
そして誠は、あるタイミングで宙に浮いていた水の玉の動きを止め、ステージまで降ろす。
その上で、熱エネルギーをかけることで水蒸気を発生させた。
ステージは水蒸気で満たされ、観客の視界が遮られる。
そして、その水蒸気が晴れた瞬間、会場はさらなる驚きに包まれていた。
誠が宙に浮いていたのだ。
いや、それだけではあきたらず、空中を様々な方向に飛び回っている。
最終的にステージ上に戻ってきた誠は一礼した。
これで誠の演技が終了である。
そして誠は、そのまま退場した。
誠が退場する際、会場はナタリアの時よりもさらに凄まじい歓声に包まれていた。
そして結果発表である。
誠の点数は、100点。
当然の結果である。
誠はこの世界の常識を覆すような魔法をいくつも使用したのだから。
当然ながら、国中の魔法士の機関が誠をほしがっているようだ。
こうして誠は魔法界に鮮烈なデビューを果たしたのである。
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これも読んでくださる皆様のおかげです。
拙い文章ではありますが、今後も精一杯書いていきたいと思います。
今後とも、よろしくお願いします!




