014
魔法競技大会で申し分ない成績を修めた誠とナタリアであったが、大変なのはむしろその後だったようだ。
2人は今、様々な機関の魔法士に勧誘を受けているのである。
国の重要機関はもちろん、地方の小さな機関や、学園の先輩たちの研究室、はたまた王国軍の魔法士隊までありとあらゆる魔法士が誠たちをほしがっている。
「マコト・トウドウ君、ぜひ我が王立第2研究所に!」
「何言ってんの!?マコト君は第5研究所に来るのよ!」
「お前こそ何言ってんだ!マコト君は魔法士隊に入るのさ!」
こんな調子で誠を取り囲んで、奪い合いが行われている。
ナタリアも大体同じ様子だ。
2人ともどうしたものかと、その周りの人達の奪い合っている様子を見ているしかできない。
その時だった。
「やめんか、お前たち!」
その声の正体は、セスであった。
誠は久しぶりに聞くその声と、その姿に喜びが込みあがってきて、すぐに声を出した。
「セスさん!お久しぶりです!お元気でしたか」
「おお、マコト。久しいな。儂は見ての通り元気だよ」
孫と祖父の再会。
誰が見てもそのように感じたのではないかと思う。
「それより、お前たち。誠はまだ学生、それも1年生だぞ。もう少し落ち着かんか」
『賢人』であるセスの言葉は、ここに集まる魔法士にもかなり効くようで動揺が隠せていない。
「で、ですがセス様。マコト君は水の生成や、空を飛ぶ不思議な魔法を……」
誠の周りを囲んでいる者達の内の一人が、そう言うのをセスは遮る。
「そんなことなど関係ない!学生の自由と可能性を奪うでないわ!」
セスの喝を受けた周囲の者達は押し黙る。
「さあ行こう、マコト」
そして、マコトに話しかけるセスは急に優しげになる。
そんなセスに誠は少し安心しつつ、答える。
「はい。あ、ちょっと待ってください。ナタリア!」
「ふぇ?」
急に呼ばれたナタリアは間の抜けた返事をしてしまう。
「ナタリアも行くよ」
「え、ええ」
そうして誠とナタリアはセスに連れていかれ、後には大量の魔法士だけが残っていた。
「私も一緒でよかったの?」
自分がセスと一緒に行ってもいいのかと、ナタリアは心配しているようだ。
そんなナタリアに誠は答える。
「何言ってるの?ダメなわけないよ。それにあのまま置いていかれたらナタリア大変だったでしょ」
「それはそうなんだけど」
「お嬢さんには、儂などいない方がよかったかな」
そう意地悪をするような目でセスはナタリアに問う。
「い、いえ!滅相もございません!セス様は私の目標であり、偉大なお方ですから」
「そう畏まらんでもよいぞ。マコトくらいでちょうどいい」
「セスさん、ナタリアは『賢人』になることが目標なんだそうです。ですからそういじめないであげてください」
『賢人』を目指すナタリアであるから、その『賢人』を目の前にすればそれは畏まってしまうのも当然であろう。
そんなナタリアを見かねてか誠はつい口を出してしまったのだ。
「ちょっ……!?マコト君!それは言っちゃダメ!」
ナタリアはそんな誠の口を慌てて押える。
恥ずかしさ半分、自分などがそんな大層なことを言っては申し訳ないという気持ちが半分、といったところだ。
だが、優しいセスはナタリアの思っていたような反応はとらない。
「そうかそうか。儂も競技を見ておったが、お嬢さんも将来はよい魔法士になると思うぞ」
「あ、ありがとうございます!」
慌てていたナタリアであったが、セスに褒められたらそんな気持ちはどこかへいってしまった。
その代わりに感極まって泣き出しそうになっている。
余程『賢人』への思いが強いのだろう。
「セスさんもいらしてたんですね。僕は全く気づきませんでした」
「マコトの晴れ舞台だ。見に来ないわけなかろう」
「ありがとうございます。セスさんには本当にお世話になってばかりなので、せめて頑張るくらいしかありませんね」
「いや、そんなこと気にしなくていいのだよ。独り身の儂には、もはやお主しか家族と呼べるものはおらんからな」
そう言うセスの顔には悲しんでいるような表情は一切なく、むしろ誠がいてくれることで元気を取り戻している様子だ。
実際、誠が学園に行ってからは研究を再開しているようで王都でも話題に上がっているらしい。
「しかし、お嬢さんが『賢人』を目指しているということは2人はライバルということになるのかな」
「そうですね。ナタリアは非常に呑み込みが早いので、うかうかしていると追い抜かれるかもしれませんね」
「……あなたが言うと嫌味にしか聞こえないけどね」
そんな2人をセスは優しい顔で見ている。
そう遠くない将来、この国、いやこの世界は目の前にいる2人を中心に回ることになるだろうとセスは感じていた。
「儂も負けていられないな」
「そ、そんな。私達などセス様には遠く及びません」
そう言うナタリアに対して、セスは否と返す。
「いや、儂は今のままではマコトに敵わない。だが、こんなに燃えているのは人生で初めてかもしれん。だからここから先は負けてはおらんぞ。見ていろよマコト」
「はい。僕の方もできる限りを尽くしてセスさんに勝ってみせます」
誠とセスもいつの間にやらライバル関係である。
この世界はすでに誠を中心に動き出しているのかもしれない。
――翌日。
誠とナタリアは教室でぐったりしている。
昨日はセスが守ってくれたおかげで、勧誘を逃れることができたが今日までそういうわけにはいかない。
さすがに国の機関からの勧誘などはなくなったが、学園の先輩たちの勧誘がすごい。
その誰もが、誠やナタリアの研究成果を自分の研究チームの名で発表したいという腹の者ばかりである。
本心からその技術を教わり習得したいというものはなかなかいないようだ。
それを考えると、ナタリアは非常に素晴らしい人だったんだと誠は実感せざるを得ない。
「これは流石に気がめいるわね」
「本当にそうだな」
2人はそろって深くため息をついた。
これからしばらくこんなことが続くのだろうかと思ったからである。
こんな調子では、自分の研究室を作る申請もなかなか出せない。
誠は早く自分の研究室を持てるように申請を出したいのだが、事はそう簡単にもいかない状況になってしまったようだ。
今までであれば、1年生でそんなことをするのは上の者達が許さない、と言ったことであった。
今も、自分の研究室を持たれると自分たちのところには来てもらえないという考えに変わっただけで、研究室を持てるように申請を出してもなかなか通すのは難しいようだ。
せっかく研究を始めることができると思っていた誠であったのだが、どうも流れが良くない。
そんなことを思っていると、またしてもクラスメイトに呼ばれる。
「ま、マコト、お前にお客様だぞ……」
これで今日何回目だろうと思いつつ、誠は重い腰を上げるのであった。
それにクラスメイトのあの慌てた様子、余程の大物が来たのだろうか。
考えるほどため息が出てくる誠であった。
そんな誠であったが、教室の入り口まで来たところで一瞬その身体が固まった。
誠の目の前に現れたのが、それはもう大層綺麗な少女であったからである。
まず一番最初に目に入るのは、その綺麗な金色の髪。
誠と同じ黒いローブを羽織っているからか、余計にその金髪は綺麗に見える。
そして少しずつ目を下していくと、青く深い瞳に、整った顔立ち。
プロポーションも絶妙であり、胸などはサラにも引けを取らない。
身長はナタリアと同じくらいだろうか。
見るからにお嬢様、いや、お姫様といった少女だ。
「えっと……誠・藤堂です。どちら様でしょうか」
誠はできるだけ平静を装いながら尋ねる。
どうせまた勧誘であろうと思ってはいるが、念のためである。
「あなたがマコト様ですか。申し遅れました、私はケレス王国第2王女、クリスティア・ディナラ・ケレスと申します。以後、お見知りおきを」
(り、リアルお姫様ああああああああ!?)
誠は心の中の叫び声を外に出さないことで精いっぱいであった。
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嬉しすぎて夢なんじゃないかと頬をつねってしまったほどです。
これも読んでくださる皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
今後も頑張って執筆していきますので、どうぞよろしくお願いします!




