エピローグ
一週間後。
栄吉は、いつものように店で豚玉を焼いていた。
「栄吉さん、これ見てくださいよ」
バイトの学生が持ってきたスマホには、観光サイトのランキングが映っていた。
『世界で最も刺激的な観光体験ランキング』
その第一位に、「道頓堀・公式ビクトリー・ダイブ」が選ばれていた。
「へへっ、当たり前や。大阪を『おもんない』なんて言わせへんからな」
店には、優勝の余韻に浸る客が次々とやってくる。
皆、晴れやかな顔をしている。街全体の空気が、どこか軽やかになったようだ。
「……なぁ、栄吉。次はマジック点灯の瞬間から飛び込めるようにせえへんか?」
常連客がビールを片手に冗談を飛ばす。
「馬鹿言え、あんまりやりすぎると価値が下がるんや。……でもまぁ、来年の日本シリーズの時には、もっと凄い風呂を用意しとかなあかんな」
栄吉はコテを軽快に鳴らしながら、窓の外の道頓堀川を見た。
水面は秋の陽光を浴びて、どこまでも澄み渡っている。
その川底には、きっと新しい時代の「大阪の魂」が、キラリと光って沈んでいるはずだった。
「大阪は、死ぬまでおもろい街であり続けなあかんのや」
栄吉のその言葉は、ソースの焦げる香ばしい匂いと共に、ミナミの街へと溶けていった。
道頓堀は、今日もおもろい。そして、明日もっと、おもろくなる。




