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Bloody Bless  作者: 館長さん
第1章:北方第6前線基地編

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第4話:一人はみんなのために、みんなは一人のために⑦

 先程とは一転し、俺は努めて冷静に、そして一言ずつ釘を刺すように、破滅までの秒読みを突きつけた。


「いいか。ウチの指揮官はもう人間じゃない。ただ目標を消去するだけの機械も同然だ。俺たちがいくら制止しても、二百秒……いや、百八十秒後にはあのレールガンで、そのトカゲの喉元を奥の施設ごとぶち抜くだろう。お前の要求も、救いたい同胞の未来も、全部まとめて無に還る。それが、お前の望んだ結末か?」


『は、笑わせてくれる! 人間じゃないだと? 貴様らスワスチム人は、全員が人間を辞めたおぞましい“機械人形”ではないか! ついに同胞の暴走も止められなくなったか? 論理こそが貴様らに残された最後のヒトらしさだとばかり思っていたが、とんだ見込み違いであったわ! それすら失った狂った機械どもの言葉の、どこに真実がある!』


 ノイズに混じった神官の言葉が、公用回線を通じて耳を突き刺す。


『……んだと、この欠陥持ちの“吸血鬼”風情が! 下手に出てればつけあがりやがって! 時間が無えって言って――』


「“ハンマーヘッド”!!」


 かつてないほどの俺の剣幕に、リュオンの言葉が止まった。視界の端に映る彼の顔を睨んだまま、静かに首を横に振る。すまねえ、と一言だけ漏らし、彼は再び口を開いた。


 機械人形に吸血鬼。それは肉体を捨てなければ生きられない機化人(サイボーグ)と、皇獣(おうじゅう)の血を飲み続けなければ生きられない神徒にとって、最大級の侮辱である。


 が、売り言葉に買い言葉とはいえ、今はそんな言い合いをしている場合ではない。もうすぐこの場にいる全員が、等しく鉄クズと肉片という名前に変わってしまいかねない危機的状況だからだ。


「悪かったな。だが、聞いての通りだ。今の彼も、ウチの石頭(隊長)も、お前を人間だと思っちゃいない。だから、今からウチの隊長がやるのは、ただの掃除だ。任務のためだけに引き金を引き、悔しいがそれを俺たちは止められない」


『貴様、そんな脅しにこの私が屈するとでも――』


「残り百二十秒だ」


 俺はイトデンワのノイズをねじ伏せるような語気で、短い言葉を置く。


「準備が完了次第、そこは間違いなく吹き飛ばされる。逃げ延びて再起を待つか、ここで無意味に蒸発するか。すぐに決めろ。言っておくが、次は守ってやれんぞ。そこからでも見えるだろう? 一撃目を逸らした代償に、スクラップになった俺の機体が」


 沈黙。


 神官の歯噛みするような音が、通信越しに漏れる。彼は狙撃に警戒しながらも、施設の窓越しに無残なトリオンの姿を見ているはずだ。


 張り詰めた緊張感が回線を支配し、イトデンワのノイズすら消えたように錯覚する。


『……条件は何だ。貴様らの言葉を、これ以上何を信じろと言うのだ』


「残り八十秒。人質を置いて北の路地へ消えろ。いいか、一人でも連れ出そうとすれば、俺の仲間がお前を肉片に変える。その弱点丸出しのトカゲごとな。一人で帰国するなら、誰にも追わせはしない」


 俺は返答を待たず、最後の一押しを叩きつけた。


「決めろ! 俺と一緒にレールガンのガイド付きで地獄へ行くか、同胞のいるヘアツゥへ帰るか!」


 神官の返答を待たず、俺は通信のプライオリティを書き換えた。


 イトデンワのハウリングが耳の奥で尾を引く中、代わりに公用回線から割り込んできた怒声が人工鼓膜を打つ。


『“ドルフィン”! 貴様、今の独断専行が記録されていると知っての行動か!』


 北方第6前線基地、CCC(戦術管制室)。その室長であるオズワルド・ガネット中佐――すなわち、現場単位で各小隊の作戦を立案し、具体的な指示を出している責任者の声であった。


 リルの廃棄を決め、同時に生き残りのチャンスをくれた人物でもある。その彼がわざわざ回線を繋いできたということは、俺の独断がいよいよ軍の許容範囲を大きく逸脱し始めたぞ、という宣告に他ならない。


(やれやれ、またしてもあの中佐様を直接引っ張り出しちまうとは。しかし……)


 恐れはなかった。彼がこうして怒鳴り込んできたということは、まだ対話の余地があるということでもある。


 もし本当に見捨てられたのなら、今頃俺には帰還命令が出されているはずだ。その先には軍法会議、あるいは軍籍の剥奪が控えているかもしれない。


 著しい利敵行為は、銃殺刑の可能性もあり得ただろう。まったく、お人好しなことである。


「こちら“ドルフィン”。それで、黙っていられなくなった中佐殿に、他にこの場の被害を増やさずに打開する手立てがあるとでも?」


『不遜な口を叩くな。“ドルフィン”、貴様の独断で行った敵への逃走示唆は、本来ならば即刻軍法会議ものの命令違反だ。だが、私とて鬼ではない。挽回のチャンスをやろう』


 スピーカーから放たれたのは、一切の情を排した、だが確信に満ちた事務的な声だった。中佐の言葉は、なお続く。


『現時刻をもって、貴様に敵皇獣(おうじゅう)の身柄確保を命ずる。今すぐバジリスクを実力で抑え込み、歩兵部隊の突入ルートを確保しろ。人質の安全を第一とし、制圧完了まで敵を一歩も動かすな。これがCCC(戦術管制室)の最終回答だ。変更および違反は認めない』


「中佐、それは本気で? 俺の機体は、もう一歩も――」


『聞こえなかったか? 確保だ。なお、“ハンマーヘッド”および“ノーチラス”に告ぐ。これは“ドルフィン”への単独任務であり、同時に独断専行への罰である。貴様ら二機は、指一本、援護のために動くことは許可しない。黙って皇獣(おうじゅう)の毒液処理に専念したまえ。以上だ。分かったら復唱しろ、“ドルフィン”』


「……了解、“ドルフィン”はこれより敵皇獣(おうじゅう)の確保を任務とする。ところで中佐、“屏風の虎”って知っているか?」


 俺の返しに対し、返答は無い。お喋りに付き合うつもりはない、という中佐の意思表示だ。ただ、通信が切れる直前、鼻で笑うような息遣いが聞こえたような気がした。


(あの狸親父、俺が動けないことを分かった上で、一芝居打ちやがった……!)


 そう、俺は彼に助けられたのだ。独断で敵の逃亡を促した罪。それは“歩兵部隊の施設への突入支援、および速やかな敵の完全排除”という今回の命令に、真っ向から反抗するものである。


 無論、後悔は無い。クローディアによる次の砲撃を止めるには、敵にいなくなってもらう以外、現状では手がないからだ。

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