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魔法学校入学の朝は、清々しいほどの晴天だった。
レティスとセシルは笑顔のジートに別れを告げて、中央エリアヘ向かっていく。
同じ王都とはいえ離れ離れになる寂しさはあったものの、これからの生活に期待が膨らむのも事実である。
入学試験での一件は王都各地で噂として広まり、いい方向へと作用したようだった。
入学前の挨拶でギルド叢雲へ寄ってみると、驚くことにギルド加入者が増えて、30名程の規模まで成長していた。
ギルドマスターのロイドは戸惑っていたものの、しっかり者のハウルがいるのだから大丈夫だろう。今後はゆっくりだが成長していくだろうと期待している。
最も、例の四天王はレティス達といないと力が出ないと言って、なんだかんだとだらけているらしい。たまには顔を出さなければいけないかもしれないが、当分先になることだろう……。
ギルド組合のアルメニアは、いつものように優しい笑顔で出迎えてくれた。魔法学校へ入ることは分かっていたので、時間があれば手伝ってくださいね!とお願いされてしまった。なので逆に暇をしている四天王のお世話もついでにお願いしておいた。
将来の就職先として、冒険者というのも面白いかもしれない。
地下水路でお世話になったガンテツは、技術系ギルドがある東エリアに住んでいた。あの事件以来交流を持つようになり、王都の街並みについて一緒に歩き、案内してもらったこともある。
もし技術系の知識が必要になったとき、頼ろうと考えている。
西エリアではゲルマントの家へ挨拶に行った。
ゲルマントはレティスたちが初めて行ったギルド依頼の依頼人であり、当時は崩れてしまった家屋が今は無事に復活し、再び元の生活へ戻ることが出来たそうだ。
魔法学校へ行くことを告げると、困ったことがあれば何でも相談してください!と心強いお言葉をいただいた。余った羊毛でももらい、母リース直伝の手芸を生かして、空いた時間に何かを作っても良いかもしれない。
北エリアは薬師会ウインドファームの会長、サンサ・サンスルテにも挨拶に行った。
なんでも地下の魔物事件のせいで、植物の魔物化実験は完全に禁止されてしまったらしい。これまで作ったものに関しては所有について許可されているが、厳重な監視の下、あくまで延命に留まることになったそうだ。口惜しそうにしているのは、ハットが発見した効能変化という可能性だろう。メリットとデメリットを天秤にかけて、どちらを取るかである。
北エリアで出来た友達。そう、セシルの友達第二号のハットへも会ってきた。
彼女は入学試験での一件を知っても、友達というスタンスを全く変えなかった。普段は出会うことがない距離にいたため、お互いの素性については全く知らなかったらしい。セシルはセシルなので関係ありません!と断じた時に、泣いたセシルに戸惑うハットは、横から見ていると胸を熱くさせるさせるものがあった。
ちなみに彼女はレティスのチームの一員である。もちろんセシルもだ。魔法学校でも3人とあと2人の仲間と共に頑張っていこうと思う。
そうそう、最後にあいつが抜けていた……!
紺色をした専用の学生服を身にまとった、男女約1025名の学生が訓練場へズラリと並んだ。
長々しい学校長の挨拶。各種お偉方からのお話が続き、魔法学校の説明がされ、ようやく入学式が終了した。
要約すれば
・学生皆平等で貴族とか市民とか関係ないから!
・まずはチームで仲良くね!
・中央エリア水路の内側には部外者の立ち入りは禁止だぞ!
・外部からの物資の持ち込みは可能だぞ!
・学生に与えられた西の森の領土は好きに自治して良いよ!
・外出は可能で連日の外泊は不可だよ!
・3年生からは学科で分かれるよ!それはその時説明するよ!
これを説明するのに3時間くらい取られた感じだろうか……。
ある意味すごいと思えた。学生たちも疲れ気味である。
入学式が終わり、学生が学び舎へと案内されていく。
これから教室ごとに詳しいカリキュラムの説明があるそうだ。
そんな移動する生徒の話題は、入学試験でぶっちぎりの一位を獲った男、ギルスン・フォードと彼と死闘を繰り広げた、カゼット・ウォール……そして、ボロボロにやられたレティス・クローゼェルであった。
話題の三人が揃えば、自然と人だかりができるというもの……。
レティスは因縁浅からぬカゼット・ウォールと退治していた。
立会人はギルスン・フォードだ。
「よう。チビすけ、元気だったか?」
「お猿のカゼットも元気そうじゃないか?」
互いに火花が散らんばかりに睨み合っている。
「いや、でも良かったよ。あの時の約束を楽しみにしていたからさ」
「……何のことだ?チビすけ」
「忘れたのか?負けたほうが勝った方のいうことを何でも聞くって約束だよ」
「バカかお前は。俺が負けたのはそこの優男だろうが!」
「僕は選手交代だっただけだよ」
「ふん。分かったか?つまりあの勝負は僕の勝ちだ!」
「無効だ!そんなもの!」
「まぁいいよ?君が逃げるというなら止めはしない……逃げるならね……」
「ほぅ。もういっぺん死にたいらしい」
「入学式の場で暴力はダメだよ?」
「ギルスンてめぇまで!?」
「勝負は対等だった。そうじゃないかな?」
「お前に言われるとなんか腹が立つぞ……」
「それはそうとレティス君。何を命令するんだい?僕はそれが楽しみでね」
「やっぱりてめぇも楽しんでんじゃねーか」
「だって興味があるんだ。仕方がないだろう?」
「僕も必死に考えていました……どうやったら彼を更正させられるだろう……と」
「更正とか何様だ?チビすけ、お?」
「僕は相手の言うことを聞かず、知らず、ひたすらに非難するカゼットに、それが間違いだと伝えたかったんだと思います。だから……本当は……本当はすごく嫌なのですが………………」
「そんな苦悩することってなんだよ。心配じゃねーか……こえーよ……」
震えるほど嫌がるレティス。それを唖然と見るカゼット。笑うギルスン……。
「ぼ、、、、、僕と友達になって下さい」
「なぁ、そんな嫌ならやめとうぜ。マジでさ?」
「あはははは。そうか。うん、面白いね!」
互いに握手していたが、途中からつかみ合いのケンカになり、ギルスンが二人とも叩きのめした。
潰れた男たちをよそに、女性たちも友情を育んでいた。
「リンゼ・ミシュランと申します。セシルさん、私の友達になっていただけますか?」
「よろこんで。リンゼ……。私はセシル・ムーザックだ。セシルと呼んでくれると嬉しい。」
「私も入れていただけますか?ハット・グリーローレンと申します」
この日からレティスたちの新しい物語が、始まるのだった……。