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第5話 監禁する理由

暗闇。


どれくらい時間が経ったのだろう。


時計はない。


窓もない。


聞こえるのは、自分の呼吸だけだった。


「……誰か。」


思わず呟く。


返事はない。


手錠を引っ張る。


ガチャッ。


ガチャッ。


硬い金属音だけが地下室に響く。


「くそっ……!」


何度引いても外れない。


無理やり外すのは無理か……。


ガチャ。


そんなことを思っているうちに扉があいた。


部屋の電気が点く。


眩しさに目を細めると、美咲がトレーを持って立っていた。


「おはよう、蒼真。」


昨日と変わらない笑顔。


まるで何事もなかったかのようだった。


「朝ご飯持ってきたよ。」


トレーの上には、焼き鮭、味噌汁、ご飯、卵焼き。


どれも湯気が立っている。そして、不気味なほどに僕の好きな食べ物でそろえられていた。


「....おいしそうだね。」


「でしょー!蒼真の好みに合わせて作ったからね!」


「……美咲に聞きたいことがあるんだけど。」


「なに?」


「……一つだけ聞かせて。」


「僕がいなくなったら、親にはどう説明するつもりなんだ?」


美咲は少しだけ考えるように首を傾げた。


「説明?」


「うん。」


すると、美咲はくすっと笑った。


「大丈夫だよ。」


「え?」


「実はね……私のお母さんも、お父さんのことをここに閉じ込めたことがあるんだって。」


「……は?」


思わず聞き返した。


「昔、お母さんから聞いたの。」


「だから、この地下室があるんだよ。」


頭の中が真っ白になる。


冗談……だよな?


そう思いたかった。


けれど、美咲の表情はどこまでも真剣だった。


「その話を聞いたときね。」


「私、ちょっとだけ憧れちゃった。」


そう言って、美咲は照れくさそうに笑う。


「好きな人と、ずっと一緒にいられる方法なんだなって。」


背筋が冷たくなる。


この子は、本気だ。


「それにね。」


美咲は僕の目をまっすぐ見つめた。


「お母さんは『好きな人を離したくないなら、最後まで責任を持ちなさい』って言ってた。」


「だから私は、蒼真のことを絶対に幸せにする。」


その言葉は優しい。


なのに、どうしようもなく恐ろしかった。


「それで!早くご飯食べよ?」


「ああうんそうだね。」


「そうそう。これからの話だけど、もし学校に戻れる日が来ても、あの委員長とは関わっちゃだめだからね?何なら話も。」


「なんで委員長だけ?」


「いいから。とにかく話しちゃだめだよ。話したら蒼真をどうするか私もわからないから。」


美咲は制服のポケットに手を入れる。その瞬間、銀色の刃が一瞬だけ覗いた。


とりあえず方針は決まった。最初は従順、そして油断したすきに逃げる。何とか既成事実を作らせないうちにこれを実行しなくちゃいけない。


「それじゃあ、私が学校に行くから。しっかりお留守番しててね?」


美咲はそう言うと、僕の頭を一度だけ優しく撫でた。


「いい子にしてたら、ご褒美をあげる。」


ガチャリ。


重い扉が閉まり、再び地下室は静寂に包まれた。


……今しかない。


美咲が帰ってくる前に、この部屋から逃げ出さなければ。


そう思った僕は、もう一度手錠へ視線を落とした。


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