表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/92

54 ユニコーンの騎手 オークの兵

漆黒の雲が空を覆う荒れ地に、蹄の音が雷鳴のように響き渡った。


白銀の鬣をなびかせて駆けるユニコーン。


その背にまたがるのは、上半身を獣革で覆ったゴルド族の戦士たち。


戦闘用の衣装をまとったザンバたちの瞳孔が開き、前方の敵を見据える。


蹄が土を蹴るたび、胸が高鳴る。


風を裂くたてがみ。


振動する鼓動。


戦の匂いが近づくにつれ、体の奥底から熱が湧き上がった。


血が、騒ぐ。


ザンバの手には、巨大な戦斧が握られていた。


騎兵用に、柄の部分が長く作られている。


目の前に立ちはだかるのは、筋骨隆々たるオークの歩兵たち。


体高は二メートル。


まるで岩壁のような巨体が、槌の一振りで地を震わせている。


すでに仲間の騎兵が吹き飛ばされていた。


ザンバは怒りの叫びとともに斧を振り下ろし、ユニコーンの突進に合わせて敵陣へ切り込んだ。


ユニコーンの角が一体のオークを貫き、赤黒い血が噴き上がる。


同時に、ザンバの戦斧が二体のオークをまとめて薙ぎ払った。


一瞬で、三体。


だが、オークの歩兵は数が多い。


周囲のオークたちの咆哮が、戦場に響き渡る。


巨体が鉄槌を高々と掲げ、轟音とともに振り下ろした。


地面が砕け、破片が飛び散る。


だが、そこにもうゴルド族の姿はない。


ユニコーンが風のように駆け抜けていた。


槌の軌道を見切ったザンバが、横薙ぎに戦斧を振る。


刃がオークの肩を裂き、黒い血が噴き上がった。


浅い。


オークは怯まない。


傷口から筋肉を震わせ、次の一撃を振りかぶる。


ユニコーンが蹄で地を蹴った。


宙を舞うような跳躍。


その勢いのまま、ザンバは高所から敵の頭部を狙い、斧を叩きつけた。


鈍い打撃音が、骨を砕く。


オークの首がのけぞり、膝をついた。


だが、その手はまだ鉄槌を離していない。


そこへすかさず、ユニコーンが自慢の角でオークにとどめを刺した。


何も言わずとも、ザンバとユニコーンの連携は取れている。


ゴルド族の者は、言葉を話す前の幼少期からユニコーンに騎乗する。


愛馬との信頼関係は、もはや本能に近い。


しかし、敵は続々と襲いかかってくる。


斧と鉄槌が交錯し、火花が散るたびに、荒れ地は死地へと変わっていった。


戦況が傾き始めたのは、不意に現れた変異種のせいだった。


腐肉の臭いを纏ったオークとは、明らかに異質の存在。


全身を異様な瘤と甲殻に覆い、二対の腕を持つ変異体が、吠えながら突撃してきた。


「なんだ、あれは……。まるで死体を組み合わせたような形相だな」


異形のオークが吠えた。


四本の腕。


そのうち二本には鉄製の鉤爪が装着され、残る二本は巨大な鉄槌を両手で構えている。


皮膚は、つぎはぎのように異種族の死体を縫い合わせたもので覆われていた。


腐臭が風に乗って広がる。


目は赤く、理性の欠片もない。


ザンバはユニコーンの背から戦場を見据え、舌打ちした。


「化け物め……」


地を滑るような突進。


ユニコーンの角が、まっすぐ怪物へ向かっていく。


だが、オークは鉄槌を振り下ろすふりをして、左右の鉤爪で切り裂こうとした。


「甘い!」


ザンバは体を大きく後ろに倒し、斧を肩越しに一閃した。


鉤爪の一本を弾く。


さらにユニコーンが急停止の勢いを活かして反転。


ザンバの刃が、異形の脇腹を裂いた。


だが、肉は硬い。


血の代わりに、悪臭を放つ黒い膿が滴るだけだった。


次の瞬間、鉄槌が振り抜かれた。


間一髪、ユニコーンが跳ねてかわす。


だが、爆風のような風圧がザンバを吹き飛ばした。


落馬した拍子に、斧が手から離れる。


「チッ……!」


地面を転がりながら斧を拾い、すぐさま愛馬にまたがる。


ユニコーンが再び駆け、異形のオークへ向かう。


巨大な鉄槌が、獣のような唸り声とともに持ち上がった。


だが、ザンバの眼光は恐怖に染まっていない。


それは獲物を見据える、狩人の目だった。


「永遠に眠っていろ、屍の化け物――!」


雄叫びとともに、斧が唸りを上げる。


ユニコーンが嘶いた。


それは怒りの声か。


あるいは、主への応答か。


白銀の蹄が大地を蹴り、疾風のように異形のオークへ再突進する。


鉄槌が振るわれた。


しかし、今度は動きを読んでいた。


ユニコーンは寸前で急停止し、わずかに身をひねる。


振り下ろされた鉄槌は空を切り、バランスを崩した怪物の体が一瞬よろめいた。


その隙を、ザンバは見逃さない。


「今だ!」


跳躍。


鞍を蹴って宙へ舞い、着地と同時に、肩口から斧を全力で振り抜いた。


斧刃は異形の肩から胸元を裂き、縫い合わされた死肉を剥がしながら深く食い込む。


咆哮。


四本の腕が本能のままに暴れ回る。


だが、ユニコーンの角が側面から突き刺さり、残った左腕を貫いた。


膿と血が噴き出す。


異形は呻くように膝をついた。


ザンバは最後の一撃に全身の力を込め、斧を振りかぶる。


「命を懸けた地に立つ資格は……貴様にはない!」


斧が叩き込まれた。


怪物の頭蓋が、真っ二つに裂ける。


瞬間、すべての動きが止まった。


異形は崩れるように倒れ、黒い体液が泥に混ざって広がっていく。


荒い息を吐きながら、ザンバは斧を地面に突き立てた。


そして、静かに空を仰ぐ。


横に立つユニコーンの鼻先が、彼の肩を優しく押した。


なんとか変異種を倒した。


だが、その瞬間、空気が変わった。


ザンバは慌てて、再びユニコーンにまたがる。


ズン――ッ。


ズン――ッ。


地響きとともに姿を現したのは、山のようなオーガたちだった。


高さ三メートルを超える巨体。


全身を骨の装甲で覆い、大剣や巨大なハンマーを振り下ろすだけで、オークすら巻き添えにしている。


ザンバは咄嗟にユニコーンを跳ねさせ、大剣の直撃を避けた。


だが、風圧だけで体勢を崩される。


「こいつは……強さの桁が違う」


ザンバは血まみれの顔に苦笑を浮かべ、戦斧を握り直した。


その視線の先には、赤く光るオーガの眼。


そして、今まさに踏み潰されそうな仲間の姿があった。


「お、いたいた。おーい!」


その時だった。


まるで散歩中に知り合いを見つけたかのような、のんびりとした声が戦場に響いた。


ザンバは思わず振り返る。


そこにいたのは、新たな主人。


サタンだった。


サタンの力はいまだによく分からない。


ただ、なんとなく、とてつもない存在なのだろうということだけは分かる。


それは、先代のゴルド族のカシラとの戦いで嫌というほど思い知らされた。


あの恐ろしく強かったカシラが、ほとんど一方的にやられたのだ。


あの時から、サタンに敵対しようなどという気持ちは、一瞬で消え失せた。


「サタン様!! オーガが十数匹です。……お任せしてもよろしいのでしょうか?」


オーガの群れを見渡し、ザンバは思わず息を呑む。


――本当に、サタン様ひとりに任せていいのか?


胸の内で迷いが生じる。


とはいえ、騎馬隊総員が全滅覚悟で向かったところで、一、二匹倒せるかどうかがせいぜいだろう。


「ああ、任せろ。お前らは後方のリザードマンやオークの対処を頼む」


「しょ、承知しました……」


不安に駆られながらも、ザンバたちは言われるがまま、討ち漏らした魔人や亜人の処理へ向かった。


「よし。これで遠慮なく……」


一人残った俺は、オーガたちに向き合う。


「さて、俺はどれくらい強くなったかな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ