先輩は窃盗犯
ここに出てくる上司は他のエピソードに出てくるバカ上司とは別人物です。
ある日の白湯タイム
知り合いの弁護士から電話がかかってきた。
「例の件で警察署に来ています。そちらにも事情を聴きたいとのことで警察署から数日中に電話をするそうです」
俺
「わかりました。よろしくお願いします」
その電話を切った後、残ったぬるめの白湯を飲みながら20年前の一件を思い出していた。
20年前
「空き巣に入られた。」
いや、正確には
「入られてた」だ。
今までも現金の入った封筒がなくなることがあったが自分がどこかにしまい込んでわからなくなっているだけだと思い込んでいた。
職場でも仲のいい先輩に
「ほんとお前は忘れっぽいからな」
とよく言われた。
今回は間違いなくいろいろな物がなくなっている。
買ったばかりのDVDや貯金箱代わりにしていた小銭をパンパンにしたペットボトル数本、緊急時用に隠しておいた財布の中の現金。
経路は玄関からだ。
ただ、俺は超がつくほど心配性だから鍵のかけ忘れはあり得ない。
ベランダの窓の鍵も開いていたが足跡がないらしい。
警察の見解は、鍵で入って窓を開けて入った風にして鍵を閉めて帰った。
とのこと。
俺の鍵を持っている人が犯人!?
鍵を持っているのは母親だけだ。
こうなっては誰も信用できない・・・
次の日、空き巣に入られたことを職場の先輩に話す。
先輩
「災難だったな、お前の思い違いでカギを閉め忘れたんだろう。戸締りきをつけろよ」
俺
「そうなんですかね、まぁ気を付けます。」
先輩
「ところで車屋のかわいいおねぇちゃんとどうなった?」
俺
「何ですか、突然。何にもないですよ」
先輩
「嘘つくなよ。お前はほんとわかりやすいな、どっか行くんだろ?隠すなよ。」
この何でも無いような会話だが、俺はこの日から先輩を疑い始めた。
なぜかというと、当時、思いを寄せていた車屋の女性と数日前にご飯を食べに行くことになって浮かれて家のカレンダーに
『デート』
と赤で書いていたのだ。
その事実を知ることができるのは、俺の部屋でそのカレンダーを見た人物だけだからだ。
その後も先輩は、突然キレるドッキリを仕掛けてきて俺が騙されやすいかなどを確かめるような行動をとった。
また、ある時には
「泥棒がだれか分かったらそいつどうする?」
と聞いてきたので
「殺しますよ」
とフリーザみたいに答えて二人で笑いあうようなこともあった。
もうどうでもいいや、俺の勘違いだと思うようになっていた。
空き巣に入られて警察に通報してから1週間ほどたったころ、先輩の奥さんから電話があった。
「旦那が金曜日からかえって来ないんだけど知らない?」
今は日曜の夕方、俺はすぐに先輩が事故で崖下にでも落ちていると想像した。
「心当たり辿ってみます」
先輩にはすぐ電話を掛けてみたが出ない。
俺は先輩が通勤に使っているであろう道やその周辺を辿って危ない道がないか見て回った。
数時間捜索したが、何も情報がなかった。
先輩の奥さんに
『見てみましたがわかりませんでした』
とショートメールを送ると、すぐに
『もう大丈夫、ありがとう』
と返信があった。
俺は訳が分からず先輩に電話してみるが、先輩は相変わらず出ない。
でも奥さんも理由を言わない。
家庭の問題かもしれないのであまり突っ込むこともできなかった。
週明け、職場に先輩はいなかった。
代わりに警察が来ていた。
上司と警察は先輩の机やロッカーなどを調べていた。
一通りの捜索が終わると、上司は俺に向かって言った。
「お前の窃盗の件もあいつで間違いないな」
俺は理解が追い付かなかった。
「え、いや、まさか先輩がそんなこと・・・」
と言いながら涙がボロボロ出ていることに気が付いた。
そこからは言葉が出ず上司も俺が落ち着くまで待ってくれた。
俺の家の鍵はどうしたかと言うと俺のロッカーから盗んで合鍵を作っていた。




