国道スカイハイ
100均で楓を見つけた俺達は、楓が顔を出している天井の穴の真下へと走って行った。
だがこれが案外難しい。重力が小さくなっているせいで、一歩ごとにふわっふわっと高く飛び上がるようになって、前に素早く進めない。
「おいおい、なんだよこれ気持ちわりぃんだけど!?」
「夢の中みたいだな、急いで足を動かしてるつもりなのに、空回りするみたいになる」
俺達はまるでスキップしてるみたいな愉快な調子で近づいていき、下から楓に声を掛けた。
「楓も来てたのか、100均人気だな」
「あ、はい。マンション通販にここのものが追加されていて、もっと他にも欲しいなと思いまして。……って、それは今はいいんです。それどころじゃなくて、すごいことになってるんです」
「そういえば上に来いって言ってたな、どうかしたのか?」
「言っても意味不明だと思うので実際に見てみてください。上にくれば見られます」
そこまで言うとは何が起きてるのか気になってくるな。
それは久我も同じようで、きょろきょろと周りを見回している。
「おい楓ちゃんよぉ! 上に来いって言われても階段がねえって。崩れちまってんだよ」
「階段なんてなくても大丈夫です、今は重力が軽いですから」
……なるほど確かに。
1Gの先入観に囚われていた。今なら垂直跳びの要領で……。
「よっ! お、届いた」
思い切り踏み切ると、穴を通り抜けて二階の天井に手がつくくらいまでジャンプできた。
ゆっくりと二階フロアに着地すると、それを見ていた久我も手を打ち、同じようにジャンプして二階にやってきた。
「うお、俺のジャンプ力やべーな。今ならオリンピックにも出られそーじゃね?」
「オリンピック選手のジャンプ力もアップするから差は縮まらないんだけどな。それで楓、見て欲しいものってのは…………!?」
二階は一階より崩壊が激しかった。
南側の壁が長く崩れていて、そこから外の様子がパノラマで見える。
絶句するような光景が俺の目に映し出されていた。
「な……なんだありゃ!? 道が浮いてる!?」
国道が青空に浮かんでいた。
100均に入るまではずっと南へと伸びていた国道、それが今は地面から引き剥がされ、重力のくびきから逃れ、大蛇のように長い灰色の体を青空に浮かべている。
「重力が……国道も影響を受けてるってことか」
「そうみたいです。むしろあっちが本領発揮で、こちらはその余波を受けているんじゃないかと思います」
ここの建物はまだ地面についているけど、あっちの道は完全に空を飛んでるもんな、そう考えるとたしかにあっちが異常現象の源なんだろう。
「おいなんだよこれ!? こんなことありか!?」
「今の世の中じゃアリだな。……前にも似たことがあった」
俺の脳裏をよぎったのは自然公園でのこと。
普通の公園だった彩草市自然公園が、砂地獄や魔力の雨が降るなど異常な環境になっていた。世界が崩壊してマホウとかが存在するようになった影響で。
それと同じく、この長い国道の一部が、異常環境になってしまったんだと思う。重力異常という環境に。
「力のかかりかたが地表にあったときとずれてしまったから、道路が壊れてしまっているんでしょうか」
楓が言う通り、浮かんでいる道路は、地上にある時のまま浮かんでいるわけではなかった。言うまでもなく本来は真っ直ぐな道路だったのが、張力などのバランスが崩れ、曲がり、折れ、いくつにも千切れ、小さいものは数メートル、長いものは100m以上のアスファルトが、渦を巻きながら空へと昇っているようになっている。
「壮観だな……」
「はい、すごい光景……」
落ち着いて見るととんでもない光景だ。
しばしの間俺達は何も言葉を発さずにただその異常で壮大な景色を眺めていた。
チカッ――。
ん?
チカッ、チカッ。
何かが光を反射している?
俺は光の方へ目を向け……あれはまさか!
光を反射していたのは、濃い紫色の結晶だった。
渦巻き昇る道路の一番上で太陽の光を反射しているそれは、かなり距離があるがここからでも見える。
そしてこれには見覚えがある。
自然公園の時、一番中心にあったほぼ黒と言えるほど深い紫色の魔石。星魔石を見たときと同じだ。
やっぱり同じなんだ。
異常な環境変化を引き起こすようなところには、その魔力的な力が集まって、特別な魔石が生まれる。
あれを回収すれば、この前第二マンションを作るのに使ったような大きいことがまたできる。大きな可能性が生まれるぞ。
「おい九重! あの道路行ってみねー?」
俺の心の声を代弁したのは、久我だった。
「ほら見てみろよ、あの浮いてる道路、そこら中に魔石の結晶があるぞ。ってことは、MP稼ぎ放題ってことじゃねーか。ってことは、通販で買いたい放題ってことじゃねーか」
なるほど、久我は普通の魔石の方に惹かれたか。
たしかに自然公園も通常の魔石もたくさんあった。こういうところには魔石が集まるんだな。
「ああ、あれは魅力的だ」
「だろ!? だったら――」
「あの、少し待ってください」
だが前のめりになる俺達に楓がストップをかけた。
「たしかにあの場所にいけば、魔石がたくさんありそうですけど、でも、いきなり行くのは危険だと思いませんか。ちゃんと道具とか用意してからの方がいいと思うんです」
たしかにそうだ、寸断されて宙に浮く道路、中途半端なことをしたら落ちてしまいかねない。無重力に近い状態なら落ちても平気……と都合よく考えて落ちるのはさすがに怖いもんな。
それに以前の公園のことを考えると、重力以外にも妙なことが起きるかもしれないし、いったん帰って準備をしてからの方がいいのはその通り。
「そうだな、道路が逃げるわけでもないし今日のところは引き返した方が良さそうだ。そして準備を万端にしてからまた行くってことで」
気がはやっている久我をなだめながら、俺達はマンションに戻った。
そして使えそうなものを準備してアタックに備え、翌日が本番だ!
……と思っていたら翌日からしとしとと雨が降ってきた。
さすがに雨の中あんなところに強行するのはやばすぎるし、久しぶりにのんびりできるいい機会と思って、大仕事の前に休息させてもらうしかないみたいだ。
他の住民達も皆、思い思いに自分の時間を過ごしているようだ――。




