閑話『ステルスアクションの申し子、綾瀬と土屋』
「ああ、土屋ね! ………………つちや……」
「その顔は絶対覚えてないッスね!?」
「あはは……スミマセン……マンションの先輩……デスヨネ?」
土屋は首を縦に振った。
「303号室ッス。一応……あの……覚えて欲しいッス」
「ハイハイ、もう覚えたから大丈夫よ大丈夫。うちちゃんと話しさえすればその人のこと覚えられるんだから。土屋ね、うちは綾瀬」
「もちろん知ってるッス」
「…………よろしい。で、なんでこそこそ隠れてたの? うちを盗撮でもするつもり? んん?」
綾瀬は土屋の肋骨を人差し指でぐりぐりする。
「ち、違うッス! 魔獣に見つからないようにッス。自分、消えるしか能が無いんで、魔獣に見つかったらアウトなんで消えてないと。…………むしろなんで綾瀬さんは普通にそのまま歩いてるんスか、戦うような能力じゃなかったと思うんスけど……」
綾瀬はセミロングの髪をかき上げると、得意げな顔で指をチッチッと振る。
「普通に歩いてるなんて大間違い。よぉく見た方がいいよ、見えないけど。常にソナーの能力を使って、近くに魔獣がいないことを確認ず・み」
「おおお! すごいッス! そんなことまでわかるんスか。自分みたいにずっと姿消してビクビクしなくても、安心して魔石集めてMP稼げるんスね!」
「そゆこと~。だからうちと一緒にいるときは、消えて無くて大丈夫ってこと。ていうか消えられてるとぞわぞわするから姿出しといて」
「もちろんッス。消えてるの地味に疲れるんスよ。その代わり、力仕事は自分がやるッス」
「良い心がけじゃないの。だったら一緒に行動しちゃおうか…………伏せて!」
綾瀬の笑みが瞬時に消え、身をかがめて身を隠した。
土屋も同じくしゃがみこんで元アパートの鉄筋コンクリートに隠れる。
数十秒後、『ブルブルルルゥ』と鼻を鳴らしながらイノシシ魔獣が近くを通り過ぎていった。
立派で鋭い青い牙を持っていて、体長は2m近くある大イノシシで、もし見つかれば牙で引き裂かれ怪我は免れないだろうと誰でも理解できる化け物だ。
しかし身を隠していたおかげで大イノシシ二人には気付かずに通り過ぎていった。
十分離れてから綾瀬はピースを土屋に見せつける。
「ね? こういうワケ」
「はい……! ついて行きます綾瀬の姐さん……!」
「誰が姐さんだ! うちが魔物避けしてるんだから、力仕事はあんたにしてもらうからね、土屋!」
そうして魔物を避けながら、綾瀬と土屋は魔石を掘っていった。瓦礫を手作業でどけていくのに腕が疲れてきたところだったので、綾瀬にとってもちょうどいい出会いだった。
そうやってしばらくは順調だったが……。
「……ちょっと問題が発生したかもよ」
二時間ほどそうした頃、綾瀬の眉間に汗がにじんだ。
「どうしたんすか? 姐さん」
「だからそれはやめろっての! ……30m先を右に曲がったところに埋もれた魔石の音が聞こえて来たんだけど」
「本当に便利ッスねソナーのマホウ」
「うふふふふ持ち上げてもなんも出ないぞ土屋ぁ。……とそれは置いておいて、その魔石の音の上に魔獣の音がしてる」
「えっ、それじゃあ採れないじゃないスか」
音からすると、さっきの大イノシシと同種の魔獣が、魔石が埋もれている瓦礫の上にいるようだった。
瓦礫に鼻先をくっつけて、ふんふんと鼻を鳴らしている音が聞こえてくる。
そのことを土屋に伝えると、土屋はすぐに回れ右して。「じゃあ別のところに行きましょう」と言い出した。
だが綾瀬は土屋と違って最近マンションに来たばかり、まだまだ欲しいもの必要なものは全然そろってない。ふわふわのかわいいパジャマだってまだ持っていない。目の前の魔石を無視してすぐに帰るのは悔しい。
「待ちなさい土屋。みすみす見逃すの、お金みたいなものよ」
「だって、しょうがないじゃないスか」
「なんのためのでかい図体よ。ビビってんじゃない」
「人間がいくら図体でかくても獣に勝てるわけないじゃないスか」
「…………だから、マホウを使うわけ。透明になれるなら、倒せなくてもやれることはある、でしょ? ふふふ……」
綾瀬は土屋に密かな作戦を耳打ちした。
土屋はええっ!?という表情をしたが、背中を押されしぶしぶ音の聞こえた方に歩いて行き姿が徐々に薄れていく。
消えた土屋のことをソナーで音によって様子をうかがう綾瀬。
土屋は魔石の上に鎮座するイノシシ魔獣に近づいていき、5mほどのところで停止した。
透明な土屋にイノシシ魔獣は気付いていない。あいかわらずのんきに鼻を鳴らしている。
そこで土屋が手を振りかぶり――ガシャン!
突然土屋のいる場所で大きな音がして、魔獣は驚いてそこに駆け寄っていく。
すると土屋は速やかに移動し、今度はそこからまた5mほど離れた場所で大きな音がする。魔獣がそちらへ向かうと、さらにまた少し離れたところで大きな音が――。
そうして音に導かれるまま、魔獣は遠くへと消えていった。
あとには障害無く採れる魔石のみが残り、綾瀬は誰にも邪魔されず魔石を掘っていく。
オレンジくらいの大きさの魔石を二個掘り出すと、すぅ……っと土屋の姿が傍らに出現した。
「はぁーっ、怖かった……! あんな近くに行くなんて!」
「でも完璧な作戦だったでしょう? 頭とマホウはは使わなきゃ」
綾瀬が提案したのは、透明になり瓦礫をガンガン叩いて気を引くというものだった。それを繰り返して、遠くに魔獣を誘導するという作戦だ。
それは見事にはまって、ん~? という顔をしながらイノシシは遠くに行き、その周辺をうろうろしている。
「でも、のんびりしてると魔獣がここに戻ってくるかもしれない……足音が近づいて来てるし、とるものとったらさっさと退散するよ」
「えっ、またくるんスか?」
「そ。気に入ってるんじゃないここ? なんかイノシシにとって良い匂いでもするとか。二人でやって良かったってとこね、戻ってくる前に回収できたし。さ、退散退散」
綾瀬と土屋は敵に見つからずに目的の魔石の回収に成功し、その場を知られずに離れたのだった。
「今日はありがとうね、土屋! あんたのおかげで魔石取りが捗ったわ」
「こっちこそ感謝ッス。一人でこそこそやるよりずっとよかったッス」
マンションに戻った二人は、リサイクルボックスへと魔石を投入しようとしていたが、そこに向かってマンション内の芝生を歩いていた綾瀬はふと足を止めてベランダを見上げた。
「そういえば土屋って303号室なんだよね? ってことは、あそこ?」
ベランダを指さす綾瀬に、土屋は頷く。
「そうですけど、それがどうかしたんスか?」
「へー。たまにいいものが干してあるなあって思って見てたんだよね」
「いいものってまさか……」
「編み物。この前手編みの帽子干してたでしょ?」
ベランダには色々な人が衣服や布団など干している。
だが自作の編み物を干す人はあまりいないから、綾瀬はそれが記憶に残っていた。
「え、見てたんスか? う、うう……」
「どしたの急に頭抱えて」
「いや、自分みたいなのが編み物とか恥ずかしいっていうか、似合わないじゃないスか全然。すいません、自分が編み物して!」
頭を下げてしまった土屋の肩を綾瀬は勢いよく叩いた」
「なーに言ってんの! めちゃくちゃ素敵でしょ! ごつかろうがなんだろうが、かわいいもの作れて悪いわけがない。そうでしょ?」
あばらを指でぐりぐりしながら綾瀬は言う。
「綾瀬姐さん……!」
「今度うちにも何か作ってよ、お礼はするからさ」
「了解ッス!」
「ありがと、楽しみにしてるからね土屋。……あと、姐さんはやっぱりやめてくんない?」
【その日の入手MP:合計6600MP】
【その日の初会話:綾瀬と土屋】




