一仕事終えた後には何をする
「あーっ、疲れたー!」
マンションの門をくぐるやいなや、開口一番久我が大声で言った。
俺も全く持って同意だ、疲れて大きな声も出したくないけど。
「おかえりっ。どうしたの三人ともお疲れじゃない」
出迎えてくれたのは菜園の手入れをしていた綾瀬だった。
俺もちょくちょくやっているし、気がついた人が草刈りや水やりなど自主的にやってくれているのでうまくまわっている。
綾瀬も地下に囚われていた頃からしばらくたって、もうすっかりマンションでの生活が板についてきてるな。
「遠征してきたんだ、空の国道に」
「空の国道? なに言ってんの? 詩人?」
「南の方行ってない?」
「うちは北の方でいい感じの魔石溜まりを見っけたからね、最近そっちばっかりいってた。南に変な国道があんの?」
「そんなとこ。詳しくはまた話すよ、今は結構へとへとなんだ。空に登ったから」
「じゃあ楽しみにしとくわ」
と言って綾瀬は草刈りを再開した。
俺達はリサイクルボックスへと向かい、お楽しみの換金タイムの時間だ。とってきた空を飛んでいた魔石を放り込んでいき、最後に星魔石も入れる。
リサイクルボックスのモニターが虹色に変化し場を盛り上げ(たくさん稼ぐたびにこの演出出るけどそろそろカットしてくれてもいい気がしている)、そして獲得MPが表示された。
【獲得MP:33000】
【獲得MMP:1】
きた! MMPだ!
思った通りあれは星魔石だった。
これでまた特別なマンション機能拡張ができる。
どれをやるか……あるいは貯めておいてもいいが……。
それにMMPだけでなく、獲得MPも多い、こっちの方でも楽しめそうだ、最近は色々な商品が買えるようになってるし。
「よっしゃ! MP大量ゲット! こんだけありゃ当分いい暮らしができるぜ。高いところ我慢したかいがあったな」
大げさなくらいガッツポーズをする久我に楓がくすりと笑いつつ、
「本当によかったです。こんなにたくさんMPもらえて、それにコーヒー豆も色々もらえましたし。それに、MMPってたしか……以前第ニマンションを建設するために使ったリソースですよね? それも手に入りましたね」
「そうそう、それ。あの時にも話したけど、他にも用途がいくつかあるんだ。マンション全体に影響与えるようなものもあるし、また一度集まって何に使うか決めてもいいかもな。だがまあ、とりあえずは今すぐじゃなくてもいい。まずは……」
「はい、この普通のMPと手に入れた物資の戦利品ですね!」
「そういうこと。こっちでまずは遠征の疲れを癒やさなきゃってことだな」
と話していると、久我が疾風のようにマンションの入口へと向かっていく。
「じゃあ俺は戻るぜ買いたいもの色々あるからな! じゃあな!」
あまりの素早さに取り残された俺達はしばしぽかんと久我が消えた方向を眺め続けていた。
「私たちも戻りましょうか、九重さん」
「うん、そうしよう」
***
楓は102号室のドアを閉めると、逸る気持ちを抑えて手洗いうがいをしっかりとし、シャワーを浴びて埃を落とし、体を清めて準備を整えた。
「ふふっ、久しぶりに飲めるのだから、完璧な状態にしないと」
シャワーを浴びた後は部屋の片付けをして、よし、準備完了。
稼いだMPを使うのも魅力的だけれど、それよりもまずは味わいたいものがあった。
あのお店の『モカ』は楓が愛飲してたコーヒーだ。
同じものが手に入るなんて幸運としか言いようがない。その上奇跡的に密封されて保存状態の良いものが手に入った。
楓は虎の子のコーヒーメーカーを使って、渾身のコーヒーを淹れた。
「……いい香り……」
ふわっと漂うほのかに甘みのある香りを存分に楽しんでから、カップに口をつけると、今日の疲れがすべて吹き飛ぶ気がした。
やっぱりこのブレンドが楓は一番好きだ。これで明日からも頑張れる。
「ふう……今日緊張しても勇気出して行ってよかった……やっぱり、苦手なことも挑戦するべきなんだね」
ほうっと息をつき、リラックスした時を楓は過ごしている――。
「うおおおおおお!」
窓の外から叫び声が聞こえてきた。
***
「さーて、このMP何に使おうか」
帰宅した俺は、早速通販端末を立ち上げ、画面をスワイプしていた。
最初の頃に比べて商品も充実していて、それだけに目移りもしてしかたがない。MPもたくさん増えたが、商品もそれ以上に増えてるから、なんなら以前よりも不足感は増しているかもしれない。
「人間っていうのは贅沢を覚えるとだめだな……さてさて……」
食品、家具、趣味嗜好、買う候補は色々あるが……。
「うおおおおおお!」
なんだ!?
窓の外から叫び声が聞こえてきたぞ!?
外に出てみると……横の方から断続的に痛がっているような声が聞こえてきている。
耳を澄ませて確認するとこれは……105号室?
ということは久我か?
部屋を出て久我の105号室に行く。
チャイムを鳴らしても反応がない。
「緊急事態だったら……しかたない、入るぞ久我!」
ドアには鍵がかかってなかったので、俺はそのまま部屋の中に突入した。
「うおおおああああ!」
また叫び声だ。
「どうした久我!? ………………は?」
奥の部屋に行った俺の目に入ってきたのは……
「おいどうしたんだよいきなり人ん家に入ってきて? うお痛てててて!」
窓を開けっ放しにしたまま足つぼマッサージ中の久我だった。
……いい加減にしろ!




