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花咲くこころ  作者: えーあいキッズ


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4/9

特別な『好き』

ライブハウスを出ると、下北沢の街はすっかり夜の帳が下りていた。

耳の奥で、まだベースの低音が微かにジリジリと響いている。


「ぷはぁーっ! すっごく楽しかったです、美咲先輩!」


すみれはライブハウスを出た瞬間、両手を大きく広げて深呼吸をした。

夜風にポニーテールが揺れる。


「声大きいってば。ほら、もう駅の方行くよ」


「あ、待ってください! 先輩、少しお腹空きませんか? 私、あそこにあるクレープが食べたいです!」


すみれが指差したのは、路地の角にある小さなクレープ屋だった。甘い香りが漂ってきて、確かに私の胃袋を刺激する。


「……一個だけね。半分こするなら、いいよ」


「えっ、半分こですか!? それって、いわゆる間接……っ!?」


「嫌なら一人で全部食べなよ」


「嫌じゃないです! 喜んで半分こします!」


顔を真っ赤にして慌てるすみれがおかしくて、私は少しだけ笑ってしまった。


クレープを買い、駅前の少し開けたベンチに二人で座る。チョコバナナクレープを一口かじると、冷たい夜風の中で甘さが体に染み渡るようだった。


「はい、すみれちゃんの番」


「あ、ありがとうございます……いただきます」


すみれは緊張した面持ちで、私が食べた反対側の端をそっとかじった。その様子がなんだか小動物みたいで、見ていて飽きない。


「……先輩」


「ん?」


「今日は、本当にありがとうございました。先輩の好きな世界を、少しだけ見せてくれた気がして、すごく嬉しかったです」


クレープの包み紙を握りしめながら、すみれが私をじっと見つめてくる。街灯の光を反射するその瞳は、昼間と変わらず真っ直ぐで、眩しかった。


「……大した世界じゃないよ。ただの私の暇つぶしだし」


照れ隠しに視線をそらす。それでも、胸の奥が少しだけくすぐったいような、不思議な温かさを感じていた。


「そんなことないです。私にとって、先輩の『好き』は特別なものです。……あの、また、連れてきてくれますか?」


「………」


いつもなら「めんどくさい」と一蹴するはずの言葉が、喉の奥でつっかえる。


「……まあ、気が向いたらね」


「本当ですか! やったぁ!」


嬉しそうに飛び跳ねるすみれを見て、私は心の中で、自分もこの時間を楽しみにしているのだと認めざるを得なかった。


帰り道の小田急線。隣でうとうとしているすみれの肩に、そっと自分の肩が触れる。

ポケットの中でスマホが震えた。葵からのメッセージだ。


『デートどうだった? お母さんに報告しなさい!』


画面を見つめながら、私は小さく息を吐く。

まだ彼女の「好き」のすべてを信じられたわけじゃない。でも、このモヤモヤの答えを、もう少しだけ探してみたいと思っている自分に気がついた。


『まあ、悪くなかったよ』


そう返信して、スマホをポケットにしまった。


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