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第9話/必要なこと、不必要なこと

「……。まったく、キャラクター作り直しとか、ひどいもんだな。」


 ワールドボスにキルされたプレイヤーは、全ての財産、ステータス、スキルが抹消されて初めからやり直しになる。それは、【魔神王】にキルされたナギトとて例外ではない。


「やれやれ…ん?なんだこれは。」


 ここは、始まりの酒場。

 赤いアイコンが懐を指し示す───そこにあったものを取り出してみた。


「………。」


ワールドアイテム-『魔神王の魂』/噛み砕くことで、魔神となることができる。それは、内に秘める魂の力を解放する。


 ワールドアイテム、【魔神王の魂】。ログを見てみると、【魔神王】はナギトとザワルドが共同討伐したことになっていた。これはその報酬である。死後に手に入れた扱いだから、今ここにある。


「お、いたいた。待たせたなナギト。それじゃレベル上げするか。」


「ザワルド。これ見ろ。」


「…ナギト、死んだのにどうしたんだこれ。」


「ログから推測したんだが……。」


 他愛無い話をしつつ、酒場から出る。自身の推測についてあらかた話し終えたあとは、ザワルドから近況の話があった。


「攻略組は実質、活動停止だ。あんたみたいにリハビリするプレイヤーの付き添いが多く発生してな。まともに行動できない。」


「そうか。」

「興味がないか?」


「予定は決まってる。他の事考えたって仕方がねぇだろ。さっさとレベル上げするぞ。」


 今に至るまで、修練するナギトである。


1.臨時キャンプ-臨時決闘場


「………。なぁ、アーサーと言ったか。始めに聞いておくぜ。レベルは?」


「126。」


「言っておくぜ。お前と俺は互角だ。俺のレベルは124。蛮族で…お前と同じ魔神王だ。」


 ザスターがいそいそと会場のセッティングを行なっている。レベルキャップ結界が展開された。


「この中では、お互い同じレベルになる。それ以外の効果はない。頑張ってくれたまえ。あぁ、あと。勝った方をリーダーにする。」


「え!?」


 他のメンバーが驚く。

 他のメンバー名前:ザワルド、PvPしようぜ!、ウェンブル、アクリナ、クガン、ファリン、イトウ、ブーン、アガサ(9名)

 これだけでは特徴も何も掴めないだろうし、諸君にメンバーを紹介するため、それぞれのプロフィールにある自己紹介のメッセージを今から流す。


(ザワルド)「俺はザワルド。攻略組のトップをしている。よろしく!」

(PvPしようぜ!)「俺はPvPだ!無所属!戦争大好きだぜ!よろしく!」

(ウェンブル)「ザマルのトッププレイヤーだ。漁夫できるような場面だと、国の為によろしくできないかもしれない。よろしく。」

(アクリナ)「ジオマ、壊し屋のアクリナです。壊したいオブジェクトがあったら、ぜひ本ギルドにご依頼ください。」

(クガン)「メッセージなし」

(ファリン)「メッセージなし」

(イトウ)「魔族軍所属のイトウです。ラボのアビジャンへご用事があるようでしたら、メッセージをください。」

(ブーン)「魔族軍人事部のブーンです。動画配信による広報活動を行なっていることが多く、メッセージをいただいても対応できない場合があります。ご了承ください。」

(アガサ)「星の会のアガサです。ザスター様とのコンタクトをご要望の方はこちらから。」


 以上。メンバー紹介終わり。ちなみに、俺の同期であるドラフォイ(種族はサラマンダー:今までは通常のリザードマンだったが進化した。)は今回、キャンプで留守番である。無事でよかった。

 そろそろ、他のメンバーが驚き終わったので、勝負を始めることにする。


「それじゃあ、私が数えるよ。3。」


「ナギト。やってみるまで、勝負はわからない。」


 決意を表明する。

 俺は、負けない。負ける気はない。


「2。」


「…俺の意思は、実力で示す。お前もそうだろ?」


 ………。


「3。」


「おい。」


「ごめん。2。」


「……。ザスターとは知り合いか?」


 ナギトが聞いてきた。とても疲れた声色だった。同情するよ。というかナギトは、俺が序章エピローグでザスターに連れ去られたことを覚えていないようだった。


「1。」


「ああ。」


 複雑な心境だ。


「1。」


 ───試合が始まった。もうザスターの悪ふざけにはついていけない。こいつだけ中学生並のセンスで生きている。ほんとぶったまげたよ。後で殴る。


「───手加減しねぇぞ。」


 初手が始まる。

 俺たちは互いに【第二形態】を発動。ナギトは大斧、俺は盾を構える。剣に変形させている時間はない。盾の先端を尖らせて、即席武器とする。


(敵を倒すために必要なのは、①攻撃の威力、②攻撃を当てる方法、③相手のレベルの対策。)


 ①攻撃の威力は気にしなくていい。当たれば致命傷だ。②攻撃を当てる方法も、同じステータスであるのであれば問題ないだろう。③相手のレベルの対策、これは難しい。俺はナギトの特徴を、超スピードパワーの戦士としか捉えきれていない。


(同じレベルであるならば、多少同じ土俵のはず…その程度の願望が、俺の対策だ。)


 お互いの距離が近づく。ここで【魂装術:不滅の甲冑】を発動。俺に盾だけでなく、鎧が付与される。


【魂装術:不滅の甲冑】/【不滅】の上位互換スキル。【不滅の魔神王】の力を解放し、自分が受けるダメージ量の80%をカットする鎧を生成する。発動後、死ぬまで有効。


 80%カット。その言葉は伊達ではない。実際、マスラオの攻撃を喰らってもほぼ無傷だった。この鎧は攻撃を受けることができる。


「─── 【臨戦強化(ブーストタイム)】。」


臨戦強化(ブーストタイム)】/【瞬間強化】×【光陰正視】のアビリティコネクト。一定時間、筋力、俊敏を3倍し、動体視力を戦闘する敵に合わせて補正する。


(仕掛けてきた!?)


 ナギトは【臨戦強化(ブーストタイム)】を発動。この序盤で使ってきた。いや、彼にとってはもう、この時は序盤ではないのかもしれない。


(だが、【光陰正視】!ナギトの動きは把握できる!)


【光陰正視】/自身の俊敏値を1.2 倍、動体視力、思考速度を5倍にする。


「なんで合わせねぇんだ?」


 ───大きな、思い違いが、ある?

 ヒヤリと背中を伝う汗。銀兜の穴から覗く眼光が、俺を強く睨んだ。加速した時間流。冷えた海水のような大気に耐えかね、俺の脳は思考を逃げ回らせる───。


(───奴のアビリティは、【狂乱】だ。蛮族が魔神王になった時に与えられるスキルアビリティ。)


【狂乱】/狂乱の魔神王の力を解放し、防御値が半減する。与えるダメージが10倍される。


(俺がダメージを80%カットしたところで、残りの20%が10倍される。100%でも入れば致命的なダメージになるだろう。ならば───。)


 俺も、【臨戦強化(ブーストタイム)】を───。


「随分と弱気だな。様子でも見るつもりだったか?」


「───ぐっ。」


 高速だ。素早く斧が、振られる。

 防ぐ。

 盾が、圧される。

 割れる。


「【臨戦強化(ブーストタイム)】!」


 間に合った。これで、奴の世界に入ることができたはずだ。盾は再形成すればいい。とにかく反撃を考える。腰の鉄剣を抜いて切りかかる。

 切り掛かる際、【魔法剣:蒼穹】、【魔法剣:煌撃】、【魔法剣:炎熱】をかけておく。さぁ、これで本番だ。


(本番───だ?)


 そこに、だれも、いないのはなぜ?


(消えた───。なぜ?ぉ)


 何か、体が後ろから押されるような衝撃があった。追撃で蹴りが入る。頭が吹っ飛ぶ。なぜ?どうして。いつのまにか、鎧の隙間を突いて首に切れ込みが入れられていたらしい。それで蹴られて飛ばされた。頭は回転しながら自分の体を見ることができた。


(…【第三形態】。)


【魂装術:第三形態】/自己の領域結界を任意の半径で発生させる。領域内では、ありとあらゆるスキルアビリティの同時発動が可能となる。


(───はつ、どう。)


 まだ終わるわけにはいかない。

 何が起こったかはわからない。ナギト。奴は俺に対して答え合わせをしない。首が切り落とされたのは確かだ。第三形態を開始しながら、脳波で身体についたマスラオを操作する。マスラオは触腕となって、一瞬で首を身体にくっつけた。同時に領域が広がり始める。


「───ほう。」


 しかし、このままではまた切られる。次は脳みそを両断だ。話にならない。なにか、何かないか。俺の頭の中に───。


『だから、【ビクトリア】には【ランクアップ】があって、それが【女神の加護】だ。女神の機能を分割して我々の体に組み込めば《職業の極致》たるシステム権限が使えるようになるのも当然じゃないかね?』


 《ウェーカンへと見せたあの力》。


『魔族のみが持つ、【粒子生産機関】さ。』


 ───何故か、無限に近い時の中で考えることができた。…俺はザスターが言っていたことを、思い出す。


 職業の極致が…ザスターが過去見せたワールドスキル。ランクアップの果て。

 魔物の極致は、おそらく【ブーン】のような、最上級種族アークデーモンなどへの進化。ランクアップの果てだ。

 魔神王。こいつがその両方を兼ね備えているとしたら、俺の身に宿る力は、【騎士】だけでは無いはずだ。


2.活動領域外


 また、ここに来たようだ。

 魔神王となるために訪れた、この場所に。


「チュートリアルだ。」


「誰だ?AIさんだよ。あなたには資格がある。ここで習得していくといい。ここでは時間の流れも違う。」


 青色のジャケットを身につけた、軽薄そうな女が話しかけてきた。俺は口を開けることすらできない。ここには、肉体で存在していないようだった。


「チュートリアル発生条件達成おめでとう〜。①.魔神王となること。②.思考速度が一定を超えること。③.戦闘中であること。これが条件ね。それと、他にも細々とあるけど割愛。みんなね、結構使ってくれてありがたいのよね。」


「君に教えるのは、今までにない0としての力、第零形態。」


 ここまで、不思議に思っていた者もいるだろう。【第零形態】、第1章のエピローグで思わせぶりに出てきた割には、誰も何も使わない。それはみんなが、これを使"え"なかったからなのだ。


「【第二形態】、【第三形態】で放出した君の粒子を、全て身体に格納することで成すことができる。だけど、覚悟して。デメリットとして、あなたの『粒子生産器官』は粒子の逆流に耐えきれない。具体的には、スキルアビリティ、【第二形態】や【第三形態】は動作しなくなる。」


 ───リターンは?


「【魔神王】としての強大な力、全て使えるわ。あなたは明日から最強よ。」


3.臨時キャンプ-臨時決闘場


《 【第零形態】 が 解禁されました! 》


【第零形態】/放出する粒子を逆流させ、体内の粒子濃度を上昇させる。魔力の生成が進み、MPが上昇。また、肉体は本能的な形態を取り、思考に追従して変化する。


 身体が、発泡する。

 今度は頭を両断されたが、もう関係ない。人である意味は、とっくに無いからだ。蠢く肉体は、一つの姿に到達する。


───自由な、本能的な、それでいて、力を持つ姿。


 その姿は、機械。

 血肉は緑の結晶となって、騎士は涙無いオートマータとなった。

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