表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

記憶の夜明けと魔力総量

久しぶりの更新です。

仕事が忙しすぎて、全然書けてませんでした。

すこし、落ち着いてきたので、ぼちぼちと・・・書けるかな?

 窓の外は、ぼんやりと明るかった。

 夜が明けて来たのだろう。


 クロリンダをもう一錠飲むほどの時間は無さそうだ。


 それに・・・。

 なんか無性に腹が立つしな!


 この国、というか、この地域では、暗殺は当たり前に起きている出来事のようだ。

 政敵を暗殺するのは日常茶飯事、ということだ。


 もちろん、国の法律では、殺人は罪だ。


 領主だとしても法の裁きなく人を殺してよいということにはならない。


 けれど、半ば公然と暗殺は行われているのだった。

 そして、領主は政敵を暗殺することで政治を安定させ、同時に領民は恐怖から圧政に異議を唱えなくなっていた。

 しかし恐怖政治は、民衆にストレスを与える。

 そのストレスの捌け口として、領主側の親類が事故を装って殺され続けているのだった。


 なんという無力感。


 この地域の領主、ヴァランタン・ディ・モンペリア伯爵は、自らの政敵を暗殺し、そのことで生じる民衆のストレスを、自らの子や妻たちを事故に見せかけて殺したり、盗賊に襲わせることで減じているのだ。

 しかも、本妻の子達は頑なに守ったまま。

 女好きで知られたヴァランタンは、第二夫人、第三夫人の子や、愛人の子、もしくは、その第二夫人を盗賊に襲わせたり、事故や毒殺で殺し続けてきた。


 そのことに、もはや領民も薄々気付いてはいた。

 しかし、確かにそれは民衆のストレスの捌け口として機能しており、いや、それどころか、裏の仕事として募集される「領主の妻を襲う盗賊」「領主の子を毒殺するために雇われる下働き」といった仕事は、報酬も良く人気があるのだという。


 一定数の割合で発生する社会悪を、目的を与えることでコントロールし社会の秩序を安定化する。

 理屈では、わからんでもない。


 わからなくもない、のだが・・・


 反吐が出そうだ。


 ひどい社会だ、と俺は思う。

 誰かの命を犠牲にして社会を安定化しようなんてディストピアだろう。この国は社会主義経済を基本にしていると言っていたが、計画経済を実現するために多くの命を生贄にしているのだとしたら、そんなものは・・・。


 そんなものは・・・


 なんだろう?


 俺にはわからなかった。いや、考えるのを途中でやめただけだったのかもしれない。


 今は、そんなことを考えている場合じゃない。


 今は・・・俺の、エレノアの命だ。


 それには、まず何と言っても、安全に暮らしていける環境だ。

 それは、どうしたらいいのだろう。

 ブリジッダは、エレノアを保護すると言った。けれど、それを信じてもいいのだろうか。ブリジッダは、確かにエレノアの世話をしたのかもしれないし、娘のように思っているのかもしれない。

 けれど、領主に公然と歯向かえるわけでもない。

 いざとなれば、むしろ領主との関係性が強いだけに、断われ切れない何かが発生するかもしれない。

 そう考えると、エレノアがブリジッダのそばにいるのは良い方法じゃないかもしれないな。すぐには代案は浮かばないが・・・。


 それにしても・・・


 さっきの夢で、俺はエレノアの思い出とともに、この国の経済、暗殺のこと、社会のことを一部、思い出した。

 エレノアには、形ばかりではあったが、教師がつけられていて、その人物を通じて社会や政治の知識を教えられていた。思い出したのはそれだろう。

 エレノアは7歳半、日本の感覚で言ったら小学2年生だが、社会の分野については広く教え込まれていたようだな。

 俺にとっては都合の良いことだ。

 でも、まだまだ知識が足りない。


 さてどうしようか。

 誰か、エレノアにいろいろ教えてくれそうな人は・・・。


 ブリジッダ、か。

 思い出したエレノアの記憶に引きずられている部分はあると思うけれど、ブリジッダに会いたい、と俺は感じていた。


ごそごそとベッドから這い出る。

 領主の娘にしては、か細く、痩せた体。

 前世の当たり前に引きずられているとはいえ、並みの大人どころか、7歳半の子供としても非力なのではないだろうか。


 魔力があって、本当に良かった。


 この世界の魔力は、筋力の増幅のような働きもする。

 俺が「スキル」と呼んだ力は、剣を勝手に動かすような働きをしたが、確かに俺は、剣を操っていた。

 集中して魔力の流れを感じ取れば、重たい跳ね上げの窓でも難なく開けることが出来た。


「ふーん・・・」


 まじまじと自分の手を眺める。

 小さな、白い、華奢な手だ。


 魔力は、睡眠などの休息で回復する。

 じっとしているだけでも、じわじわと回復はするようだが、睡眠などの効果に比べればわずかだと言わざるを得ない。

 とはいえ、魔力総量を超えて回復するわけではないので、いちおうのキャパシティーというものはある。

 このあたり、エレノアの教養だろう。

 知らないはずのことが頭に浮かんでくる。


 一般の人間の魔力総量は多い者で、だいたい100MPほどだという。


 いや、なんだそのマジックポイントって!と一瞬思ったが、どうやら異世界転生してきた聖女の一人が提唱した魔力総量測定法に基づく単位なんだとか。

 つまり、これは、あれか。

 一般人を100とした場合、多いか少ないかで表現しているわけか。


 俺がファイヤーボールと呼んでいる魔法、あれの正確な消費魔力を知らないが、初級攻撃魔法だと仮定すると、おおよそ50くらいだという。

 そうすると、今の俺の魔力総量は1000くらいになるか。

 直感で、だが。


 魔法を行使できる人間の魔力総量は、常人の2倍から10倍程度というから、今の俺は魔法使いとしても良い方、というくらいの魔力総量ということになる。


 アビリティードレーンで得た魔力のせいだろう、な。


 アビリティードレーンで得られるのは魔力そのものというよりも、魔力総量のキャパシティーを奪っているイメージなのだろうか。

 まさに、能力吸収だな。


 ひんやりとした風を顔に感じ、俺は我に返る。


 物思いに耽っていたようだ。


 さらなる知識。

 そうだ、それが今は必要だ。

 この世界で、俺は生き抜いて見せる。


 窓を閉め、昨日着ていた外行きの服に着替える。

 木綿で出来た、白色のシャツ。漂白された色だろう。


 日本から転生してきた聖女たちは、様々な文化を伝えたとみえ、この世界の人達の服装は、現代日本の人達の服装に似ている。

 少なくとも、中世ヨーロッパの服装ではない。

 違うのは染色技術が未熟なのか、色が地味で発色が悪いことぐらい。

 大抵は生成りの色のままだ。

 今着ている外行きの服もワンピースで、近代ヨーロッパで着用されていたコルセット状の服などではない。

 この世界には、ゴム入りのパンツもあるし、ワイヤー入りのブラジャーもある。

 漂白して真っ白になった服は、おそらく少し高級品なのだろう。けれど、木綿で出来たワンピースは、記憶の中の向こうの世界の子供服に比べれば、ゴワゴワしていて着心地は良くなかった。


 腰の所をひもで締め、部屋から出る。


 部屋から出た瞬間、俺は誰かの視線を感じた。


 はっとして振り向くと、そこには驚愕の目をしたアンドリューがいた。


 この・・・金で買われた暗殺者めが。


 俺は一睨みして、目を逸らす。

 アンドリューの処分については、昨夜、ブリジッダが追い出すと言っていた。そうだというのなら、俺が何かするまでもないだろう。

「お、おい」

 アンドリューが何か言いかけて、俺を呼び止めようとしたが、無視して階段に足をかけた。


 さて、ブリジッダはどちらだろう。


 階上の3階か、それとも下の店舗の方か。


 いや、たぶん、ブリジッダは階下の店舗だろう。


 誰よりも早く起きて、店に入る。

 そうすることが身に染みて習慣になっている。


 みしっと、木製の階段が軋み音を立てた。

「ええ、在庫は奥の部屋に。それじゃあ、あとはよろしくね」

 階下から、どこか懐かしい、あの声が聞こえてくる。

 ああ、ブリジッダの声だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ