22.案ズルヨリ産ムグガ易シ
呪いの進行が進み、体まで男となってしまった蛍。
彼女は誰にも言えない、深刻な悩みを抱えていた
そのことを知った3人は、
本当の男にするわけにはいかないと、
決意を胸にたぎらせるが……
「ふっふっふ……きたね、みんな。例のものは持ってきた!?」
白のⅤ字ニットに、藍色のパンツをまとった彼女が、ふふんと笑う。
今日はみつあみなんだ、ところころ変わる髪型に気づいてしまう私がいる。
昨日蛍と別れた後すぐに、梨桜は私と楓に
「ほたるんに似合うお洋服をうちらで探そう! ありったけの可愛い服を持ってきて! わかった!?」
と、言ってきた。
いいアイデアが、とかいってたからどんなものが来るのかと思っていたら……こんなとこまで梨桜らしい。
おそらく可愛い服を着させて、蛍は可愛いんだよってことを納得させようとか、そういう魂胆なんだろうけど……
「……ねぇ、本当に大丈夫なの? 私も六花も体型違うから家にはなかったし、昨日探したけど蛍に合うの全然なかったんだけど」
すごくオシャレなベージュ色のワンピース(梨桜いわくティワードワンピースと言うらしい)を見事に着こなした楓が、ため息まじりにいう。
昨日と同じ蛍の家の前に立っている私たちは、本当に大丈夫かという不安しかない。
楓の言う通り、彼女の体型にあう服はほぼほぼ無く、ありとあらゆる服屋を探す羽目になった。
そりゃ諦めたくもなるよなぁ、と納得さえしてしまったほど。
蛍は背も高いし、髪も短いからきっと私の知らないところでずっと悩んできたんだろうな。
現に、アクセサリーや髪飾りを見に行った時だって、自分用には絶対買わなかったし。
「そんなこともあろうかと、うちがとっておきのコーデいっぱい持ってきたから! ほらほら、ぼーっとしてないで入った入った!」
「……ここ、梨桜の家じゃないんだけど……」
「んも~いいじゃん、別にぃ。ほったる~ん、きたよーーん」
ピンポーンと家のチャイムを鳴らしながら、大きな声で呼びかける。
小走り気味の足音が聞こえてきた次の瞬間、玄関のドアが開く。
「おっ、みんな来たのか! わざわざごめんな~」
ラフなシャツの格好は、どう見ても男の格好にしか見えない。
それでも様になるのが蛍っていうか……これも、男として育てられたが故……って思うと、複雑だなぁ。
「で? 何をどーするつもりだ? 昨日も来たってのに」
「あらやだ、もぉ忘れたの? 言ったでしょー? 女の子は誰だって可愛くなれることを、うちが証明してあげるって」
「いや、だから何を………」
「第うんたら回! ほたるんを可愛くしちゃおうコンテストォ~~~!」
そういうと梨桜は素早い動きで、蛍の後ろへと回る。
気がつくと、彼女の両腕をつかみ、羽交い締めにしていて……
「ちょっ、梨桜! 離せ!!」
「離したらあんた、絶対逃げるでしょ〜?」
「あたしには可愛い服が似合わないって言ったよな!?」
「ごちゃごちゃうるさあーい! さあ、諸君! 始めるぞーーー!!」
彼女の掛け声と、蛍の叫びが同時にこだまする。
楓がため息をつく中、私はよしとこぶしを固く握りしめたのだった。
それからというもの、私達はありとあらゆる洋服を彼女に着せた。
とは言っても、ほとんど梨桜が持ってきたものだったけど。
彼女が持ってきていたものは、本当どこから持ってきたのと言わんばかりの癖が強く……
「はいっ、できましたぁ。ゴスロリほたるん~」
「………前から思ってたけど、梨桜のセンスって独特だよね……?」
「心外だなぁ、六花ちんは。こりはうちがほたるんのためにいろ~~んな人から借りてきたの! にしてもほたるん、なかなかぁにお似合いですぞ? 似合ってないってほどじゃないじゃん♪」
「も、もう勘弁してくれよぉ……」
黒と白のふりふりだらけの洋服を身に纏いながら、恥ずかしそうに体を縮こませている。
この場にいるのがいつもかっこよく、スマートな蛍と同一人物だとは誰も思わないだろう。
しかしあれだな、梨桜が言ったとおり、結構様になっているような……
「……なんだよ六花~そんなに見ないでくれ~……」
「ああ、いや。やっぱり蛍って何でも合うなあって思って」
「んなわけないだろぉ……あたしにはこういうのがらじゃないって言うか……よくサイズ見つけてきたなあ? 梨桜~」
「ふっふ~ん、まあうちにかかればこれくらいはねん。どうよ、楓っぴ。ほたるん、なかなか様になってない!?」
「えっ、ま、まあまあじゃない……? ていうか私にふらないで」
そういうと楓はぷいっと顔をそらす。
そらした先に私がいたからか、目が合うとまた彼女は違う方向を向いてしまった。
「どうだね、ほたるん。これでちょっとは呪いをとく気になったかなあ?」
「い、いくらかわいい格好着せられても、あたしにはやっぱ似合ってないって。それに……母さんを悲しませるわせには……」
「かーーーー! まぁたお母さんかい! やはり最終兵器しかないようだな……くらえ! 梨桜ちゃんのとっておきの一品!!」
そういうと、バックから勢いよく洋服を取り出し、彼女に着せてみせる。
その洋服には、どこか見覚えがあった。
黒のシングルスーツに金ボタンが三つ、襟ありのブラウス、そしてピンク色のスカーフがチョーカーの上に巻かれていて……
「これって……まさか、客室乗務員の……?」
「そ。今や有名な飛行会社、NALの制服! 特別に借りてきました♪」
「梨桜……なんで、これを……」
「この企画を提案した時に、楓っぴに頼まれてさっ」
そう言うと、梨桜は楓を見る。
状況が把握できない私とは逆に、楓は顔を俯かせたまま彼女にゆっくりと答えた。
「……蛍、小さい頃から憧れてたでしょ? おばさんに隠れて、英語の勉強してたの知ってたから……男の人になったら、その夢をかなえられなくなっちゃう。だから進路希望書、出せなかったんでしょ……?」
か細いながらも、彼女のことを心配しているのがわかる。
そのことでようやくわかった、蛍がどうして進路をごまかしてきたのか。
そして、呪いのことを打ち明けてくれたこともー……
「……なんだ、バレバレだったんだな。あたし」
「ねえ、蛍。私もさ、呪いなんてって最初は思ってた。けど、今はすごい幸せだよ。呪いがあったから、みんなにあえた。だから、ちゃんとぶつかってみてもいいんじゃないかな? 自分の思いを、お母さんに」
あの神様がかけた呪い。
それを理由に夢を諦めるなんて、いいわけがない。
蛍は女の子として暮らしたかったのに、それを親のせいで言い出せなかった。
だから呪いという形で、行動させようとしてー……
……あれ? ってことは、あの神は蛍や私のためになることを呪いにしてる、ってことなのか?
いやいや、考えすぎだ。だからって体ごと男にする人なんか信用できるわけが……
「ただいま~、蛍? お友達が来てるの?」
「か、母さん!?」
そんなことを考えていた時、だった。ちょうどよく彼女の母が帰って来てしまったのは。
「ちょっ、まずいって。今この格好を見せるわけには……!」
彼女は身に纏っていた客室乗務員の服を、急いで脱ごうとする。
が、それを私は止めた。
首を左右に振り、彼女の目をまっすぐ見つめる。
「蛍は私なんかより十分可愛いよ。だから、自信持って。自分の気持ちに、嘘はつかないで」
「六花……」
「やれやれ、六花ちんはおいしいとこばっか持ってくんだから」
すると私の言葉を聞いていた梨桜が、彼女の手をつかむ。
楓も彼女の背中を押すように、そっと手を添えて……
「……大丈夫。みんな、ここにいるから」
「なんかあった時は、うちらも助けるから! 言うだけ言ったれ!! 後悔しないように!!」
みんなの思いが、一つになったようなそんな気がする。
戸惑っていた彼女の目は次第に、決意と闘志がみなぎっていくように見えてー……
「……ありがとう、みんな」
蛍の表情はどこか嬉しそうで、瞳には少し涙も浮かんでいて。
行こうとする彼女の背中が、いつも以上に強く、頼もしく見えて。
「おふく……母さん、あのっ………!」
窓の隙間からは私たちの道を照らすように、太陽の光が差し込んでいたー
(ツヅク・・・)
今回の立役者はやっぱり梨桜、でしょうね。
彼女の人柄があるからこそ、こんなに服を
持ってこれたんじゃないかなと作者は推理しております。
いい仲間に恵まれて蛍は、幸せ者ですね。
タイトルの諺は、物事をやる前には不安や悩みがつきもの、
だけど実際にやってみると案外簡単だったりする……
という意味です。
蛍に関しては本当、色々考えました。
女の子らしくなりたい、可愛くなりたい、
そんな自分の思いや可能性を潰してしまっていた…
彼女には本当に、本当に幸せになって欲しいと
思わんばかりです
次回は10日更新。
そんな蛍をフューチャーしたお話をお届けします!




