21.呪われた少女の末路は。
楽しかった夏休みも終わり、
二学期が始まる。
そんな中、蛍が急に学校を休む。
心配した3人は、彼女の家を訪ねることに。
しかし蛍の身にある異変が起きていて……
現実とは実に切なく、儚く、脆いものである。
広がるべきはずの光景はそこにはなく、何度目を擦っても消えることはない。
彼女……いや、これでは彼と呼んだ方がいいのだろうか。蛍の体は見るに耐えなくて……
「どどどどういうことよ! ほたるん! 確かにイケメンだけど、それでもれっきとした女の子だったはずでそ!?」
訳が分からない、というふうに梨桜が騒ぎ立てる。
事実、私だってよくわからない。
今まで一緒にいたはずの子の体が、こんなことになっているのだ。誰だって混乱するに決まってる。
なぜか変に落ち着いてる楓をのぞいては。
「あははっ、そりゃそうだよなぁ。あたしだって最初見た時はびっくりしたよ〜」
「……だから海の時、泳ごうとしなかったの? 授業の水泳に参加できていたのは、そんなに目立ってなかったから?」
「まあ、な。あたしさ、この呪いをとかないと完全に男になるんだよ。期限は……来週」
それは私が想像していたよりもひどく、恐ろしいものだった。
友達を作らなければ死ぬ、そうして私は呪われた。
だけど期限ギリギリになっても体に異変もなければ、更新された今でも変わらず生活できている。
なのに蛍は、少しずつ、少しずつ呪いが体を蝕んでいた……ずっと一緒だったのに、そんなことも気づけないなんて……
「……あたし、生まれてくるギリギリまで性別分からなかったらしくてさ。母さんは男の子がすっごいほしかったんだけど、生まれたのは女の子で……また妊娠したけど二人とも女の子で、その後すぐに父さんも亡くなって……小学生に上がる頃には、男として一家を守るよう言いつけられてた。ずっと、今までも」
パジャマを着直しながら、彼女は困ったように笑ってみせる。
出会った当初から不思議に思っていた。
彼女は女子なのに、男の制服を着ていたこと。
私服もいつも男子同様のコーディネートをしていたこと、お母さんへの電話でもあえて「俺」とか「お袋」と言い直してさえいたこと。
それに親が関わっていたんだと、今更納得する。
そうか、お母さんに言われて蛍は……
「あたしは母さんが喜んでくれるなら構わなかった。母さんのためにもかっこいい自分でいなきゃって。……そう、思ってたのに……」
彼女は両腕で、自分の体を包むようにギュッと捕み少し笑ってみせる。
いつもの蛍とは比べ物にならない、悲しそうな笑みだった。
「同年代の女の子と過ごしてるうちに、わからなくなってきた。あたしはなんでみんなと違うんだろうって。あたしだって、みんなみたいに可愛い服とかアクセとかおしゃれしてみたい……って。その心の弱さが見透かされたんだろうなぁ、あの神様に女の子になりたいならそう言えって言われた。じゃないと、本当に男にするよって。それがあたしにかけられた、呪いの内容」
私達に呪いと言うものをプレゼントした、神様とは言い難い人。
初めて会った日以来、あの人の姿を直接見たことは無い。
私の時と、同じだ。
人の心の弱みをついて、それを呪いという形で弄んでいる。
なんて最低で、ひどい人なんだろう……
「事情はなんとなーくわかった。が! なぁんでそんな大事なことを黙ってたかねぇ? だってほたるん、このままだと男になっちゃうわけでしょ? 普通にやばいじゃん!」
「梨桜の言う通りだよ。このまま蛍が男になっていいわけ……」
「いいんだ、二人とも。あたしにはこんなだから、いくらかわいい服があってもサイズ合わないし、全然似合わなかった……だったら、このままとかない方がいいんじゃないかって」
彼女の言葉に一瞬、時が止まったかのようにしんとなる。
蛍はそんなこと気づいてもないように、にかっと笑って見せた。
「ちょうどいい機会なんだよ。あたしが男になれば、母さんもきっと喜んでくれる。だから完全に男になる前に、みんなには話しておこうと思って」
「そんなの……おかしいよ……だって、蛍は……」
「六花。あたしが女の子っぽくなんて、無理なんだよ」
そんなこと、あるわけがない。
蛍の事情はすごくわかる。わかった上でやっぱり納得ができない。
親がしいたレールをただ走ってるだけなんて。
蛍だってれっきとした、かわいい女の子だ。
なのにそれを閉ざしてしまうなんてー……
「……蛍が男になる……? そんなの、許さない。許せるわけ、ないじゃない」
ぴしゃりとその場が凍る。
凛とした大きな声は、楓だった。
彼女は怒っているかのように、蛍の肩をがしりと掴んで……
「無理なんて勝手に決めないで! 蛍はちゃんとした女の子なの! ずっとそのことで悩んでいたことなんて、私が一番知ってる! 呪いにかけられたからって、そんな理由で諦めちゃダメ!」
「……でも、あたしは……」
「なら、どうして進路希望表や就職先をだそうとしないの? まだ、夢を捨てきれないからじゃないの!?」
彼女の言葉で、なんとなく思い出す。
出会って間もない頃、彼女が進路についてはぶらかしたことを。
男らしくしてることで、彼女の進路にまで影響を与えてるってこと……?
「楓っぴの言う通りだよ。親が言ってるからって夢を、女子としての可能性を諦めるなんて、そんなのダメに決まってるじゃん? そもそもおかんには言ったことあるの? ほたるんの気持ち」
「……言えるわけないだろ……だって……」
「だっても何もありません! よっし、決めた! うちいいアイデア思いついたわ!!」
いつにもなく明るく、元気な声を梨桜があげる。
すくっとたちあがった彼女は、カレンダーを見ながらにやりと笑った。
「明日土曜だから、みんな空いてるよね? ほたるん、明日もここきていい?」
「……別にいいけど……来週に模試が控えてるのに、大丈夫なのか?」
「模試なんかどーーーでもいいわいっ! ほたるんの体の方がよっぽど大事なの! 異論は認めんっ!」
相変わらず、梨桜は梨桜だ。
3年生である私達にとって模試は、避けて通れない大事な「将来への道」。
人生に関わるかもしれないことでも、友達のためならと立ち上がれる。
どこか自信満々なその言葉と、表情はいつもよりも頼もし見えてー……
「……梨桜の言う通り、だと思う。私もきていい?」
「えっ、六花も? あたしのことなんて気にしなくていいのに……」
「だって、模試終わっちゃったら期限来ちゃうじゃん。何もしないまま、蛍をこのままになんてできないよ」
「そーそー。まあさすがに? 委員長で優等生の楓っぴがぁ、首を縦に振ってくれるとは思わないけどぉ?」
ちらっと目線を、彼女に向ける。
勝手なことばかり言う梨桜にどう思っているかは、分からない。
だけど楓の表情は呆れつつも、どこか嬉しそうで。
「いつもなら怒るところだけど、今回は特別だもんね。蛍のために、私も協力させて」
「か、楓まで!? い、一体何をするつもりなんだよ、梨桜……」
「まあまあ! うちに任せてよ、ほたるん。女の子は誰だって可愛くなれる。うちがそのことを証明してあげる♪」
彼女の笑顔に、若干の不安を覚えながらも私たちはお互いに顔を見合わせる。
蛍の力になりたい。そのためにも、できることをしなきゃ。
改めて決意を胸にした私は、一人で闘志を燃やすのだったー……
(ツヅク・・・)
ここだけの話、個人的に呪いの事情が
蛍が一番重いような気がします。
事情が事情なので、
最初から一人称を俺にするかどうかで
すごい迷ったのは記憶に新しいです。
ちなみに明日、30日は蛍の誕生日なんですが
偶然にも蛍回で運命を感じています。
解決までには至らりませんでしたが、
どうか見守っていただけるとありがたいです
次回は4日更新予定。
蛍の危機に、3人は……?




