20.リアリティー いず not sweet
夏休み。
六花らは海の家で蛍のバイトの手伝いをする。
それぞれが得意分野で実力を発揮する中、
楽しい時間だけがすぎていき……
緑色だった葉が、いつの間にか茶色になっている。
長いようで短かった夏休みは終わり、ついに二学期が今日から始まる。
楽しかった時間なんてあっという間だとばかりに、同時に動き出すのはもちろんー
「うぇーーーーい、おはよ〜六花ち〜ん。模試の希望校だすの今日までだって〜やばくね? 受験生ってこと、完全に忘れてたわ〜六花ちん、ちゃんと書いた?」
進路という名の現実だ。
早い人は夏休みにもう決まった人がいるらしいけど、私には全くやる気がわかない。
何をやりたいか、なんて言われても正直何一つ浮かばない。
小さい頃から目指している何かがあるわけでもないし、将来のことなんてあんまり考えたこともない。
とりあえず、私でも受かりそうな大学を書いてはみたけど。
「一応……ね。梨桜は?」
「うちはその日の気分に任せる主義だからっ!」
梨桜のことだから、この雰囲気がいいとか、そこなのっていう理由で決めそうだなぁ。
そもそも大学行かないって選択肢もとりそうだし。
それくらい自由に考えられたらいいんだけど……なんにもない分、自分が情けないなぁ……
「おはよう、2人とも。何話してたの?」
「おーー楓っぴ〜〜うちら受験生とかやばくなぁい? って話」
「今更何言ってるの……それよりも梨桜、宿題ちゃんとやってきたよね? 毎年ギリギリにやってたけど」
「アーウンヤッタヤッタ。ナンクルナイサ〜」
「………なんで片言なの」
「まあまあいいじゃないの奥さん。うちらは花の女子高校生! 楽しいことだけ考えてればいーのっ!」
適当な返し、そして話題の逸らしよう……やってないな、この人。
苦笑いを浮かべることしかできない私に比べて、怒ってはいるものの、呆れて言葉がでないというように楓ははぁっと深いため息をついた。
いつもならここで、蛍が楓をなだめて……あれ?
「そういえばほたるんは一緒じゃないの? 楓っぴが一人って珍しいね?」
私が気づいたのとちょうど同じタイミングで、梨桜が私より先に問いただす。
いつもなら楓と二人一緒だったのに。
すると楓は、少し困ったように顔を俯かせた。
「蛍、今日休みだって。風邪、ひいたみたいで」
「ぬぁんだってぇ!? 人生一度も風邪なんて引いたことないあのほたるんが!?」
「えっ、そうなの?」
「さすがにそれはないけど……でも体調悪くても、いつも無理してでもきてたから……ちょっと心配」
確かに蛍ならやりかねない、と思ってしまう。
体力もあるし、風邪なんてひく姿さえ想像できない。
でも夏休み中もバイトやってたりしてたみたいだし……私だったら絶対体壊しそうだな……
「そっかぁ〜じゃあ始業式終わったらいこうよ! 3人で。どーせあんたら、暇でそ?」
暇だと決めつけられたことに違和感を覚えながらも、彼女の提案を断る選択肢はほぼない。
私と楓はうんとうなずいたのだった。
なんだか今までで長く感じた一日だった気がする。
終礼がおわってすぐやってきた梨桜と、楓と共に歩きながら1日を振り返っていた。
蛍がいない。
それだけでどこか物足りなく、あの笑い声が聞こえないだけでやはり寂しい。
その分、梨桜が余計にうるさく感じてしまったけど。
せっかく行くなら驚かせたい、と梨桜が言うものだから、仕方なく何も言わずに来ちゃったんだけど……本当に大丈夫かなぁ。
「ここが、蛍の家だよ。病人の家に行くんだから、少しは静かにしてよね。梨桜」
風邪の見舞いにとりんごやスポーツドリンクが入った袋を持った楓が、しっと人差し指を口に持ってくる。
そんな彼女の様子に口を尖らせながらも、はーいと不満そうに返事をする。
楓が先導して案内してくれた蛍の家は屋根が二つ重なった外観で、白い外壁がすごくきれいにみえるシンプルモダンな一軒家だった。
こんな家に住んでるんだなぁ。
そんな私とは裏腹に、楓が慣れたように家のチャイムを鳴らす。
しばらくしていると、聞き慣れた返事とこっちに向かってきている足音が聞こえ……
「どちらさまで……って楓!? それに梨桜に六花まで!?」
出てきたのは水玉模様のブラウスパジャマを着たまさかの蛍本人だった。
てっきり寝込んでいるかと思っていたせいか、本人が出てきたことに少し驚いてしまう。
いや、それよりも……
「なんで三人がここに……もしかして、お見舞いに来てくれたのか!?」
「まあそんなとこよ〜てかお主、めちゃ声すんごいことになってるけど大丈夫? 喉やられてない??」
梨桜の指摘に、うんうんと私も頷く。
彼女の声は今までとは打って変わっていて、まるで男性をも思わせるくらいの低いものだった。
風邪とか引いてると、声がどうしようもなく枯れることはあるけれど……
「ま、まあ色々あってな。でも大丈夫! この通りピンピンしてるぞ!!」
「…………嘘つき」
そんなことを思っていた矢先、ぽつりと放たれた言葉にえっ? と皆の声が重なる。
その声は楓のものだった。
彼女はなぜか悲しそうな目で、蛍を睨みつけていて……
「学校を休みたくなるほど、何かあったんでしょ? 正直に言ってよ。最近の蛍、おかしいよ」
「楓……」
「それにそのチョーカー……前見た時は、赤だった気がするのは私の気のせい?」
楓の言葉に、はっとしてしまう。
言われて視線を落とした私は、チョーカーにはめこまれた赤い宝石だったものが、黒に染められていることに気付いた。
そういえば、御影さんが言っていた。
私の呪いの期限が迫っていたことに、色をみただけでわかるって……
「……ほんと、楓にはかなわないな」
すると蛍は、くすりと笑う。
その笑顔はどこか困ったようにみえた。
「とりあえず、中入ってくれ」
思えば誰かの家に行く、なんて人生で初めてだ。
しかもお友達の家って思うと、なんだか感慨深いものがある。
こんな時に何言ってるんだ、って思われるかもだけど。
家の中はきちんと整理整頓してある場所もあれば、ごたごた散らかっている場所もあった。
「妹がさっきまで遊んでてさ。少し散らかってるが、きにしないでくれ」
「あ、うん……蛍、家の人は?」
「今は妹達を連れて買い物に…………みんなはさ、あの神に呪いをかけられてから、何か違和感とかなかったか? 体、とか」
そう言われて、ぽんぽん出てくるほど私には無いことが実感させられる。
言われてみれば、呪いと言う割には体に害はなかったな。死ぬって脅されたくらいで。
「呪い」の話を避けていた彼女の口から聞くのはどこか新鮮で、何かあったことだけは察することができた。
「今のところないけど……二人は?」
「もっちろんうちらは元気よ! ね、楓っぴ!」
「……うん……」
「そっか、あたしだけならまだいいか。……実はあたし、夏休みが始まるあたりから急に高い声が出なくなってさ。風邪の引き始めみたいな感じだったから、大丈夫かなって思ってたんだけど、今朝起きて体みたら……ああ、ついにきちゃったかって……」
そう言いながら、蛍はブラウスのボタンを取り始める。
ん? と思ったのも束の間、梨桜が敏感に反応して……
「ちょっ、やだほたるんってば大胆! うち、まだ心の準備がぁっ!」
「ふ、ふざけないでよ梨桜! 蛍も何しようとしてるの! お願いだから服を……!」
「今まではそうでもなかったから、どうにか隠すことができたんだが……さすがにこれじゃ、もう逃げ場なくってさ。腹括るよ」
ばっとブラウスを脱ぎ捨てた光景に、思わず手で顔を隠す。
だめだ、恥ずかしくて見れるわけない。
確かにこういうこと、躊躇いなくやりそうなキャラしてるけども!
……でもさっきの言い方や、あのチョーカーの色といい、何かしらの意味がありそうな気もして……
その答えを探すため仕方なく、仕方なく煽っていた手の隙間から覗き込む。
そこに広がってほしかった光景とは全く別の、予想とは違うものが視界に入ってきてー
「あたし、完全に男になっちゃったみたいなんだ」
真っ平らな胸に、ごつごつした筋肉。
ところどころ生え始めている毛はまるで、女の子とは似ても似つかない体だったー……
(ツヅク・・・)
大変お待たせした分、
ボリュームが多くなった気がします。
今回からついに、呪いについて動きが出てきました。
最初は蛍、ですが
文字で声を表すのは難しいですね……
まだ言えないので、言いたいことは次回に回しますが、
個人的にこんな時でも梨桜はぶれなくて安心してます
次回は29日にできたら更新します。
また日付の変更だったり、
遅くなったりするかもしれません。ご了承ください。
詳しくは活動報告を見てくださいね。
蛍の呪いの真相とはいかに……




