文化の違いってやつね。
「1日かけての移動、お疲れ様。……生きてる?」
「だめ…………疲れた………………」
「思ったより…乗り継ぎが多くてビックリですね……」
砂漠を挟んだ隣国とはいえこんなに遠いとは。
誰も起きてないような朝早くにハラメスの言う迎えは来た。
少し透けた口布にこちらの国に合わせアレンジされたパンツスタイルのメイド服。脚には深いスリットが入っていて同性とはいえ思わず目を逸らしてしまった。
そして黒い髪に褐色の肌、錆色の目はハラメスの国の特徴だ。最もハラメスの目の色は金色だが。
そして馬車に乗り込みガタガタと半日揺られ、その後は砂舟と呼ばれる砂を走る船で灼熱の砂漠を通過。国の近くまで来た時にはもう夜になっていたのでラクダに乗り換え、ハラメスの実家に着いた。
しかしずっと座っていたので腰が痛い。
ヴェディハットは船で酔ったらしく客間に引いてあった絨毯に寝転がっている。
「けれどこれも文化の違いかしらね。床に座るのってなんか落ち着かないわ」
「間違っても絨毯の上に土足で乗っちゃダメよ。寝室は入口に靴を置くとこがあるから。」
「置いたらどうするの?」
「裸足になるのよ」
当たり前じゃない、というハラメスを2度見してしまったがまぁ異国に来ればそんなこともあるだろう。裸足で過ごすのは少し背徳感があるわね、と心がそわそわする。
「はい、ちゃんと水分補給しなさい。お肌カラッカラになるわよ。」
「わーい」
メイドらしき人物達が音もなく豪華な器いっぱいに盛られた果実を置いていく。
ゴブレットにはぶどうジュースも注がれていた。
喜びながらくたくたになった体に水分を取り入れる。プチッと口の中で弾けるみずみずしい果実が堪らない。
「それにしても本当に星がきれい。びっくりしたわ。」
ふふ、とハラメスがゴブレットを片手に笑う。
私たちが客間として通されたのは外に面している廊下とも言える部屋だ。
窓がなく、庭に面した部分には装飾された柱のみ。
まるでバルコニーのような、白を基調とした石で煌びやかな彫刻を施された部屋は満天の星空を覗くには打って付けだ。
「中庭には一切灯りを使っていないからとても星が見やすいでしょ。基本的にこの国は雨が降らないのよ。だからこういう家の作りでも汚れることはあまりないわ。まぁ砂は入ってくるけど。」
満天の星空を見たのは何年ぶりだろう。
少なくとも学園にいる時は見えない。
「屋上に行けばもっと綺麗なんだけど…まぁ一応まず客間にね。
そうだ、明日はあなた達の服買いに行くわよ。行商を来させても良いんだけどまぁ買いに行く方が楽しいでしょ?」
「楽しみだわ!お小遣いは持ってきたのよ。学園にいるとどうしてもお金を使う機会は減るもの。」
「取っておきなさいよ服くらいあたしが買ってあげるわよ」
自分で買うわ、悪いじゃないと反論しようとした時今まで黙っていたヴェディハットが口を開く。
「思ったんですがここの国の使用人はとても煌びやかな服を着るのですね」
「まぁそうね。権力の誇示にもなるし。」
「文化の違いってものよね」
先程から何回文化の違いと言ったかは分からないが、実際うちよりも圧倒的にお金持ちであろうハラメスの家はまず規格外すぎて他国以前にそこで文化の違いが発生する。
水が貴重な国で噴水を中庭に置く時点でお察しだ。
「とりあえず今夜はゆっくり寝なさい。あぁ、アリスにはマッサージをするよう頼んであるわ。
疲れを取ってくれるはずよ。」
マッサージ?と頭にハテナが浮かぶがとりあえず分かった、といい客間で2人と別れる。
それぞれ使用人に案内してもらい、部屋でまたくつろいだ。
ちなみにハラメスのいうマッサージがオイルマッサージ、尚且つオイルマッサージの特性上お風呂に運ばれ服を剥ぎ取られてそのままマッサージをされた。
頭が追いつかず叫びつかれ疲れた体にお湯がしみぐったりとした私に何かしてしまいましたか、とおろおろするメイド達に大丈夫と告げて部屋に戻った。
「文化の……違いってやつね…………」
そのままベッドにダイブしすぐに眠りに落ちたのは言うまでもない。