第22話 ゴブリンとは違う世界での物語③
「この洞窟か。いかにもゴブリンが潜んでそうだね」
「うむ、だが安心していいぞ。ライトは私が必ず守るからな!」
「はは、まぁ、自分のことは自分で守れるし、そこはそんなに気を遣わなくても大丈夫だよ?」
「私が純粋に守りたいのだ。何か危ないことがあったら、抱きしめてでも助けるぞ!」
「あ、はい……」
目を丸くさせて頷くライトです。そして何故かシロニの頭を覆う兜からポタポタと血が垂れ落ちてきてます。
「私が先頭を歩こう」
「うん、ならお願いね」
こうしてシロニが前を歩き、薄暗いジメッとした洞窟を進んでいくわけですが。
「ムッ! 罠だ気をつけるのだライト!」
――カンカンカンカンカンカンカン!
「あ、うん、気をつけるも何も出てきた矢がすべて鎧にあたってるよね?」
「ふむ、まぁ結果良しであろう」
前を進んでいたシロニですが、うっかりトラップ起動のスイッチを踏んでしまい、大量の矢が壁から発射された形です。
尤も鎧のおかげでノーダメージなようですが。
「罠には気をつけるのだぞ」
「うん」
――ズボッ!
「ひゃぁ!」
落とし穴に引っかかったシロニは鎧の重厚さに救われました。悲鳴こそ上げましたが途中で鎧が穴に引っかかったのです。
「うむ、こういうことがあるから気をつけるのだぞ?」
「うん、相変わらず豪快だねシロニは」
次から次へと罠にはまるシロニですが、どうやらここれで平常運転なようです。罠を見破ると言うよりはあえてハマって解除していくスタイルなようですね。
「ギギッ!」
「グギュ!」
更に進んでいくと遂に2人はゴブリンと遭遇しました。緑色の肌に尖った耳。ナイフのように尖った目に頭には小さな角が生えています。
見た目にも醜悪なら独自の言語で発せられた声にも全く可愛げがありません。
「うぉおおおぉおおおお!」
「グギョ!?」
「ギャギャ!」
ゴブリンを発見するや否や、シロニが怒涛の勢いで向かっていき、大剣を振るってゴブリンをめった切りにしていきます。
こうしてゴブリンはあっという間に絶命してしまいました。
「相変わらず強いね」
「ふん、そうはいってもゴブリンだからな。大抵のやつはさっきいた馬鹿のようにゴブリンばかり狩る私を下に見るものだ」
「すくなくともあのギルドの冒険者なら絶対にそんなことはないと思うけどね。それにここら辺のゴブリンはレベルが高いし」
レベルはこの世界で暮らす人々の能力を表すに欠かせない数字です。大体農業を営むような男性で生涯通してレベル3まで上がれば上等とされています。
このレベルはモンスターにも存在します。モンスターも人間と同じで同じ種類でもレベルの多寡はありますが、ゴブリンはその幅が広いモンスターとして有名です。
大体の場合ゴブリンのレベルは5~8程度で落ち着くものですが、このあたりに出没するゴブリンはレベル15を超えるものがザラにいます。20超えも珍しくありません。
「だから本来ならDランクでも勝てるとされるゴブリンがこの周辺だと最低でもC出来ればBとされるんだよね~まぁそれでもシロニは過剰戦力過ぎるんだろうけど」
シロニはSランクでレベルも40を超えています。ライトも同じぐらいでいくらレベルが高いゴブリンと言っても敵う相手ではありません。
「さぁ、先を急ごう」
「うん、そうだね」
そして更に洞窟を突き進む2人。その途中もやはり多くのゴブリンが現れますが。
「フンフンフンフンフンフンフン!」
「「「「「「「「ギャッギャッギャッギャッギャッ!」」」」」」」
「エアリアルスラッシュ乱斬り!」
「「「「「「グッギャーーーーーー」」」」」
シロニの徹底した乱撃とライトの風の斬撃によってゴブリンが次々と地に伏していきます。
――ドォオォオオォオン!
すると、ライトとシロニの立ち位置に爆発が起きました。
「ギ……」
見ると杖を持ったゴブリンが口元を歪めています。ゴブリンの中にはこのように魔法を扱うものもいますが。
「いったい、な!」
「ギャン!」
しかし、勇者の放った電撃であっさりと返り討ちに会いました。痛いとは言っていますが全くダメージを受けている様子がありません。
「ふん、この程度の魔法で私達を倒そうなど愚かな連中だ」
「まぁ、今のはBランクあたりならそれなりにダメージがあったかもだけどね」
そう語らいつつ、先を進むライトとシロニ。その途中、ライトは神妙な顔で何かを考え込みました。
「どうしたライト? そんな難しい顔をして?」
「いや、その、おかしなことを聞くかもだけど……ゴブリンはやっぱ基本凶暴なものだよね?」
「? なんだ突然、そんなのは当たり前だろ?」
「あぁ、うんやっぱそうだよね~いや、実は、これはあくまで夢での話なんだけど、どうも変わった感じのゴブリンがいて、今思い起こせばさっき倒したゴブリンより少し表情が柔らかかったんだよね。それに僕を見るなり逃げ出して、そこから反撃を仕掛けてくる様子もなかったんだけどどう思う?」
「……夢なんだろ?」
「いや、そうなんだけど、そんなゴブリンいると思う?」
「相手に恐れをなして逃げるゴブリンならいるが戦闘はしたのか?」
「いや、特に。それに怪我している様子もなくてただ僕を見て逃げたんだ」
「だとしたら罠でも仕掛けておいておびき寄せようとしたんだろ。あいつらにはそういう狡賢さが備わっているからな」
「いや、でも罠もなかったんだ」
「他の仲間の下へおびき寄せただけでは?」
「それもなかった。そもそも1匹みたいだったし」
「……夢なんだよな?」
「あ、うん。夢なんだけど妙にリアリティがあって気になったんだよ」
ライトは正直夢だったのかどうか判断に困るところでもあるようですね。
とは言え、シロニにはあくまで夢ということで通すつもりなようです。
「あまり考えられないことだな。ゴブリンは戦いもせず彼我の実力が判るほど察しはよくないし、相手を知るために様子を見ようと思えるほど大人しくはない。多種族も生物もすべて敵であり餌であり欲望を満たすための玩具という認識だ。ましてやライトのような、なんというか、か、可愛い顔してる相手を見て何もしないわけがないのだ!」
後半だけしどろもどろになるシロニであり、ライトも苦笑気味である。
「とにかく、ただの夢をそこまで気にしても仕方ないだろう?」
「うん……まぁそうだね」
「それと、いま私はゴブリンが勇者を放っておくわけがないと言ったが、勿論私の目の黒いうちは指一本触れさせぬからな! 安心しろ!」
「うん、ありがとうシロニ」
「な、なに! 戦友として当然のことさ! さ、さぁ先を急ぐぞ」
「うん、あ、ところで、シロニがそこまでゴブリンを憎むのは、何か特別な事情があるの?」
「……すまないライト。例えライトであってもそれは――」
「あ、うんごめんね。不躾なこと聞いちゃって。そうだね、誰にでも知られたくないことはあるもんね! 先を急ごう!」
こうして先を急ぐ2人。それにしても、どうやらシロニにはゴブリンを憎む理由がありそうですね――
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