第20話 ゴブリンとは違う世界での物語①
ところかわって、ここはとある国のとある町――
「あれ? 知ってる天井だ……」
まぶたを開けた少年の目に飛び込んできたのは、見知った木製の天井でした。
上半身を起こし、キョロキョロとあたりを見回します。
「ここは、僕が泊まっている宿……ということは夢だった? いや、でも――」
少年は顎を指で押さえ一考します。少年はついさっきまでこことは違う別な世界にいました。そしてゴブリンを見つけ追いかけ回していたわけです。
「ちょっとまってよ……確か昨日は宿に戻って部屋にいたら急に目の前が光につづまれて……そう僕は森のなかに放り出されたんだ。そこでゴブリンを見つけて……」
一つ一つ思い出していきます。
「ゴブリンを探し回っていたら、何か妙に懐かしい感じで話しかけられたんだ。そして色々と聞かれて……そうだあの男の格好は確かに、でもまさかね……」
ぶつぶつと呟き続ける少年。どうやら彼はその後、厄介事に巻き込まれる予感がして何かを聞いてくる男から逃げ出したようです。
追いかけるほうから逃亡者になってしまった少年ですが、朝が来ると同時にまた光りに包まれ――気がついたら宿にいたとそういうことなようですね。
「夢にしてはリアリティありすぎだよね。う~ん? どういうことだろ? う~ん、う~ん」
少年は頭を抱えました。
「……ま、いっか」
しかし、いくら考えても答えが出ないので少年は考えるのをやめました。わりとノリは軽いようです。
「あ、おはようございます勇者さん!」
「おはよう、て、もう勇者さんとかやめてよ。ライトでいいから」
「ごめんなさいつい」
テヘッ、と舌を出してコツンっと自分の頭を小突きました。そばかすがチャーミングな赤髪の少女ですね。エプロン姿で頭に三角巾を巻いています。
「これからお仕事ですか?」
「うん、ちょっと冒険者ギルドに行こうと思ってね」
「そうですか。お仕事頑張ってくださいね!」
「うん、じゃあ行ってくるね」
そして勇者ライトは宿を飛び出しました。
「おお、勇者おはよう」
「勇者くんいつもご苦労だねぇ」
「うん、おはようみんな。何かあったら言ってね~」
「あらあら勇者くん、相変わらず可愛い、うふ、どうぱふぱふしてく?」
「け、結構です!」
ライトは顔を真っ赤にさせながらギルドに向かいました。中々初なようですね。その後も町のみんなから親しげに声を掛けられます。
全員勇者呼びでそれも照れくさそうではありますね。宿の女の子に名前で呼んで欲しいと言っているのは多くの人が勇者と呼ぶからせめて宿では名前で呼んでほしいという気持ちがあるのかもしれません。
「おはようマインさん」
「勇者様おはようございます」
冒険者ギルドにつき、カウンターに向かうと受付嬢のマインが挨拶してくれました。ライトもそれに倣います。
マインはウェーブの掛かった金髪とパッチリとした大きな瞳が特徴の美人受付嬢です。
「もしかして今日は依頼を受けてくださるのですか?」
「うん、少し時間も出来たしね。ギルドの仕事もと思って――」
「おい餓鬼、そこをどけろ」
「――はい?」
マインと依頼について話していると、後ろから威圧するような声が聞こえてきました。
ライトが振り返ると随分といかつい顔をした男がライトを見下ろしています。大きな体と筋肉が自慢といった様子の戦士然とした冒険者なようですね。
「ちびが、お前みたいな野郎が上等な受付嬢と話すなんて烏滸がましいんだよ。とっととどけてママのおっぱいでもしゃぶってろ。ま、そっちの女のおっぱいは俺がしゃぶるけどな」
「は?」
マインのこめかみがピクピクしてます。どうやらこの不躾な冒険者に苛立っているようですね。
「あのさ、僕は順番を守って今ここに立ってるんだけど君たち違うよね?」
「あん? 当然だろボケが。冒険者は弱肉教室。強いほうが偉いんだよ」
「弱肉強食だよそれ」
『プッ』
周囲からクスクスと笑い声が聞こえ、男の顔が赤く変化しました。
「う、うるせぇ! いいからどけろってんだボケが!」
「君、もしかしてこの町に来たばかり?」
「あん? そうだよ。前の町じゃこのBランク冒険者のガンツ様のお眼鏡に叶う依頼がなくなったからな。仲間を連れてわざわざこんな田舎クセェ町までやってきてやったんだよ」
「田舎臭いって――」
マインのこめかみがピキピキしてます。
「そっか、で、え~と、カンツだっけ?」
「ガンツだ! 喧嘩売ってんのかテメェ!」
「うん、まぁいいや。そのガンツ御一行さんはとりあえず順番ぐらい守れる余裕が無いと、正直冒険者として大成出来ないと思うし、ここで仕事するのも厳しいんじゃないかな?」
「テメェ黙って聞いておいてやれば、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
ガンツがライトに向けて殴りかかってきました。かなり強烈そうなパンチですが。
「だから――」
「へ?」
しかし、ライトはなんとそれを指一本で受け止めてしまいます。ガンツの目が驚きに満ちてました。
「順番を守れないような礼儀知らずに冒険者はつとまらないよ。あと、この程度じゃ威張り散らすんは力不足、かな!」
「な、グベシッ!」
ライトはそのまま指を押し込みました。軽くやったようにしかみえませんでしたが、ガンツはふっ飛ばされ翻筋斗打って床に転がされました。
「ほら、君たちから見て弱そうな僕にもそんな有様じゃ、とてもここじゃやっていけないと思うよ?」
「くそ、このクソガキ! もう許せねぇ。てめぇらやっちまうぞ!」
「「「へい!」」」
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