13 タリアの慟哭 後編2/2
此処からタリアは悲惨な目に遭うので、読みたくない人は次のダイジェストを読んで下さい。
お久しぶりでございます。タリア・フォーチャー?です。この国に来て1年が経とうとしています。最近よく体調を崩してしまいます。倒れるわけではありませんが、時々体が重く感じてしまいます。家族に手紙を送っているはずですが、忙しいようでなかなか返事が貰えないみたいですわ。
ドンッ
「あうっ」
「あら?ごめん遊ばせ。タリア様、気づかずにぶつかってしまいましたわ。」
「いえ、こちらこそ不注意で申し訳ありません。」
この国に来てから今まで一度たりとも好意的な貴族を見たことがありません。市民階級の方は普通なのですが、貴族階級の方になるとこのように私に対して、攻撃的な態度が目につきます。ここまで来ればおおよそ察しがつきます。
私が何らかの反抗をすることで、この国はルバーネット王国にその非を問うつもりなのでしょう。この国の貴族はこの学園に自身の従者を連れてくることが出来ますが、他国民の私は従者を連れて学園に入ることは出来ません。公立の学び舎として、この国のミライアル子息令嬢の為に、危険な思想に万が一にも近づけさせないため。という建前があるためです。
そのため私の従者を無理にでも連れて来ようとすると、スパイであるとの冤罪を掛けられ、国に迷惑をかけてしまうかもしれません。それでは私が何のためにこの国に来たのか本末転倒のため、ずっと耐え続けてきました。さらに…
「さっさとこっちに来い。」
「はい…」
「今日こそは満足させてみろ。」
私は着ている物を脱ぎ、キュードスに近づいていきます。この方は公爵家の次男であり、その権力を用いて、度々学園の女生徒を相手に遊んでいました。婚約者としてそのことを嗜めたのですが、
「なんだその反抗的な態度は?国際問題にでもする気か?」
と、暴論を繰り広げます。私はとっさに返答が出来ず、その時この男は私に手を出してきました。
「言いたいことがあるなら言っても良いんだぞ?誰も信じないだろうがな。」
悔しいですけど、この味方のいない状況ではその通りになるでしょう。むしろ下手に反抗すると本当に国際問題にしかねません。バジオン公爵家はこの国の戦争派の人間であり、このことを口実に確実に戦争を起こそうと行動するでしょう。
………………
今日もこの苦痛な時間が終わり、体を洗ってベッドに潜り込みます。
「~~~っううぅ~~~っ」
いつも涙が流れてしまいます。もはや私にあるのは国を背負ってこの国との和平をつなぐというフォーチャー家の娘としての矜持しかありません。必ず耐えきってみせる。そう自分に言い聞かせ、今日も眠りにつきます。
あともう少しで学園を卒業という頃になりました。数か月もすれば私は正式なキュードス・バジオンの妻となります。そう、まだまだ私の使命は始まってすらいないのです。しかし、この日私はこの国の悪意をその身をもって退官します。
「タリア様、もう少しで卒業してしまわれるのですね。寂しくなります。」
「これは仕方ないことですよクラリス。私もあなたと離れることは寂しいです。」
この子は平民出のクラリスと言い、1つ下の学年に通っています。成績は非常に優秀で、そのための努力も惜しまずする娘です。そのほかにも何人か平民出の子たちが居ますが、彼らは私にも話しかけて来てくれます。
「今日はこれから皆でタリア様にプレゼントを買いに行ってくる予定ですから、中身は楽しみにしていてくださいね。」
「まぁ、そんなこと私に話しても良かったの?」
「黙って渡そうとしたら何を言われるか分からないですし…先に説明しておいた方がいいとみんなで考えました。」
この国は貴族至上主義みたいなところがあり、平民は貴族たちを潤すための駒としか考えていないのが実情です。ですので、貴族たちは気に食わないという理由で平気で平民を打ち据えたりします。ですので、あらかじめ断りを入れてからというのは正しいと思います。
「ええ、では楽しみにしています。ただあまり高いものは私の心臓がビックリしてしまいますから、ほどほどでお願いしますね。」
「はい、それではそろそろ皆の所に行きます。タリア様さようなら。」
「はい、クラリスもご機嫌よう。」
そういい彼女と別れました。
その日にクラリスたちが言ったデパートに強盗が押し入り、彼女たちを含めた多数の死傷者が出ました。
「タリア、国家転覆罪の容疑で逮捕する。」
「な!?どういうことですか?!」
「この度の件は調べがついている。デパートに強盗を差し向け、多数の死傷者を出し、尚且つ火まで放つというその凶悪さ!神妙にお縄に着け。」
「!?」
クラリス達が今日行くと言っていました!彼女たちはどうなったのです?!
「死傷者とは…?」
「何を白々しい、10数人に及ぶ死者と数10人に及ぶ負傷者を出しておきながら…中には成績優秀な未来ある女学生が何人も帰らぬ人となったのだぞ!焼け残っていた衣服と遺体の特徴でようやく分かったことだがな!」
そんな…クラリス…それから私は連行され、牢に入れられました。貴族の娘に対しては信じられない対応です。そして、私は一縷の望みにかけてバジオン家に助けを求める文を認めました。この国では犯罪者も文を出すことが出来ると法律で決まっています。ただ、文字を掛ける人間が少ないため形骸化していましたが、この国のことを知るために調べた知識が役に立ちました。
そして返答が来ます。
『キュードス・バジオンの婚約者タリア・フォーチャーは誠に遺憾なことに今回の王立デパート襲撃事件で命を落とし、尚且つ犯人が放った火によってデパートが倒壊し、遺体の収容すら困難であり、バジオン家としても悲しみに暮れている。よって、彼女の名を騙る不届き者には厳罰を要求する。』
その返答を受け、私は何もかもが信じられませんでした。思えば連行される時にはこのシナリオが出来ていたのでしょう。私は国に被害が出ないように祈るしかありませんでした。
「普通ならば裁判を行うが、実行犯はまだ捕まっておらず、国民感情を考慮した結果、非公開裁判を開き被告に判決を言い渡す。」
そして私はそれ以降人扱いされることはありませんでした…
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……私は…タリア?
もうあまり考えられない…何人もの男が近くで動いている…時々体が触れる気がするけども…ご飯が来るときと、寝るとき以外は男たちが近くで動いている…
今はご飯の時間だから一人だけ…寂しい…ご飯もパンと…白い粉…?
今は真っ暗…もう寝る時間だ…ただいつも寝る前に…何回もバケツに汲んだ水を掛けられるの…寒いよ…
もうだいぶ前から…体中に…赤い点が出てきた…ナニコレ…?
今日も男たちが近くで動いている…たまに私にぶつかって…うつ伏せになったり…仰向けになったり…目が回るよ…
今日は珍しく服を着た人が来た…誰だっけ?…見たことある人…
「タリアお嬢様、遅くなって申し訳ありません。」
この人は泣いているの?…血が出てる…痛いの痛いの飛んでいけ…ずっと前に…かわいいあの子にもしてあげたっけ…
「直ぐにここから出ましょう。追手が来ます。」
その人は私を抱えて走り出した…久しぶりに寝る前に水掛けられない…よかった…温かいよ…
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わたしは…だれ?
おとこのひとが…うごかない…
「あああぁ……」
こえがでないよ…からだも…よくうごかない…ひとよばなくちゃ…
じめんをはって…どれくらいすすんだかな…?おおきなはこが…めのまえでとまった…
「何だこいつ?おい、道の真ん中で寝るな、フォーチャー侯爵がお通りになるぞ。」
かおをあげる…だれかがはなしかけてくる…たすけ…おねがいするの…
「うおぉっ!こいつ鼻がないぞ!病気持ちか!」
わたし・・・なにももてないよ・・・からだ・・・おもいの・・・うごかないから・・・
「しかしなんだ?なんかこいつ気になるな?どこかで会ったことが…「」
「一体何があった?」
「は!行き倒れが居るようです。どうやら病にかかっているようで動けないようです。」
「ふむ…その者は何処だ?」
「御屋形様、万が一の危険があるかもしれません。ここでお待ちを。」
「お前たちが居れば万一もあるまい。」
「…こちらです。」
まただれか・・・ちかくにくる・・・
「…この女性か?」
「はい、なぜか彼女を見ていると…気になるというか…」
「ふむ…」
「御屋形様?!」
おとこの・・・ひとに・・・だっこされた・・・あたたかい・・・ううぅ・・・
「彼女を屋敷に連れて行く…」
「恐れながら御屋形様、屋敷に連れて行かれるのはお止めになった方が…万が一皆に病が移るかもしれません。」
「…では、座敷牢ならばいいだろう。あそこならばベッドもある。兵たちは一時的に別の官舎に移れと命じよ」
「…承知いたしました。」
このひと・・・あたたかい・・・かぞくって・・・こんなのかな・・・?・・・かぞく?
「意識が混濁しているようだな…早急に医者も手配せよ…」
「「「はっ!」」」
ふかふかのふとんでねる・・・あったかいごはん・・・おいしい・・・
「彼女の様子はどうだ?」
「はい、意識がずっと混濁していまだにまともな反応を示しません。かろうじて流動食は摂れるのですが…」
「そうか…なぜか彼女を見ていると…悲しくなる…」
「御屋形様もそうですか?…実は私もです。」
「貴女でも治せないか?」
「少なくとも…この状態を治すことはどのような医者でも難しいでしょう。既に末期です。むしろよく今まで…」
だれかがはなしてる・・・
「おとう・・・さま・・・」
「…家族との夢を見ているのか…?」
「みたいですね。頭を撫でてあげては?」
おおきなてが・・・あたまなでてくれる・・・すごくうれしい・・・なつかしい・・・あたたかい・・・
「不思議だな…この娘を見ていると、まるで娘に会っているような気がする。」
「…私もこの娘に何度かあったような?しかし、娘ですか?」
「ああ、私には息子しかいないからな、娘が居ればこんな感じで頭を撫でたのかな?久しぶりに穏やかな気持ちになれた。」
「リーナちゃんのことですか…」
「ああ…守れなかった…彼らとの約束を…」
やだ・・・かなしいこと・・・いわないで・・・りーな?・・・なみだがでるよ・・・
「はぁ…はぁ…」
いきができない・・・くるしいよ・・・さみしいよ・・・うん?・・・なに?・・・ひかってる?・・・あたたかいひかり・・・
(…もう全て手遅れです。家も家族も何も残っていません。…)
そんな・・・こと・・・ないよ・・・わたしが・・・るから・・・ずっと・・・ぎゅって・・・してあげるから・・・わたしの・・・かわいい妹・・・絶対…幸せにするから…
…私に力を貸していただけるのですか?)
だって…リーナを…絶対に…幸せにしてみせます…私は…お姉ちゃんだから…
「りーな…」
光が溢れました。
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「リーナ!」
はぁ…はぁ…
心臓がバクバクしています。とても辛い夢を見た気がします。
私は誰?…タリア・フォーチャーです。フォーチャー家長女、11才。そう、私です。不思議な感覚です。私がきちんと私であると確認せずにはいられません。ふと鏡の所まで歩きます。日の光が出ているので恐らく5時前後でしょう。足元は十分見えます。
「酷い顔…」
寝ているときに泣いていたみたいです。髪もボサボサで今すぐに整えねば、しかし私はその場でしゃがみ込んでしまいました。
「…なんで、こんなに苦しいの?なんでこんなに嬉しいのですか?」
なぜか涙が止まらず、つらいという感情と嬉しいという感情、あと安心感が身を包みます。
コンコンッ
「お嬢様、そろそろお目覚めのお時間です。失礼いたします。」
使用人が入ってきました。いつもの見慣れた女性です。小さい時から世話をしてもらっています。
「お嬢様!?どうされたのですか?!!」
そういえば泣いていたのでした。いけません。このような姿を見られるとは!
「なんでもありません。それより顔を洗いたいので用意してください。」
「タリア!何が有ったのだ?!」
身支度を整え、朝食のため食堂に向かっていると、廊下の先からレオお兄様が現れました。泣きながら鏡の前に座っていたことが伝わってしまったようです。口止めするのを忘れていました。
「……です。」
「?!何だって!よく聞こえなかった!」
「だから…怖い夢を見ただけです。」
「…は?」
「~~~3度目は言いません。」
思わずレオお兄様に抱き着いてしまいました。
「タリア?」
「暫くじっとしていてください。」
「…ああ」
そして朝食の席でもはしたないですが、家族皆に抱き着いてしまいました。お爺様は顔をとろけさせ、身内と言えども少し引いてしまいましたわ。
「~~~っ、なんで私はあんなことを…」
我に返ってから部屋のベッドに潜り込み、枕をバンバン叩いてしまいます。本当に恥ずかしい、今日は何処にも出かけられる気がしません。思わず知り合いに抱き着いてしまいそうです。そしてその日はそのまま館から出ずに終わりました。
次の日
「お嬢様!」
「どうしたのです?騒々しい。」
「昨日、トレーター家に侵入したものが居るようで、カトリーナ様が襲われ「リーナ!」かけたようですよ…」
駄目、リーナ無事でいて!私は全力でトレーター家に向かいました。護衛とかを連れて行く時間も惜しいので今日は屋敷を強引に抜け出し、大通りを進みます。
(よりによって屋敷から出なかった時に!)
そしてトレーター家に着き、リーナの元へ案内を頼みます。
「いえ、そのただいま旦那様含め取り込み中でして…」
「今は案内できないというか…」
ええい、歯切れの悪いことを!リーナの無事を確認したいだけなのに!それともリーナの身に何かよからぬことが?!
「ならば勝手に行きます!」
「あ、タリア様お待ちを!?」
「急いで追うぞニーナ!」
リーナ!リーナ!リーナ!焦燥が体を突き動かします。そしてリーナが居ると思われる部屋に突撃します。
「おk バンッ!!
「リーナ!!無事ですか!!!?」
「タリアお姉さま!!?」
リーナは驚いた顔をしています。ああ、やはりリーナは可愛いです。ですが、既に体を汚されているかもしれません。急いで確認しないと!
そしてリーナは何もなかったと言い張っています。しかしこの娘は何かあっても隠す子ですから…そして見慣れない男性が居ました。本能的にこの方から目が離せませんでした。
(この方がリーナを幸せにしてくれる?)
なぜそのような考えを持ったのかは分かりません。そんな考えを振りほどき彼に詰め寄ります。何故だかリーナを押し倒したのが彼だと確信を持ちました。
「あなたですか?!カトリーナを○した強姦魔は!」
「お姉さま!?私は何もされてませんって説明しているじゃないですか!!」
「リーナ…忘れてしまうほど辛かったのですね…大丈夫、私がずっとそばにいます。」
「いえ…だから…」
彼女を幸せにできるかどうか、私が見極めてみせますわ!




