対話
「クソッ」
ラグナールは小声で発する。
ほぅ。と魔王はシャルの治癒魔法に関心を示す。
「銀髪の娘、貴様聖女か?」
「だったら何だというのですか?」
「そうか、今世の聖女か。
では、そこの金髪の小僧が今世の勇者か?」
ラグナールを顎で指し、不敵に笑いながら問う魔王。
ラグナールは何も出来ていない己を恥じ俯いている。
シャルがラグナールに駆け寄る。
魔王の笑い声が大きくなる。
「ハハハハッ、実に情けないな小僧。」
「聖剣は奪われ、意識も失い、仲間にはかばわれ、女には心配までされる始末だ。」
「・・・」
何も返せないラグナール、俯き拳を強く握りしめることしかできない。
「しっかりしてください。」
ラグナールの情けない姿に、キースが怒りを露わに一喝する。
「まだチャンスはあります。みんなで臨めばなんとか出来るはずです。」
諦めないキース。それに応えるようにセリス、ナルが武器を持ち直し身構える。
「まぁ早まるな。」
魔王が言い放つ。
「ここまでやられて力の差がわからん訳でもないだろう。だからと言って貴様らもオメオメ帰る訳にはいかない。」
「なぁにが言いたいのかなぁ。」
ナルが遮る。
魔王は答える。
「少し話をしよう。」
「魔王がなにをっ。」
叫ぶラグナールをキースが制止する。
指を振り、舌をチッチッと鳴らし、言葉には出さずとも、威勢だけはいいな。と魔王は鼻で笑う。
「まずは、私の話を聞くか、聞かないかだ。どうする?選択は自由だ貴様らで多数決でも相談でも好きにするがいい。」
対話を望む魔王に、キース、シャルは動揺を隠せない。
ナルは興味津々といったところか。
ラグナール、セリスにいたっては怒りを抑えられないようだ。
「話をしよう。」
「対話を求めます。」
ナル、キースの二人が一緒に言葉を発した。
「賢明な判断だな」
魔王は背を向け吹き飛ばされた窓側まで歩き横倒れになっている揺り椅子を起こす。
聖剣を床に突き刺し、ゆっくり揺り椅子に座る。
ゆっくりと揺れる椅子の音が少しだけ響く。
「収納魔術」
ラグナール達の前に背もたれ付きの椅子を五脚横並びに配置する。
座れと顎で指す。
キース、ナルが座ると、シャルも椅子に腰をかける。
しぶしぶラグナールも椅子に座る。
最後にセリスが舌打ちをしながら、着席する。
全員が座るのを確認し、魔王が言う。
「貴様等の名を教えろ。」
言い終わると、本棚から赤い表紙の本が魔王に向かってゆっくり飛んでくる。
魔王が手に取ると、本は青白く光りだした。
「それは、なに!!」
興味津々とナルが聞く。
「ただの記録魔術だ。
聞かれた質問にだけ答えればいい。
でなければ戦闘続行だ。」
冷たく冷静に返しながらも、余計な事は喋るなと脅しを入れる魔王。
キースは肝を冷やす。
ナルも顔は見えないが少し焦っているようだ。
「もう一度問う、貴様等の名を教えろ。」
「ナル•ナニア」
「キース、キース•ディザースです。」
「シャルロット•エンバーリアと申します。」
「セリスだ」
「・・・ラグナール•キアニス」
各々が魔王の最初の質問に答える。
魔王は、揺り椅子に足を組みながら座り、左手で頬杖をつきながら右手に青白く光る本を持ち、それを見つめている。
「次だ。紋章持ち、もしくは加護持ちはいるか」
魔王は二度目の質問をする。
「私は、両方ともありません。」
卑屈そうにキースが答える。
「私は、風の精霊紋と精霊の加護だ」
そう答えるセリスは右手の甲にある黄緑色の精霊紋を魔王に見せる。
「自分は加護も紋章も何もありませ〜ん。」
黒いローブで全身を覆ったナルが堂々と答える。
魔王はため息をつき、どうでも良さそうに無視し、シャルロットを見つめる。
「聖女紋と女神サリサ様の加護をいただいてます。」
シャルロットが答える。
「紋章の発現場所はどこだ。」
鋭く睨みながら、魔王が問う。
「ひ、左肩です。」
シャルロットは震えながら答える。
「色は?」
矢継ぎ早に魔王が問う。
「い、色ですか?」
困惑しながら、いそいそと小手を外し、袖をまくり上げ紋章を魔王へ見せながら答える。
「白と言いますか、灰色と言いますか。」
「薄灰色だな。未開放の紋章はみんなその色だ。まさかそんな事も知らんのか。」
魔王は酷く呆れた様子で言葉を放つ。
「小僧、よもや貴様もではあるまいな?」
「同じだ」
ラグナールも左手の小手を外し、自分の手の甲に在る紋章を魔王に見せる。
魔王は天井を見つめ、左手で目を覆った。
シャルロットは激しく動揺している。
「精神分離魔術」
小声で術を発動するナル。
自身の肉体から精神体を分離し、魔王の方へと飛ぶ。
魔王の持つ本の魔術が気になって仕方がなかったのだろう。
魔王の本に寄った瞬間だった。
「魔術強制解除」
天を仰ぐ魔王が唱える。
バチンッ
雷が走ったような衝撃と共にナルの精神体は肉体へと弾き飛ばされる。
肉体へ強制的に戻されたナルはビクッと驚き跳ねる。
その衝撃で椅子がガタつき、隣に居たシャルが大丈夫?と声をかける。
「余計な事はしないことだ。次は消えてもらうぞ。」
魔王は、ナルを見つめて静かに言う。
装いとは別にただならぬ気配を感じたナルはコクコクと黙って頷く。
「何をした。」
とラグナールが魔王に迫ろうとするが、隣に居たキースが腕でそれを遮り魔王も
「そこの黒ずくめとの戯れだ」
と、一蹴する。
キースに腕を引っ張られて座るラグナール。
「話を戻そう。小僧と聖女の娘は、紋章が持つ力をどこまで理解している?」
魔王はシャルロット、ラグナールに問う。
「生まれ持っての紋章は個人の身体能力や魔力量を大幅に向上させる。」
「精霊や神獣との契約によって、その力を借りることができます。その証として体の一部に紋章が発現します。」
ラグナール、シャルロットと答えていく。
「•••よもやそれだけではあるまいな。」
再び呆れ顔で魔王が問う。
黙る2人。
はぁ。と、ため息をつき魔王はセリスを見る。
「長耳貴様から補足はあるか。」
魔王はセリスに補足を促す。
「人族での話は分からんが、生まれ持っての紋章は我々エルフ族では、運命を指し示すものとされている。運命に従い生きていく事で紋章の輝きが増しその力をさらなる高みへと成長させると。」
セリスは答える。
「半分だな。」
魔王はボソッと言う。
「自分達の持つ力の半分も理解していないとはな。」
魔王は怪訝そうに言う。
セリスは睨みつけるも、魔王は呆れた様子でその目をやめろと言わんばかりに手を振って相手にしない。
「あの、質問してもいいですか?」
ナルがよそよそしい態度で魔王に問う。
なんだ。と魔王は答える。
「紋章について教えを請いたいのですが。自分とキースさんは紋章持ちではないので、それに世の中的には紋章持ちの人達は珍しいので。」
はぁ〜。と深いため息をつきながらも魔王は、いいだろう。と答え説明を始める。




