眠れる魔王
陽の光が差し込む大きな窓の近くに、本を片手に持ち、静かに揺れる揺り椅子に座りながら肘掛けにもう片方の手で頬杖をついて眠る男が居る。
天井の高い部屋に、外の風景を一望出来る様な大きな窓、壁際には綺麗に整理された大きな本棚五台と、男の眠る揺り椅子、その近くに少し背の高めの丸いテーブルが置いてある。
大きな窓の真反対には大きな二枚扉がある。
他には何もない、全体的に大きいだけのいたって簡素な部屋だ。
ただ本棚にはびっしりと本が詰まっている。
似たようなデザインの表紙で統一され、赤、白、黒などの色違いの本が整然と並んでいる。
大きな窓からは、森と少し離れた所にある湖が一望できさらに遠く離れた所に山々が連なっている。
湖には小島があり、木が一本生えているように見える。
この部屋がある建物は大きくはないが、立派な造りの古城のようだ。
「••う」
「•おう!」
離れたところから聞こえる声がこちらに向かって近づいてくる。
「魔王!」
扉の片方が蹴り開けられた勢いで壊れる。
ゆっくりと、眠っていたこの部屋の主が立ち上がる。
黒髪で、背が非常に高く、身体は引き締まっているせいか少し細く見える。
すべてを燃やし尽くさんと感じる赤黒い瞳に、切れ長で少しつり目というつくりのせいか目つきがキツく感じとれる。
鼻筋も整っていて鼻が高い。
総じて端正な顔つきだ。
凛々しくも眉目秀麗な男そのものだった。
「あ゙ぁ゙、うるさい。」
部屋の主が静かに、重く、声を発する。
見た目からは想像もつかない艶やかでいて低音の声だ。
しゃがれて聞こえる声のせいなのか、睡眠を邪魔されて不機嫌さを増しているのか、その声はかなりの迫力だ。
「覚悟しろ。女神サリサ様の天啓に従い、俺が貴様に神罰を下す。」
扉を蹴破って入って来た金髪の青年が叫ぶ。
こちらの青年も背はそこそこ高く、上半身を覆う鎧に、両手で構えている大ぶりの剣が特徴的だ。
美しい金色の髪と青く透き通る様な瞳の持ち主だ。
まだ幼さが残るくらいには若く感じる。
青年に続き4人がなだれ込んでくる。
長身で全身を鎧で覆い、大きな盾と剣を持った騎士のような男。
革製の鎧に白いローブを纏い、樹の様な杖を携えたプラチナブロンドの女。
スタイルも良く、雰囲気も落ち着いている。
全身を黒いローブで覆った者。
顔は見えないが袖から出ている手が若い女の様にも見える。
指も爪も長い。
女であれば長身だが、男であれば少し小柄に見える独特の体躯。
外見から性別も判断できず、得体の知れない不気味さが漂っていた。
革製の装備に銀色の胸当てをし、細剣を携え紅いローブに身を覆った金髪の森人の女。
大きな緑色の瞳が種族特有の美しさと気高さを放っている。
「ラグナール落ち着け。」
紅いローブの森人が言う。
「シャル、ラグナールこの者で間違いないんですね?」
騎士風の男が、白いローブの娘と金髪の青年に問う。
「えぇ、キースさん間違いないと思います。私が見た女神様のお告げに出てきた者です。」
白いローブのシャルが答える。
「へぇ、結構いい男じゃないですか。」
黒いローブの者が男とも女とも聞きとれる声で茶化す。
「ナル、冗談を言っている場合ではないぞ。」
紅いローブの森人が怒りあらわに叫ぶ。
「相変わらずセリスは頭が硬いなぁ。どうせ最後じゃないか、良くも悪くも。」
肩をすくめる黒いローブのナルを無視して、キースは首をかしげる。
「だけど、ちょっとおかしくないですか?」
「キース、どういうことだ?」
ラグナールと呼ばれた金髪の青年がキースに聞き返す。
「私は、シャルやラグナールの様に、女神様の天啓を受けたわけではないからそう感じるだけかもしれないですが。。。彼、人間じゃないですか?」
キースが答える。
「バカな、そんなはずがあるわけない。」
ラグナールとセリスが声を合わせて叫ぶ。
「女神様の天啓がおかしいとでも言うのか。」
ラグナールは更に声を荒げ叫ぶ。
「魔族や魔物も上位種であれば、人型に化けることも出来る。」
次いでセリスも叫ぶ。
「ぅ゙るさいっ。」
魔王と呼ばれた部屋の主が一喝する。
声と威圧に圧倒され驚いた5人は改めて身構える。
「貴様らは何者だ?なぜ私の城に入り込んだ?城に居た私の従者達はどうした?」
魔王と呼ばれた男は鋭く睨みつける。
「我々は西の第二大陸、聖皇国シェルヴィッツの女神サリサ様に仕える者です。」
シャルは自分達が神に仕える身分だと明かす。
「魔王、貴様を討伐し世界に平和を取り戻す。」
ラグナールが叫びながら剣先を魔王へと向けた。
「魔族に与する者など皆始末したわ。」
セリスもラグナールに同調し戦闘態勢に入る。
「そうか。」
魔王は悲しげな表情で言葉を吐く。
だが、次の瞬間魔王の怒りが露となる。
本を持った右手を素早く横に一閃すると同時に5人は衝撃波で吹き飛ばされた。
シャルとナルは残った扉を突き破り通路に吹き飛ばされ、ラグナール、セリスは入口近くの壁に激しく打ち当てられ床に倒れ込む。
キースもラグナール達とは反対の壁側に倒れ込み、打ちつけられた衝撃のせいで咳込んでいた。
まさに一瞬の出来事だった。
魔王は持っていた本をそっと本棚の方に押し出す動きを見せると、本は本棚へとスーッと戻って行った。
何かの魔術なのだろう。
「長耳よ、私の従者達の中には貴様と同じ種族の者も居たはずだが?」
魔王は森人であるセリスを見下しながら問いかける。
「くっ•••ダークエルフなどと、我が同胞を一緒にするな。」
床に這いつくばりながらも、セリスは魔王を睨み返す。
「そうか。」
一言呟き、魔王はセリスの方へと近づく。
「肌の色や、髪の色が違うとそれだけで敵なのか?」
改めてセリスに対して魔王が質問をする。
「あんな者達と、私達を一緒にしないでもらいたいな。」
立ち上がれないながらも強がり嘲笑うかの様に答えるセリス。
「そうか。」
それに対して魔王は悲しさと不満が混ざった表情でセリス見下しながら、ドカッと腹を思い切り蹴り上げる。
「グワッ」
次いで、もがき苦しむセリスの頭を床にメリ込む勢いで踏みつける。
セリスは動かなくなった。
次に入り口近くで倒れ込むラグナールに近づき、しゃがみ込み問う。
「この剣、聖剣か?」
「だったらなんだ。」
必死に立ち上がろうとするが、思わぬ魔王の不意打ちにより、まだ思うように身体が動かないのであろうラグナールは強がる。
強がるラグナールの髪の毛を掴み、魔王はラグナールの顔面を床に打ちつけ、質問する。
「この剣の号はなんと言う?」
右手で髪を掴み、顔を無理矢理上げる。
左手で剣を取り上げる。
「気安く触るな。」
次の瞬間また床に顔面を叩きつけられる。
「やめてください。」
キースが、からがら立ち上がり剣と盾を構え声を発していた。
魔王は立ち上がり、掴んでいたラグナールをセリスの方へと投げた。
「その剣は、聖剣グラム。
グラハム•グランダールというドワーフが遠い昔に作ったとされる物です。魔竜を討ったとも言われている剣です。どうです満足されましたか?」
キースは気を失ったラグナールに代わり魔王の質問に答える。
「そうか、あの鉱人の物か」
左手に握った剣を見つめボソッと言う。
「なぜ城に居た私の従者達も殺した?お前達と同じ種族の者も居たはずだが?」
「我々が皇国より魔王討伐の勅命を受けていたからですよ。」
「たったそれだけの理由でか?」
「魔王に与する者を生かしておく必要はないでしょう。」
「ならば、私に敵対する者を生かしておく価値はないな。」
魔王は怒りを露わに、聖剣グラムを構える。
キースは盾を構え素早く突進する。
しかし魔王は聖剣グラムで盾ごとキースを弾き飛ばす。
キースも素早く体勢を立て直そうとするが、
ガンッ、ギンッ。
とにぶい音を立てながら激しく剣を打ち込まれる。
勢いよく突進したものの防戦一方となるキース。
それに対して涼しい顔で剣を振るう魔王。
『なんですか、この男のこの力は』
優男にしか見えない魔王の膂力に圧倒される。
剣術など微塵も感じられない。
只々に相手を痛めつける為だけに振り回してる様にしか見えない。
キースはいよいよ跪き、両手で盾を支える様な状態になる。
魔王はお構いなしに剣を打ちつける。
ガンッガンッ
「ハァッ」
盾ごと圧し斬ろうと魔王が力を込め、打ち込もうとする。
キースも死を覚悟する。
「炎槍魔術」
2本の炎の槍が魔王に迫る。
が、後にのけぞり魔王は炎の槍を避ける。
そのまま直進した炎の槍は、部屋の大きな窓と共に周囲の壁をも消し飛ばす。
素早く立ち上がり、入り口側に背を向け、剣と盾を構えなおすキース。
その後には、先ほどまで倒れ込んでいたナルとシャルが、立ち上がっていた。
「ナルさん助かりました。」
キースが礼を言うと、
「ナイス時間稼ぎ。」
ナルが調子良さそうに答える。
「妖精たちの回復魔法」
シャルが魔法を唱える。
すると神々しく彼女は輝き始める。
次いでキース、ラグナール、セリスの3人が薄っすらと光り輝き3人の傷はみるみる治っていく。
ラグナール、セリスは悔しそうに立ち上がりだした。




