第96話 事件が解決しないからって犯人を死亡フラグで釣ろうとしてる探偵がウザすぎる
皆さんのまわりにも死亡フラグ立ててる人いると思うんですけど、もし狙ってフラグ立ててる人がいたら気をつけた方がいいですよ。死んじゃうかもとか思って心配してても結局ピンピンしてますからね。
こんなこと言うのは、この前、死亡フラグ乱立されてめちゃくちゃイライラしたからなんですよ……。
〜 〜 〜
なんかまわりでポコポコ人が死んでいくなーって思ったら、ずいぶん大きな事件に巻き込まれてたみたいでした。以前知り合った猪突探偵が絶望した顔してたんで気づきました。
「ボ、ボクの大切な人たちがひとりひとり殺されていく……。これは間違いなく、ボクを追い詰めるための犯人の卑劣な計画なんだ……!」
「へー」
「必ず……必ず犯人を捕まえてみせる……!」
こういう探偵の人ってなんかいつも物事の中心にいる自分に酔ってる気がします。まあ、大切な人が殺されてるなら、多少は酔わせておいてもいいかとか思って何気なく訊いたんです。
「大切な人ってどんな人なんですか?」
「この事件の犯人だと間違って指摘してしまったけど笑って許してくれた佐々岡さん、それに、ボクの推理をありがたがって聞いてくれた大塚さん、そして、ボクの探偵としての活躍を知っていた赤い服着てた人……みんなボクの大切な人です……」
「大した関係性じゃないでしょ、それ。赤の他人じゃん。最後の人に至っては名前すら出てきてないじゃん」
私の言葉を無視して猪突探偵が膝をつきます。
「くそぉ、ボクはボクが憎らしい……! こんな卑劣な犯人の見当すらつかないなんて……!」
言ってなかったんですけど、いま雨降ってんですよ。地面グチョグチョなの。悲劇に没頭するあまり汚れちゃってもいいみたいな空気出してんです。ドラマの観すぎだよ。まわりの人からの視線が恥ずかしくて、知り合いだと思われたくなかったんですけど、一応励ましときました。
「大丈夫ですよ。犯人が分からないのは猪突さんに犯人を見つける能力がなかったってだけですから」
「大切な人たちを奪われたせいで思考が鈍って……! くそぉ!」
ただ見当違いな推理してただけなのになんか死んだ人たちのせいにしてますよ、この男。探偵の風上にも置けませんよね。
「それに、なんか大切な人が狙われるとか言って頑なに警察に頼らなかったのも敗因だと思いますよ」
「探偵は孤独なのだ……!」
ダメだこりゃ。こいつ、自分の中の探偵像に縛られて手も足も出なくなってます。さっさと警察に連絡するかとか思ってたら、猪突探偵が急に立ち上がります。そのせいで泥がパンツに跳ねてきて汚れました。なんなの、こいつ。
イラついて猪突探偵を見たら、なんか優しい顔してんです。もう諦めたかなって思ってたら、こう言ってきました。
「この事件が解決したら、実家に顔を出そうと思う。小さい頃は親父が畳を作っている背中を見るのが好きだったんだ」
「実家、畳屋だったんですか。初耳です」
なんで急にそんなこと言い出したんだろうって思ってたら、猪突探偵が拳を握りしめてました。
「ボクの探偵人生の全てを懸けて犯人を捕まえてみせる」
「その力があればいいですけどね」
って思わず口挟んじゃいました。なんか陶酔した感じの猪突探偵が私を見てきます。
「おそらく、犯人はボクの周囲の人間をターゲットにしている。君は危険だから、ここに残るんだ。分かったね?」
「いや、殺されたの赤の他人でしょ。その間違った犯人像さっさと捨ててくださいよ」
それが推理のノイズだっつってんのに頑なに「犯人は自分を不幸にしようとしてる」とかほざき続けてたんですよ、この男。そしたら、猪突探偵がこっちを振り向きます。
「犯人を捕まえ、平穏な日々を取り戻せたら、鈴木さん、君にボクの想いを伝えようと思う」
急になんか色気づき出しました、こいつ。
「断るんでやめてください」
そしたら、猪突探偵が鼻で笑うんですよ。
「死亡フラグを立てて犯人を誘き出そうとしているだけだ。君に好意などないよ」
「ふざけんな」
よくよく考えたら、さっきから急になんか陶酔した感じになったと思ったら節操なく死亡フラグ立ててるだけでした、こいつ。
「じゃあ、実家が畳屋っていうのは?」
「口から出まかせに決まっているだろう」
「なんなんですか、畳屋って微妙にリアルなチョイスは……」
っていうか、推理が当たらないからって死亡フラグで犯人釣ろうとしてるって、どこからそんなクソみたいな発想してんだよ? とか思ってたら、猪突探偵が急に歩き回り出しました。そして、頭を掻きむしるんです。
「そうか……そういうことだったのか……!」
「いや、そんな真相に気づいたフリしなくていいから! どうせ何も分かってないんだから、つまらないことしてないで頭働かせろ!」
挙げ句の果てには、明後日の方向に、
「犯人分かっちゃったから、暴露しちゃおうかなー?」
とか叫び出してんです。
「そんなんで犯人がノコノコ出てくるわけないでしょ!」
ってツッコミ入れてたら、知らないおじさんが近づいてきました。
「な、なぜ私が犯人だと分かったんだ……!」
犯人でした。こんなアホみたいな手段で炙り出されてきただけあって、犯人のおじさんもグチョグチョの地面に膝ついてんです。だからドラマの観すぎなんだよ。
「完璧な計画だったはずなんだ……!」
おじさんが悔しがってます。
「完璧なら黙ってればよかったでしょ。死にたくなりませんか? こんなクソみたいな罠にかかって」
って訊いてみたんですけど、おじさんが猪突探偵と解決編を始めたんで帰ることにしました。バカ同士の共演なんて見てられないですからね。




