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ひとひらの花弁  作者: 櫻葉月咲
3.そうして私のこれからは
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19枚目 子を持つ同じ母として

 麗を送り届けてすぐのこと。

 二人は葵の家の帰路に着いていた。


 「それにしてもすごかったよね」


 ポツリと一華が言った。


 「まぁ……ね」


 苦笑しつつ、葵も肯定する。

 先ほど麗を家に送ったときと、母親がドアを開けたのは同時だったのだ。

 名を早希さきと言ったその人は、明るくほがらかな性格だった。



 ◆◆◆



『あら、葵ちゃん! 来てくれたのね!』

『は、はぁ……』


 パッと花が咲いたように笑う早希に、言葉は悪いが引いてしまったのは仕方ない。

 笑うと幼く見える顔立ちは、そこらの女子高生とあまり変わらない。

 葵の母よりも若いだろうことを、ありありと予想できた。


『麗ったら、お昼を食べたらすぐに出ていって。なかなか帰ってこないんだから……どこに行ってたの』


 スっと麗の目線までしゃがみ、問い掛けるそのさまは母親というよりも姉のようだ。

 その声音も叱るふうではなく、あくまでも諭すように優しい。


 (今朝も思ったけれど……もしかして親バカなのかしら)


 失礼なことを考えている自覚はあるが、思わずにはいられなかった。しかし、言葉にしていないからマシだろう。

 そんな早希を心配させまいとしてか、麗は麗で明るく言葉を発する。


『えっとね、葵ちゃんと学校終わったら会おうって約束してたんだ。ほら、大きい桜が見えるとこ! あそこだよ』

『……そう、良かったわね』


 とびきりの息子の笑顔に、本当に嬉しいというのを感じ取ったのだろう。

 早希はそれ以上のことを何も言わず、ポンポンと麗のまるい頭を撫でた。


『あ、じゃあ私たちはこれで』


 なごやかな親子のやり取りを最後まで見守ると、葵は一華とともに踵を返そうとした。


『葵ちゃん』

『はい?』


 声がした方を振り向くと、しゃがんだままの早希がにこにこと笑顔を向けていた。

 麗もこちらをじっと見ている。


『麗を送ってくれてありがとうね。良かったらまた会ってあげて』


 麗の肩に手を添えて微笑するその人は、紛れもなく『母親』の顔だ。心から息子を愛する、母の顔。


『はい!』


 考えるよりも早く、葵は肯定していた。

 その一歩後ろで終始黙っていた一華が、うるうると目を潤ませていた事を葵だけが知らない。



 ◆◆◆



 しばらく他愛ない話をして、やがて紺色の屋根が目立つ家が見えた。

 至って普通の一軒家の烏丸家が、今の葵にはどこかのお屋敷のように物々しい雰囲気がある。


 「はぁ……開けたくない」

 「もう、しっかりしてよ。葵の家なんだから」


 ずぅんと周りのオーラが暗くなるほど、今の葵の気分が沈んでいた。

 麗を送り届けたところから一転、地獄にでも行くかのような気分だ。


 「一華ぁ……」


 涙目になり、一華に助けてと目で訴える。

 そんな葵を安心させるかのように、ポンポンと頭を撫でて背中をさする。


 「細かい事は知らないけど、千秋くんなら大丈夫だって。ね、優しいし葵大好きじゃない。もう忘れてるかもしれないでしょ?」

 「うぅ……でも」


 なおも渋る葵に痺れを切らしてか、一華がドアノブに手を掛けようとしたところで唐突にドアが開いた。


 「はーい……ってあら、葵? 帰ってたの」


 中から出てきたその人は、葵の母──百合ゆりだ。

 目の下には薄く隈があり、それも相まってか同年代よりもやつれて見える。


 「あ、うん。……兄さん居る?」


 おずおずと問い掛ける葵を疑問に思ったのもつかの間、合点がいったようだ。


 「千秋? あの子ならさっきバイトから帰ってきたけど。まぁた喧嘩したの?」


 百合がゆるく腕を組む。心底呆れた、という時の癖だ。


 「ち、違うわよ。いや、違わないんだけど……でも」


 モゴモゴと口の中で呟く娘の姿に溜め息を吐き、家の中に入るよう急かす。


 「はぁ……とにかく中に入りなさい。──あ、いっちゃんどうする? 上がっていく?」


 一応、と言った意味で百合が問い掛ける。


 「ううん、百合ちゃんが居たら大丈夫かなって。もう帰ります」


 小さな頃からの付き合いだ、千秋と二人なら気まずさもあるが百合が居るのなら大丈夫だろう──そんな言葉を投げかけられた気がした。


 「い、一華ぁぁぁ!」


 一華に手を伸ばすも、本人はグッと親指を立てて「大丈夫だ」と言っている。


 「そんなぁ……」


 カツカツと微かな靴音を鳴らし、一華が帰っていく。

 葵はそんな幼なじみの姿が見えなくなるまで家の中へ入らなかった。

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