Ⅲ
「こんにちはー。よろしくお願いします。」
初めての体験をすることになった留佳は、誘ってきたマネージャーに聞きながら覚えるためについてまわった。やることはいっぱいありすぎて混乱しそうで大変だと彼女は思った。
「·····あれ、雷斗くんはどこですか?」
「·····はぁぁ?!またかよ、あいつ。おい、えーと、なんだっけ、マネージャー!探してこい。」
「あんたなんかに指図されたくないんだけど!言われなくてもさがしてきますよ!それと、猫かぶり解けてますよ?蒼也くん?」
数日のマネージャーをしてみていて、とても大変だ。蒼也くんはたまに撮影中に解けてる時がある。それも何故か、留佳が関わるときか、雷斗の関わる時だけだ。
「·····うるせぇよ。さっさと探してこい。よろしくね、新人さん?」
「はいはい。わかりました。」
専属の雷斗のマネージャーして分かったことは、雷斗は自由気ままで、ちょっと時間があくと不意に居なくなる。それを今までは、1人のマネージャーが2人をみていたとなるととても大変だ。居なくなった、雷斗を探しに出るとこのスタジオの中で迷いそうだ。広くて、これは当てもなく探したら自分が迷子になると踏んだ、留佳は雷斗の行きそうな所を探った。すると思った通り、留佳の感は正しかったようで、
「·····雷斗くん。」
「ん?·····あぁ、留佳 どうした?」
「·····どうしたじゃないよ!撮影。」
雷斗は、何故か呑気で、留佳のお迎えに納得すると、留佳をそこでただ抱きしめて、
「·····よし、行こう。」
「今のは何?!絶対へんな誤解うけるよ!?あそこにパパラッチいるじゃん!」
「ぁー。·····切り替えだよ切り替え。そんなのも分からねぇのかよ、前のマネージャーにもいつもしたしな、バカなのか?お前。新人マネージャーさん?行こうぜ。」
パパラッチと言ったからか、それとも、切り替えの要因なのかどっちかはわからないが、雷斗の口調が荒々しくなった。どっちにしたってムカつく言い方だ。いつもの優しい雷斗とは別人完全に切り替わったアイドルの雷斗のお出ましだ。
「·····留佳ちゃん。すっかりマネージャーじゃない?私より早いわよ覚えるの。」
「そんなことないです。柚木さんに比べたらまだまだです。」
「あら、そうでも無いわよ?結構助かってるんだから。あの子らは口に出さないだけで。」
マネージャーの、柚木さんに認められるとはかなり嬉しいものだ。
柚木さんと話していると、なんだか見覚えのある人達が、スタジオに入ってきた。
「·····あれれー?柚木ちゃんその子誰?はじめましてーWinkstarの筒井暖生ですー。お名前は?」
「··········Wink star·····あぁ、雷斗達の先輩グループの。初めまして。私は新しく雷斗専属?のマネージャーになりました、五十嵐といいます。筒井さんそちらの2人は誰ですか?」
「····ハハハ!!柚木ちゃん、この子何?まじ面白い!筒井さんってw この2人は俺と同じグループの甘津敬介と七海葉だよ。」
アイドルなんて興味のない私は当然知らない。名前聞いたからってわかるわけでもない。それれでも、雷斗のマネージャーとして、先輩グループのことは知っておくべきだろう。
「ふふっ·····そうでしょ。····そうだ、、留佳ちゃん。暖生くんには気をつけなよ?女好きだから。」
「·····そうだぞ。暖生は女の子が好きでアイドルになったんだから。ちやほやされたくて。」
「·····わかりました。覚えておきます。」
先輩達とお話している間に雷斗の撮影も終わり、マネージャーの私は一緒に楽屋に戻った。先に戻っていた相方は、性格が悪いやつに戻っており、柚木さんをこき使おうとしている。
一方、雷斗はと言うと、楽屋に戻ってきた瞬間から顔も穏やかになり、口調も優しく本来の優しい雷斗に戻った。
「·····なぁ、留佳さ、暖生さんと話してたよな?何話してたの?」
「自己紹介しただけだよ。」
「あぁ、それで暖生さん達が笑ってたのか。留佳アイドルなんて興味無いから」
ニコニコとしていていかにも嬉しそうな顔で「そっかそっか」とか言ってルンルン気分の彼。相方とマネージャーはただならぬ思いがあることに気がついていた。雷斗が自分ではまだそれに気がついていないことも。
「·····留佳ちゃん。ちょっといい?」
「·····はい。」
柚木さんに呼ばれ2人から離れて楽屋を離れると、彼女が何やら真剣な顔で、重たそうな口を開いた。
「·····留佳ちゃん。たぶん雷斗はあなたが好きだと思うわ。でも、彼はそれに気がついてない。だからあなたにお願いがある。」
「·····はい。何となく言いたいことは分かります。気がついてない状態であのベタベタ感が、心配で危ないということですよね?」
「·····そうよ、だからさ、上手くすり抜けるようにしてくれる?今が1番大事な時期なの。これでなにか問題おきたらタダじゃ済まないわ。」
まだまだ新米の留佳だから、総合的なマネージャーの彼女に言われたらそうするしかない。けど、さっきの雷斗の態度は意外にも平気ではと思う。
「はい。もちろん私も気をつけますが、彼も一応場所を弁えていると思います。さっき、嘘言ったんです。抱きしめてきたのでパパラッチいると。そしたら離れて直ぐに彼は俺様な雷斗で、切り替えだよばーか。って言ったんです。彼なりに切り抜ける方法見たいです。」
先程の出来事を説明すると柚木さんは納得したように頷いた。それから彼女はそっと口を開いた。
「·····そっかーそれはわかってるのかな?あいつ。でもわかったありがとう。あなたも気をつけてね?」
「わかりました、気をつけます。」
その後雷斗にも忠告されたらしく、忠告通り楽屋や事務所など明らかに週刊誌などの記者がいなそうな所では、甘えてくるような優しい雷斗だが、外に出ればアイドル様、雷斗様に戻っていた。
甘えの雷斗は留佳が好きなのがただ漏れていて、相方蒼弥や、マネージャーの柚木さんも呆れるくらい。それでも、切り替えたらそんな素振りを見せない彼の凄さを見ているので何も言うことがない。
「るーかー。終わったよー。」
「·····終わってない。これからまだ撮影が残ってる。」
「····チッ·····はいはい。」
たまに素がでて甘えたがるようだが、留佳が突き放せばスイッチが押されるようで雷斗様に戻るようだ。
留佳も留佳でとても仕事が出来る。彼女の本業は学生だと言うことを忘れてしまうくらい、ほぼ毎日来てくれる、学校後すぐだったり、休みの日は1日来たりもう、毎日いて当たり前のように、仕事をしているので、勘違いしそうになる程だ。
「·····あと、ダンスや歌のレッスンもある。」
「·····留佳、お前すっかりマネージャーぽくなったな。」
「私のことはいいので、仕事して貰えます?次がつまっています。」
テキパキと仕事こなす留佳に対し、ダラダラとした雰囲気でこなしていく。それは雷斗様と言うキャラ作りの為であろう。
月日は流れ留佳は卒業間近になり、学校生活を振り返ってると雷斗のおかげで充実感が増したと気がついた。雷斗のマネージャーとして仕事しつつ自分の学校へも行っている中で忙しいし大変だが、友人達がアイドルの話をしているのを聞くのは前よりも楽しくなった。とくにSwing StarSの話をしている時は楽しい。言わないがこんなこと今度するのになとか、心の中ではいっぱい考えるのが好きで楽しい。
前よりも雷斗に出会ったおかげで充実感の増した学校もその後も、休みの日も。毎日が楽しくて。留佳はその日その日を楽しみ、学校を卒業後はそのままマネージャーとしての日々を送る。
数年後。気がつけばSwingStarSは人気アイドルに成長し、先輩のWinkSTARと肩を並べトップを走り続けている。前よりも忙しくてテレビに引っ張りだこで。マネージャーも毎日忙しい。何故か専属のマネージャーが家政婦のようになっているのは気のせいか。
「雷斗、いい加減起きて。早く行くよ、あと5分以内で出ないと遅刻。」
「·····留佳ちゃん。もう少し寝かせて·····。」
「ダメって言ってるでしょ!今日から、新しいドラマの撮影でしょ?!遅刻したらダメだって!」
雷斗は寝起きが悪い。中々起きてくれず遅刻したこともある。学生時代は何度も電話で起こしたこともあるが、その時も中々起きてくれず苦労したが、今も苦労する。
何とか起こして車に乗せて送り届け、撮影の終わる頃にまたお迎え。その間にマネージャーの仕事と言うよりも家政婦として働いた。なんでかそれも仕事として含まれるようになり、掃除から洗濯にご飯とかとにかく毎日それで。けれど、それも楽しいもので。ずっとそれが続かないかなと思う。
ふと考えている間に迎えに行く時間になっていた。迎えに行くとまだ撮影は続いているようで車で待ってようと、背もたれを倒して横になっていると、眠ってしまった。ふと目を覚ますと車の中だが、車は動いていて前を見ればハンドルはないし、ガラスしか見えないし、何かが身体にかかっていた。ふとそこで自分が座っているのが助手席なのに気がつく。運転席の方へ目を向けると雷斗が真剣に運転していた。
「·····あ、留佳。起きた?」
見つめているのにバレてしまい話しかけられた。
「·····うん。ごめん。」
「大丈夫だよ、留佳も疲れてたんだろ。·····もうすぐ着く。」
「·····うん。ありがとう、」
本当はマネージャーとしては変わろうとしたのに、彼はそれを許す気配はない。問答無用で休まされる。彼がかけたブランケットこれがそれを物語ってる。
家に着くと駐車場にすらっと車を止めて、出る時も彼に抱えられて出ていく。最初はされるがままにしていたが、ふと気がつく。
「ねぇ!これはさすがにダメだって!週刊誌とかに撮られる!」
「·····あぁ、そうだな。」
「·····ちょっと?なんでそんな冷静なのよ!?」
あまりにも締まりのない返事と抱える腕の力はこもるばかりで、一向に話す気配はない。このマンションは芸能人が結構住んでいるので、スクープを撮ろうとカメラを構えた人が見えないようにと、隠れてたりする。
「····別に冷静では無いよ。·····けど、撮られてもいいかなと。留佳はマネージャーだろ。それに俺の癒し。」
「マネージャーと言うだけでしょ。撮られて事実じゃないこと書かれたらどうするつもりよ?」
「·····公表する。って言うか、もう載っちゃうかも。俺、車で待ってる留佳が可愛くて、ついさ助手席に運んだ後キスしちゃったんだよね〜。それをちょうどよく撮られてたし。」
衝撃的な発言を先程から発する彼を前に呆然と言葉出ない。やっとの思いで出たのは「はいぃぃ?」と呆れた言葉だった。
「·····なぁ、俺、出会った時からお前のことが好きなんだけど。マネージャーとしてじゃなくて俺の傍にずっといて欲しいんだけど。」
「·····え、なっ、なんで·····。」
「なんでって。え?俺のずっと片思いじゃないだろ?なぁ、ダメ?俺はさお前がそばにいて欲しいんだよ。それはマネージャーとしてじゃないんだよ。マネージャーのままでいいけど、それ以外にずっと俺は一緒にいて欲しい。」
いきなり告白してくる彼は何を思っているのかやけくそなのか。
「·····何言ってんの?馬鹿じゃないの?とりあえず下ろして。そして私はマネージャー。あなたの彼女でもなんでもない。」
「はいはい。とりあえず中入ろうかマネージャーさん。」
怒っている留佳に対して、雷斗は楽しそうで。どうしたらいいか考えると言う頭は無いようで、楽しそうな彼はさっきまで言っていたことはいたって本気で言っていた。
次の日、2人が事務所へ行くと社長と柚木さん、それから蒼也が待ち構えていた。留佳は直ぐになんなのか理解してため息を吐く。
「·····留佳ちゃんはなんの事かわかった見たいね?」
「·····はい。」
「とりあえず、留佳ちゃん。これはどういうこと?」
見せられたものは週刊誌だった。写っていたのは、雷斗が「車でキスしちゃったんだよね」と話していたあれであろう。白昼堂々となんて書かれている。
「·····これは雷斗に経緯を聞いてください。私が寝てるところを雷斗が寝込み襲ってるところだと。」
「·····なる程?寝込みね·····で、雷斗どういうことかな?」
「·····いや、寝顔があまりにも可愛くて。ついしちゃったんだよね〜。撮られたことに直ぐに気がついたけど、訂正しなくてもいいかなと。俺、半端な気持ちでしてないし。俺は留佳と一緒にずっといたいの。」
まためちゃくちゃだ。軽い感じで言うがとても重大である。わかってなさそうな口ぶりで言う彼に怒号があちこちから聞こえる。相方、マネージャー、社長と。雷斗に話しても説得力ないので留佳に聞いてくる。
「·····はぁー。留佳ちゃんの気持ちは?」
「·····正直に言うと、雷斗の言っていることも、分かってる。私も一緒にいたいと思う。けどまだ、何も話してないのに否定しなかった雷斗がおかしい。」
「·····そうね。雷斗がわかってたなら否定すべきだった。けど、こうして出てしまったからには公表する。留佳ちゃんも同じような気持ちなら事実だと。」
そうして、留佳にも同意の上公表することになった。もちろん留佳の名前は伏せているが、年下のマネージャーと公表された。報道内容に間違えはなく事実だと。
それが引き金か、雷斗のファンは若干減ったようだが、人気に火がついて以前よりも売れ出した。
それからも大人気のアイドルとして君臨し続け、留佳もそのままマネージャーとして傍にいるし、ずっと隣で夫婦仲良く過ごし続けている。