第二部/あい 第一章/能力と可能性
ここからはヒロイン視点。どうぞ♪
あい
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決して特別などではなくて
ただ、いつもの
あふれんばかりの愛情を
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〜能力と可能性〜
わたしの力、あなたに捧ぐ。
正直、ものすごく戸惑っていた。
いったい、どうすればいいのか、なにを言えばいいのか、まったくわからなかった。
だからしばらくバカのように目を見開き、口を開け、凝視してしまった。
その少年を。
彼の名前は『久坂保志』。
たぶん藍と同い年くらいだろう。
いつも気だるさを背負い、お人よしそうな顔をする、そんな変わった人物に見えた。
少なくとも、藍にはそう見えた。
(この人は、人のために生きているんだ・・・・・・)
保志と目が合った瞬間、藍はそう感じた。
この人は自分を犠牲にしてでも、人のために生きるんだ、と。
そんな人間、はたしているのだろうか?
自問自答する。
彼を一目でそのように捉えた自分に問いただす。
答えは「いるかもしれない」だ。
だからすぐに藍は保志に興味をもった。
この人を知りたいと思った。
どうしてそんな顔をしているのか。
どうしてそんな目をするのか。
どうしてそんな肌の色をしているのか。
どうしてその高校に通っているのか。
家族構成は?
友達はだれ?
好きな人は?
好きなものは?
得意なものは?
ねえ、なぜ、どうして?
どうしてあなたは自分が雨がきらいなのかわからないの?
藍は幼いころから不思議な力を持っていた。
霊感のような、超能力のような、直感的なものだ。
だが、それを使おうとか、どうしようとか考えはしない。
無理に使用したっていいことはないと思えた。
直感ですべて悟ってしまうこともあるから。
だから、わかってしまった。
保志は人のために生きる人だと。
そして、今彼自身は気がついていないと。
自分が、生きようとしていないことに。
いや、正しくは「生きる」を「なんとなく」ととらえているのだ。
そういう人間はたくさんいる。
なんとなく時間をすごし、なんとなく笑い、なんとなく生きる。
そういう時間も必要かもしれない。
しかし、それに浸りすぎると、見失うのだ。
なんで生きているんだろう?
なんにも楽しいことなんてない。
つらい、苦しい、憎い、悲しい、寂しい、いやだ、いやだ、いやだ!
そして、あとはどうでもよくなるのだ。
(人間は微温湯が好きなのかもしれない・・・・・・そうやって知らぬ間におぼれていくんだ)
時間はみんなに平等。
だれかが言った。
はたして本当だろうか、と藍は思う。
たとえば、今にも死にそうな人と、これから何十年も生きれるくらいぴんぴんしている人とでは、残り時間がちがいすぎるのではないだろうか?
生きてきた時間。
残された猶予の時間。
つらい時間。
安らかな時間。
すべて、みんな等しいと、平等であるといえるのだろうか?
(答えは否だ・・・・・・)
藍は暗い気持ちで思った。
結局、自分たちに平等なものなんてなにもないではないか。
富も容姿も愛情も時間もすべて、均等に分配されるわけではないのだ。
努力したって報われないときがある。
なにもせずにすばらしい地位につけるときがある。
だから、人は争うのだろうか。
嫉妬しあうのだろうか。
自分がだれよりも高くありたいがために・・・・・・。
藍は深くため息をついた。
人に幻滅することはいいことだと思えない。
そんな自分を憎くも思ってしまうから。
結局、えらそうに頭のなかで言葉を並べて批評したって、自分も同じ類なのだ。
藍も人間なのだ。
自分だけが特別というわけではないのだ。
「調子にのるなよ、バカ藍」
藍はぽつりと自分に言った。
ときどきそうして自分と会話をする。
すると、思った以上にすっきりするのだ。
悩みを解決できるわけでも、答えが見つかるわけでもない。
逆に、自分を冷ややかな目で見てしまうこともある。
だが、客観的に自分を見つめることで、見えてくることだってある。
そう思うのだ。
藍はコンビニを出て、のろのろと歩き出した。
保志に興味がある。
彼のような人間には出会ったことがなかった。
なかなかおもしろそうだと思った。
『運命』という言葉は、誤解を招くかもしれない。
しかし、たしかに藍はそれを感じた。
「わたしが彼を救う。そして、彼がわたしを救ってくれる」
そう感じた。
藍も、保志と同様、生きる意味をどうでもよく感じてきたのだから。
「クサカ、ホシ」
藍は彼の名前を口にしてみた。
なにかの魔法の呪文みたいだな、なんて頭の端で考えながら、何度も何度も言ってみた。
(また、どこかで会えるといいなぁ・・・・・・)
藍はふっと笑みを広げて空を見上げた。
虹が出ていた。
赤、青、オレンジ、黄色、緑、紫、黒、白、ピンク、水色、藍色、茶色、浅黄色、桜色、黄土色、紺色・・・・・・。
きっと、何色も何色も混ざり合っている。
だけれど、そのなかに強い色があって、だからその色にしか目がいかないのだ。
赤と黄色の間にはオレンジやピンクが潜んでいるんだ。
きっと、そうだ。
虹はそうやって美しく輝いているのだ。
(だから――わたしたち自身も、そうやって輝けるのかもしれない・・・・・・)
藍は歩を止めた。
そして、いつか保志がしたように、水たまりを踏み散らしながらコンビニめがけて走り出した。
まだ、彼はいるかもしれない。
保志に会いたい。
そう思えた。
そして、言いたいことがあった。
彼の顔を見て、まっすぐに見て、言いたいことがあった。
そうしたら、保志はどんな顔をするんだろう?
藍は踊りだしたいような、明るい気持ちで軽快に走った。
コンビニが見えてきた。
「いらっしゃいませー」
(保志!!!)
きょろきょろと見回すが、彼らしき影は見当たらない。
藍はコンビニを出ると、右へ曲がって走り出した。
それから、細い道を抜け、木陰になっている小さなベンチを見つけた。
そこに、保志はいた。
大きな足がだるくたれていた。
背中をもたせ、うとうととしていた。
気持ちよさそうな顔で、今にも寝てしまいそうだった。
藍は、ハッっと息を出し、小さく吸い込み、声をかけた。
走ってきたせいで、苦しかった。
喉が渇く。
「保志、寝ちゃだめ」
彼女の声で、保志はびくっと身体をこわばらせ、そして目を見開いた。
「あ、どうも」
「いくら人気がないからって、そんなところで寝ないほうがいいですよ」
藍は軽く笑うと、彼の隣に腰掛けた。
きっと今、保志には先ほどとちがう自分が見えているんだろうな、と藍は思った。
今、藍はこれまでにないくらい、わくわくした、生き生きした顔をしていたから。
藍自身も、自分らしくないと思いながら、こんな自分も自分だと認めたり、矛盾している気持ちが頭をもたげてきた。
普段の藍なら、絶対と言っていいほど、こんな思い切った行動はしないのだ。
「なにかしたの?」
保志が訝しげに尋ねてきた。
藍はにっこりと笑い、自慢をするように言った。
「虹を見たんだよ」
虹を見たの。
だからね、わたし、あなたの居場所がすぐにわかったの。
このチカラを可能性に変えてみせるよ。




