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第二部/あい 第一章/能力と可能性

ここからはヒロイン視点。どうぞ♪

あい

――――――――――――


決して特別などではなくて


ただ、いつもの


あふれんばかりの愛情を









******




〜能力と可能性〜





わたしの力、あなたに捧ぐ。








正直、ものすごく戸惑っていた。

いったい、どうすればいいのか、なにを言えばいいのか、まったくわからなかった。

だからしばらくバカのように目を見開き、口を開け、凝視してしまった。


その少年を。



彼の名前は『久坂保志』。

たぶん藍と同い年くらいだろう。

いつも気だるさを背負い、お人よしそうな顔をする、そんな変わった人物に見えた。

少なくとも、藍にはそう見えた。



(この人は、人のために生きているんだ・・・・・・)

保志と目が合った瞬間、藍はそう感じた。

この人は自分を犠牲にしてでも、人のために生きるんだ、と。

そんな人間、はたしているのだろうか?


自問自答する。

彼を一目でそのように捉えた自分に問いただす。

答えは「いるかもしれない」だ。

だからすぐに藍は保志に興味をもった。


この人を知りたいと思った。

どうしてそんな顔をしているのか。

どうしてそんな目をするのか。

どうしてそんな肌の色をしているのか。

どうしてその高校に通っているのか。


家族構成は?

友達はだれ?

好きな人は?

好きなものは?

得意なものは?


ねえ、なぜ、どうして?



どうしてあなたは自分が雨がきらいなのかわからないの?





藍は幼いころから不思議な力を持っていた。

霊感のような、超能力のような、直感的なものだ。

だが、それを使おうとか、どうしようとか考えはしない。

無理に使用したっていいことはないと思えた。

直感ですべて悟ってしまうこともあるから。

だから、わかってしまった。

保志は人のために生きる人だと。



そして、今彼自身は気がついていないと。

自分が、生きようとしていないことに。

いや、正しくは「生きる」を「なんとなく」ととらえているのだ。

そういう人間はたくさんいる。

なんとなく時間をすごし、なんとなく笑い、なんとなく生きる。

そういう時間も必要かもしれない。

しかし、それに浸りすぎると、見失うのだ。



なんで生きているんだろう?

なんにも楽しいことなんてない。


つらい、苦しい、憎い、悲しい、寂しい、いやだ、いやだ、いやだ!

そして、あとはどうでもよくなるのだ。



(人間は微温湯が好きなのかもしれない・・・・・・そうやって知らぬ間におぼれていくんだ)


時間はみんなに平等。

だれかが言った。

はたして本当だろうか、と藍は思う。


たとえば、今にも死にそうな人と、これから何十年も生きれるくらいぴんぴんしている人とでは、残り時間がちがいすぎるのではないだろうか?


生きてきた時間。

残された猶予の時間。

つらい時間。

安らかな時間。


すべて、みんな等しいと、平等であるといえるのだろうか?



(答えは否だ・・・・・・)

藍は暗い気持ちで思った。

結局、自分たちに平等なものなんてなにもないではないか。

富も容姿も愛情も時間もすべて、均等に分配されるわけではないのだ。

努力したって報われないときがある。

なにもせずにすばらしい地位につけるときがある。


だから、人は争うのだろうか。

嫉妬しあうのだろうか。

自分がだれよりも高くありたいがために・・・・・・。




藍は深くため息をついた。

人に幻滅することはいいことだと思えない。

そんな自分を憎くも思ってしまうから。

結局、えらそうに頭のなかで言葉を並べて批評したって、自分も同じ類なのだ。

藍も人間なのだ。

自分だけが特別というわけではないのだ。


「調子にのるなよ、バカ藍」

藍はぽつりと自分に言った。

ときどきそうして自分と会話をする。

すると、思った以上にすっきりするのだ。

悩みを解決できるわけでも、答えが見つかるわけでもない。

逆に、自分を冷ややかな目で見てしまうこともある。

だが、客観的に自分を見つめることで、見えてくることだってある。

そう思うのだ。




藍はコンビニを出て、のろのろと歩き出した。

保志に興味がある。

彼のような人間には出会ったことがなかった。

なかなかおもしろそうだと思った。

『運命』という言葉は、誤解を招くかもしれない。

しかし、たしかに藍はそれを感じた。



「わたしが彼を救う。そして、彼がわたしを救ってくれる」

そう感じた。

藍も、保志と同様、生きる意味をどうでもよく感じてきたのだから。

「クサカ、ホシ」

藍は彼の名前を口にしてみた。

なにかの魔法の呪文みたいだな、なんて頭の端で考えながら、何度も何度も言ってみた。


(また、どこかで会えるといいなぁ・・・・・・)

藍はふっと笑みを広げて空を見上げた。


虹が出ていた。


赤、青、オレンジ、黄色、緑、紫、黒、白、ピンク、水色、藍色、茶色、浅黄色、桜色、黄土色、紺色・・・・・・。

きっと、何色も何色も混ざり合っている。

だけれど、そのなかに強い色があって、だからその色にしか目がいかないのだ。

赤と黄色の間にはオレンジやピンクが潜んでいるんだ。

きっと、そうだ。

虹はそうやって美しく輝いているのだ。


(だから――わたしたち自身も、そうやって輝けるのかもしれない・・・・・・)



藍は歩を止めた。

そして、いつか保志がしたように、水たまりを踏み散らしながらコンビニめがけて走り出した。

まだ、彼はいるかもしれない。

保志に会いたい。

そう思えた。

そして、言いたいことがあった。

彼の顔を見て、まっすぐに見て、言いたいことがあった。

そうしたら、保志はどんな顔をするんだろう?


藍は踊りだしたいような、明るい気持ちで軽快に走った。

コンビニが見えてきた。



「いらっしゃいませー」

(保志!!!)

きょろきょろと見回すが、彼らしき影は見当たらない。

藍はコンビニを出ると、右へ曲がって走り出した。

それから、細い道を抜け、木陰になっている小さなベンチを見つけた。

そこに、保志はいた。



大きな足がだるくたれていた。

背中をもたせ、うとうととしていた。

気持ちよさそうな顔で、今にも寝てしまいそうだった。

藍は、ハッっと息を出し、小さく吸い込み、声をかけた。

走ってきたせいで、苦しかった。

喉が渇く。



「保志、寝ちゃだめ」

彼女の声で、保志はびくっと身体をこわばらせ、そして目を見開いた。

「あ、どうも」

「いくら人気がないからって、そんなところで寝ないほうがいいですよ」

藍は軽く笑うと、彼の隣に腰掛けた。


きっと今、保志には先ほどとちがう自分が見えているんだろうな、と藍は思った。

今、藍はこれまでにないくらい、わくわくした、生き生きした顔をしていたから。

藍自身も、自分らしくないと思いながら、こんな自分も自分だと認めたり、矛盾している気持ちが頭をもたげてきた。

普段の藍なら、絶対と言っていいほど、こんな思い切った行動はしないのだ。



「なにかしたの?」

保志が訝しげに尋ねてきた。

藍はにっこりと笑い、自慢をするように言った。


「虹を見たんだよ」


虹を見たの。

だからね、わたし、あなたの居場所がすぐにわかったの。




このチカラを可能性に変えてみせるよ。



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