表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

第三章/少女




〜少女〜




強い、少女。






嵩太はお調子者だ。

保志は強くそう思った。

保志が嵩太に千佳子のアドレスを渡すと、彼は思ったとおりの反応をした。

一瞬こわばった顔をして、それからゆるんだ表情になり、やがてニカっと笑った。



「ありがとう!おまえは一生おれさまの親友さ!」

そう言った嵩太の瞳には、かすかに涙さえ浮かんでいた。

それからというもの、嵩太はいつも以上に部活に燃え、見るからに上機嫌になった。

ほっとしたような、やれやれといったような感じで、保志は坊主頭を見送った。

どうやら、今日も遅くまで野球に明け暮れるらしい。


いつもいつも、甲子園、甲子園と騒いでいた。

小学生のような彼に、いつのまにか世話を焼いてしまう。

おせっかいかもな、なんて思ってはみたものの、なかなか開放されることもない。



(心配なんだ・・・・・・保護者以上に)

そんな自分をばかばかしくも、愛しくも思ってしまう。

だれかのためになにかをやる自分――それはそれで悪くないように思われた。




保志は、大きく息を吸い込み、夕日のなかに駆けだした。

しばらく歩いていると、ケータイが唸った。

めんどくさそうにポケットから取り出し、見てみる。


メールが届いていた。

嵩太からだ。


『おまえ!あの人の名前、教えてくれてねえぞ!』


もちろん、あの人とは『片倉千佳子』のことであることは一目瞭然だ。

(あ、そっか。教えてなかったんだ)

ひとり苦笑しながら、保志は返信した。


『片倉千佳子。』


それだけを送った。

これだけで、嵩太は大満足だろうから。

あの坊主頭の表情など、容易に想像できた。

顔がゆるみっぱなしであろう。

そんな嵩太を思い浮かべ、再度苦笑し、保志はまた歩きだす。



ふと、コンビニが目に止まった。

なんとなく、足を運んでみた。




「いらっしゃいませー」

茶色い髪の男性が規則的に言う。

昨日とはちがう定員である。

保志はなにも考えなしに来たので、すこし気まずさを覚えたが、飲み物を買うことに決めた。

ペットボトルの棚に足を向ける。



「あ」

そこで、目が合った。

目を精一杯大きく開き、口を開け、まさに『驚いた』という顔をした少女と。

少し小柄で、髪は無造作にとかしたような、悪くいえばボサボサだった。

ただ、その見開かれた眼が、ただの『目』というだけでは物足りないように思われた。

それではあまりに不似合いなのだ。



(キラキラしている・・・・・・)

自分でも驚くほど目が離せなかった。

強い眼だった。

というよりは、もしかすれば保志自身にはない、なにか強い念だったのかもしれない。




「あ、えぇ・・・・・・と。この間はすいませんでした」

少女は唐突に視線をはずし、ぺこりと頭を下げた。

そこでやっと、保志は彼女に見覚えがあることに気がついた。

コンビニでぶつかった少女だった。

「いえ、おれのほうこそ、突っ立ってたから」

あはは、と笑い、少女は顔を上げた。

「雨の日なのに傘忘れて、かなり走ってましたから、わたし。前とか見えませんでしたよ」

そう言いながら、長く伸びた前髪を横にやり、笑窪をつくった。


(嵩太みたいだ)

保志は少女の笑窪を見てそう思い、ひとり苦笑した。

「よくコンビニ来るのですか?」

少女は楽しそうに聞いてくるので、保志も答える。

無邪気さが心地よかった。


「うーん。普段はここにはあんまり来ないな。今日はなんとなく、かな」

「わたしもですよ。今日は千佳子いないから、別に来る用事なんてなかったのに」

「千佳子って、ここで働いている千佳子さん?」

そうだよ、と彼女は言って、ふふっと笑った。

「メアド聞いてましたよね。わたし、あの場にいましたよ――あぁ、もちろん、あなたは友達のために聞いたんでしょ?」

「まあ、はい」

(見られてたのか・・・・・・)

急に顔が熱くなった。

あの場をだれかに見られ、聞かれていたなんて、考えただけで恥ずかしかった。



「あ、わたしそろそろ行きますね」

「あ、はい」



ボサボサの髪をゆらし、少女は歩きだす。

ドアに手をかけたところで、彼女は振り向いた。



「わたし、築屋藍チクヤアイです」


チクヤ――アイ・・・・・・。


「おれ、久坂保志!」

はっとして、急いで保志は名乗った。

藍はにこっと笑顔で、大きく手をふった。

「またね、ホシ!」




彼女の姿が、雨上がりの太陽の光のなかに消えていった。

それがとても印象的で。

強く、深く、保志の目に焼きついた。




もう、離れなかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ