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残骸の翡翠  作者: こだわり竹刀
霊己武紀(クロスアーツ)編
22/28

No22 隙間内の戦い

 マンムーナを蹂躙した『ウリア』の軍人達は、勝利の祝宴を開いていた。王子主催のその祝宴は戦場であるはずの場を貴族のパーティーのように華やかな光を見せる。煌びやかな光からは楽し気な声が響き、つい一刻前まで人を殺していた軍人とは思えない。


「派手にやっていますね」


 敵陣地から4キロメートル離れたガレキの隙間から、ツバトはどこかの家の食糧庫にあったパンを片手に監視していた。天幕で遮られているため、彼らの姿も数も判らないが、その声から浮きだってるのが取れる。


「だからといって僕がどうすることもできませんがね……」


 トホホと言った表情でツバトはガレキの奥へと戻る。ガレキの奥には壊れた小型プロペラ機が人一人を生活できるスペースを作っており、ツバトは操縦席に置いておいたぶどうのワインを口にする。本当は水などがよかったのだが、酒しかなかったためこれで我慢することにした。落伍者という悪環境の立場もかけ、大事に取って置いた者にすれば文句の言いたくなる始末である。


「食料はあと、三日。それまでに彼らが撤退すればいいんですけど」


 『ウリア』の目的が判らないツバトは、彼らの情報を少しでも欲しかった。もし、このマンムーナに古代武器や黄金が眠っていて、それを目的に蹂躙をしたとすれば、ガレキに身を隠しているツバトは間違いなく彼らに捕まる。


 彼らとも戦うという選択肢もない。なぜなら、ツバトは自分の霊己武記クロスアーツを現出できないからだ。知り合いの傭兵崩れの話によれば、霊己武記クロスアーツはいわば才能であり、現出できるかどうかも才能という前提がなければ無意味。よしんば現出できたとしても、それを扱えるまで3年はかかる。


 軍人全てが霊己武記クロスアーツを使えるとは思わないが、戦うにしたは三年という時間の溝は埋まらず、何より数が違う。


「……かと言っても逃げる当てがありませんし」


 このマンムーナ以外の町、国の情報を知らないツバトが外へ出たところで、うまくいかないのは目に見えていた。道半ばくたばるか、奴隷にされ売り飛ばされるかだろう。


「…………」


 考えようにも、自分が無知なことは判っている。それでもツバトは妙案が出るようにと、頭に血を送ろうと逆立ちする。

 が、小型プロペラ機の高さは低く、足が天井にガツンとあたる。体勢を崩したツバトはそのまま崩れるようにして倒れる。ガシャアンと大きな音が小型機の中を木霊する。


「痛い……。うん?」


 衝撃によってパラパラと何かが落ちた。それは『トルヘッド』と書かれた日記を始め、小型プロペラ機の操縦方法や各部分のパーツの説明などが書かれた紙であった。


「なんだろう、マニュアルかな」


 紙の何枚かを読み続けていく内に、紙に書かれていたページ数から何枚か抜け落ちていることが判り、ツバトは小型機の中を探し始める。全部は揃わないでも、何枚かは見つかった。日記にも紙を類似したものが書かれており、紙よりも詳細な内容であった。


 ツバトは紙の束、そして日記を読み続けていくうちに、このマンムーナのことについて、いくつか判ったことがある。100年前まで、このマンムーナは軍事国であったが、霊己武器クロスアーツの所持者が年々に連れ生まれていき、剣や盾、槍や斧といった武器の需要が次第に無くなっていった。なぜなら、全兵に武器を持たせるよりも数人の霊己武記クロスアーツ所持者に戦わせ、他の兵はサポートに回す方が戦術においてもコストにおいても得策だからである。


 マンムーナは需要を回復させるために、対霊己武記クロスアーツとして空戦を考えた。その研究の成果の一部が、この小型プロペラ機である。


 しかし、周辺国は武器市場から追放されたであろうマンムーナが、資源を求めて戦争するのではないかと危険に思い、同盟を結んで戦争を仕掛けた。


 夜に決行された同盟軍の攻撃にマンムーナは手も足も出ずに配線した。同盟軍は戦争に勝利したとはいえ、その技術力に脅威を抱き、滅ぼすという結論にした。


 そして、その技術力が周辺国に回されたことが、軍人達が乗ってきた大型の飛行機を見て察した。


「なるほど。この町には、まだ何かあるかもしれません」


 にやけながらツバトは日記を読み進める。


 生存の光か、それを逃さまいとツバトは集中していた。だから、彼はすぐ近くに軍人が迫っていたことに気が付かなかった。


(ガキをるのは胸が痛むが、運が悪かったと思うんだな)


 軍人の男が西洋剣の形態をした霊己武記クロスアーツでツバトを真っ二つにする勢いで、振り下ろしにいく。


「キシャアアアアアアア!!!」


 小型プロペラ機の操縦席の下に潜んでいた赤い猫の猛る声に、自分に向けられる殺気に気づいたツバトは体を前へと回転する。振り下ろされた西洋剣は轟音を立てるも、ツバトの服をかする程度で終わった。


 自らの得物ナイフを取り出し構えるツバト。その敵である軍人の男は「ヒュ~♪」と喜びながら西洋剣を回し、肩へと置く。


「ラッキーボーイだな、お前。その猫がいなかったら死んでたぜ」

「ええ、助かりましたよ。クレナ」

「にゃあ~」

「なんだ? その猫、人みたいな名前だな」

「僕が名付けたわけじゃありません。この町の誰かがそう名付けて、いつの間にか町中で呼ばれるようになったんです」

「ほう。それは。人気者ではなく人気猫だったわけか」

「おかげでこの猫は餌には困ることはありませんでした。僕は毎日食べ物を探すのにも一苦労するというのに。この町で良いご身分な猫ですよ」

「ハハハ。猫に嫉妬かよ」

「判らないですよ。衣食住に困らない軍人さんには」

「違いない」


 ツバトは『ウリア』の軍人である特徴的な赤の軍服の男と談笑しながら、互いの間合いを計っていた。互いに気づかれぬよう、小さな足運びをする。

 表面上は余裕そうに見えるツバトだが、心象は真逆であった。


(この軍人、子どもの僕に全く油断をしない。それどころか、戦士として僕と闘おうとしているのが判る!)


 ツバトは軍事の男の肩にかけている西洋剣が霊己武記クロスアーツであることはすぐに判った。他の武器とは違う、霊的な色が血の様に巡り、軍人の男へと繋がっているのが、肌で感じ取れていた。

 慢心による油断。そこから一打狙おうとしていたツバトだったが、男の戦闘態勢・姿勢からその選択は無理だった。


 一つしかない出口も軍人を超えた先にある。残された選択を秤にかけ、ツバトは攻撃を仕掛ける。


 ナイフの刃を両手に持って突進し、軍人の男は西洋剣で対する。刃が重なり、ナイフが西洋剣の刃を滑っていく。ギイイイイイイイン、と火花と甲高い摩擦音を出しながら、ツバトは右に一回転をして、間合いを迫る。


 その間合いは剣戟よりも接近戦である、拳法の間合いであった。


 軍人の男はツバトの構えから敵が格闘の術があることを判断し、防御に回る。腕を交差させた防御は背丈の低い敵から懐を守る構えである。

 だが、それが失策であることに軍人の男はすぐ気づく。男の目には、ツバトの右足が手に持っていたはずのナイフの柄をこちらの腹目掛けて蹴ろうとしていた。その蹴りからナイフが発射される角度は、男が交差させた腕の防御の下を潜りぬけるのは明瞭であった。


(このガキ、いつの間にナイフを! そうかっ、回転するときに落として俺の目から反らしたのか!!)


 軍人の男の目が見開くのは、ツバトがナイフを蹴り飛ばす瞬間だった。


「――っらあっ!!」


 咄嗟に背中を仰け反りった軍人の男の腹の上にナイフが通過する。隙間へと続く道の、ガレキの壁にナイフが弾かれ、土に落ちる。その前に、軍人の男は伸ばし切った腕に持っている西洋剣を、狭さ関係なく強引に逆手へと持ち替える。ガガガガガ、とドリルで岩盤を抉じ開けような音が鳴り、ガレキや土ごと切り裂いて持ち替えたため、粉塵が舞う。


(乱暴なっ!)


 ツバトは思わず悪態を()いてしまう。だが、それは些細なこと。命をかけた闘いにおいて、コンサートホールに聞こえる雑音のようなもの。軍人の男は粉塵を全く気にした様子もなく、開いた目で敵の逃さまいとしていた。


(消えろっ!)


 逆手にした西洋剣を引き戻し、ツバトの喉笛に突き刺す。ナイフを蹴り上げたため、無防備なツバトは回避することができない。


 キイィーン。


「二つ目!!」

「はああああああ!」


 脇差し。そう呼ばれ方もある武器ナイフでツバトは西洋剣を下へと落とすように叩いた。左手で抜いたそのナイフは先ほど蹴り上げたナイフよりも刃が少し長く造られていた。

 ツバトは右利きである。なので、左手で軍人の男の西洋剣と刃を合わせても押し負けるのは判る。だが、その凶刃を多少反らすことは難しくない。ましてや、逆手に持ち替えて、伸ばし切った腕を引き戻すというのは、力の入れ方が難しい。その原因は、そのよう反撃、攻撃を想定することは難しく、練習することもないのももちろんだが、下方へと向けられた剣は、上へと戻される力に対して強いが、逆に後押しするように下へと力を加えられて場合、さらに下へと剣先が向かってしまうのだ。


 ツバトは、そこからさらに攻撃に出るのは難しいと捉え、一度間合いを置く。軍人の男も追うことはなく、西洋剣を肩にかけていたさっきまでとは違う、闘う構えをしていた。


 互いに戦闘の興奮、心臓の危険信号アラームを落ち着かせる。


「ふう~。やるな、お前。その二本目のナイフ、どこに隠してたんだ?」

「腰の所。武器ってのはなかったら困るけど、余分にあっても困るものじゃないしね」

「同感だ。俺も無手で死ぬのだけは御免だ。死ぬのなら戦士として死にたい」


 軍人の軽快に語る言葉に、ツバトは意外だという顔をする。


「格闘術できないのですか? とてもそうには見えませんが」

「できるぜ。だが、自分の得物を持っていたほうが断然強い。お前も無手よりナイフを持っていたほうが強い人間だろう?」

「まあ、そうですね。確かに、言えてます」

「納得できて何よりだ」


 満足そうに、軍人の男は両手持ちの構えをする。


「今度は、俺から、だあっ!」


 片手でガレキや土を切り裂く腕力を、両の手で重なる。その強大な力で振られた西洋剣は、空気を切り裂く音を響かせてツバトを襲う。

 その切り裂き音は、人間一人を真っ二つにする勢いだ。

次回の更新も遅くなります。

すいません。

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