No2 翡翠の侵入者
おまたせしました。
予告通り投稿できてよかったです。
トリパルス大陸、ウルタス地区にあるメリル薬品工場。
山一つを改築し工場としたそれは巨大であり、56という階層が存在する。
第7階層。関係者のみにしかこの先の階層を通ることを許されず、常に自動警ガードモンスター『セキュラー』が次の階層に続く扉を守護していた。
しかし、今扉の前には『セキュラー』の残骸と、翡翠の髪をした少女が立っている。
「ココカラサキハ、カンケイシャイガイ、タチイリキンシデス」
片言で話しながら、BM14番付大猿型『セキュラー』は天井から降り立った。一つしかない緑色の目は翡翠の少女を見ている。
「ココカラサキハ、カンケイシャイガイ、タチイリキンシデス」
再度通達する『セキュラー』に対し、翡翠の少女は右手を『セキュラー』の装甲に手を当てた。右手からは発せられる魔力は厚い装甲を通り抜け、内部の機器やシステムを破壊し、『セキュラー』は連続する小爆発とともに沈黙した。
「邪魔です」
機械の残骸の上を踏み越し、八メートルはあるであろう扉に翡翠の少女は細い腕で手を付ける。
「すぅ」
一呼吸し。
ゴゴゴウッ、と重量感のある音ともには扉を開いていく。少女の顔は扉の重みを感じさせず、無表情に扉を開けていく。
扉の先の光景を、少女はどうでもいいというかのように無表情を貫いている。
何十という『セキュラー』が群れをなしているの光景を、少女は何も感じない。戦闘レベルが上がっているのか、『セキュラー』は互いの邪魔にならないよう陣形を取り、片言の言葉を発しながら一斉に少女に襲い掛かる。
「全く」
呆れたように呟きながら、犬型の『セキュラー』の腹に頭からスライディングする形で上向きの右掌底をぶち込む。犬型は掌底の威力で前よりに浮かぶ。少女は地面に付けた左手を勢いよく弾き、空中で一回転。そのまま回転した勢いを乗せながら大蛇型の『セキュラー』に踵落しを入れる。
バチィ!
機械がショートしたような音が響く。つま先に力を入れ、少女は大蛇の頭上で直立する。
左右から獅子型とシルバーアックスを持った竜人型の『セキュラー』が少女の腕を襲う。少女は強顎と剛腕を大蛇の首に足を掛けたまま、地面に落下することで避ける。大蛇は背を後ろに曲げた状態のまま強顎と剛腕の餌食になる。
ゴウッッ、とあまりの衝撃に空気と地面が振動する。
避けた少女を追うように獅子型と竜人型、そして周囲の『セキュラー』が襲う。
ギリギリギリギリ。
鉄と鉄を擦りあわせるような音が獅子型の口から響く。
獅子型の歯の部分である場所に、ピアノ線のようなものが歯と歯の隙間を縫うかのように絡みついている。
「繊細なのは、どこかの国の学生だけで充分です」
翡翠の少女は大蛇の尾を力ずくで引っ張り、襲い掛かる『セキュラー』の盾にした。
◇ ◇ ◇ ◇
タケミコギルド所属の冒険者、ウーネルはモニター越しに写る翡翠の少女を見ていた。
「ウーネルさん、関係者以外立ち入り禁止扉に行かないんですか!?」
「ツバトか」
ウーネルは横目で焦ったように話すツバトを見る。
「他の冒険者たちは行きましたよ。僕たちも行かないと!」
「なんでだ?」
「自分たちだけサボるわけにはいかないからです!」
「それよりもモニター見ろ」
怒っているツバトに対し、ウーネルは冷静にモニターを見るよう促す。ツバトはいつもは冗談を混ぜながら話す先輩が真剣に話すのに驚き、尋常じゃない事態であることに察する。
ツバトは、ウーネルの言うとおりにモニターを見て、そして驚いた。
モニターに写っているのは翡翠の髪をした少女が何十という『セキュラー』と戦っている映像だった。
「あの『セキュラー』の数と互角に戦っている!」
「互角じゃねえ。嬢ちゃんの方が上手だ」
ツバトはさらに驚愕した。蹂躙されるどころか優勢だと語るウーネルの言葉が信じられなかった。
「立ち回りが恐ろしく上手いうえに、『セキュラー』の特性を熟知してやがる」
「特性?」
「ああ、『セキュラー』っつうのは侵入者を捕獲、無力化するための自動警備ガードモンスターだ。だから、攻撃力よりも防御力がはるかに高い。
獅子型の『セキュラー』の歯に糸が絡んでいるだろう。あれは大蛇型『セキュラー』の部品だ。無理に食いちぎったから何重にもコーティングされた鉄糸に絡まったんだ。ほら、『セキュラー』の攻撃を避けるか、他の『セキュラー』で盾にしている」
「…………ほんとだ!」
『セキュラー』は冒険者のように連携できず、一体一体が隙を見れば攻撃する単調な戦闘スタイルである。互いの位置を特殊な電磁波で伝播しあっているとはいえ、素早い相手に対し、どうしても後手に回ってしまう。少女の戦い方はまさにそれを加味している。
その情報収集力、実践に扱えるレベルにする応用力は確かにすごい。
「ああ、だが一番脅威なのはそこじゃない」
ウーネルは睨みるけるように翡翠の少女を見ながら言った。
「あの状況下で『力』を使っていない。はたまた『力』を使っているが見ても分からないのか。後者の場合はそれを前提に戦えば問題ないが、前者だった場合は対応に遅れが出るかもしれねえ」
「…………『力』を使っていないですか?」
怯えたように呟くツバトに、ウーネルは笑いながら少年の頭を叩く。
「そこまでマジになんなよ。可能性の話だ。
だが、用心に越したことはない。違うか?」
「はいっ!」
元気のよい返事にウーネルは満足した表情をする。
もし、『力』使わざるして『セキュラー』の群れを一掃したならば、まさに怪物だ。
だが、相手が怪物であることになにか問題があろうか。いままでだって怪物を相手に冒険者をやってきた。
怪物には恐れよう。
ただ、勝ちは譲らん。
まだ、はじまりですがよろしくお願いします。