第81話 王の姿《アルディス》
――少しの間、体を借りさせてもらうね。
――僕。
その言葉の意味を理解する前に、体が動いていた。
そこに僕の意思はなかった。
僕の身体なのに…。
「……っ。」
西条たちが、再び向かってくる。
全員が武器を持ち直し、折れた武器を捨てて、別のものを取り出していた。
どこから武器を!?
――アルカディアでは、次元袋は基本だったよ?
……普通に話しかけてくるじゃん…。
――ハハハ、何かごめんね?でも、僕と会うのはこれで2回目だよ?…多分これからもっと増えると思うけど。
何やら不穏なことを言っているような…?
いやそれよりも、次元袋ってなんですか?
――うーん、作った技術者にもよるけど見た目と内容量があっていない袋って言えばいいのかな?
????
――あっ、○○えもんの四次元ポケットみたいなやつだよ、これで分かるかい?
なるほどぉ。
頭では理解したけど、そんなものが現実で存在するなんて思いもしなかった。
僕とアルディス?さんが話している間も西条達閉門衆と呼ばれた人たちが襲い掛かってくる。
アルディス?さんの意識が、体の中で静かに動いた。
うぅ、気持ち悪い…。
全身が全く言うことを聞かない…。
だけど、僕は落ち着ていた。
この僕の中にいるアルディスと呼ばれた人が出てきた人が現れた時からとても安心する。
何でだろうか?
「……田中さんっ!」
リオさんの声が聞こえた。
「リオさん、大丈夫ですよ。」
あっ、僕の記憶を持っているんですね、アルディス?さん。
――……君にそう呼ばれると不思議だね、アルディスでいいよ、有人。
そ、そうですか?…では、よろしくお願いします、アルディス。
「少しだけ離れていてくださいね。」
口から出た言葉は、僕の声だったが、言葉の選び方がアルディスだった。
西条の部下の一人が、右から踏み込んできた。
体が、半歩左にずれた。
体は勝手に動いていく。
この感覚知ってる…。
初めてダンジョンに潜った時と同じだ…。
踏み込んできた部下の腕を掴んで、流した。
男が前のめりに崩れ、その崩れた体の上に、軽く手を乗せ、
ドンっ!
とくぐもった音がして、男が地面に沈んだ。
「……っ、なん、だ。」
僕を囲んでいた背後の二人が、動きを止めた。
「……陛下の、動きだっ。」
一人が、震えた声で言った。
「……これは、アルディス様の、動きだ。しかも、全然、力が衰えても、いな――」
「落ち着きなさい、まだ完全に戻っていないと言ったはずですっ!今のうちに仕留めるのですっ!私たちにはもう後がないんですからっ。」
西条が、鋭く言い放ち三人が、同時にやってくる。
正面から一人、右から一人、左から一人。
……ここまで連携が崩れてしまえば、僕でも対処出来てしまう。
アルディスの存在が出てきたのは、西条達にとって想定外の出来事だったようだ。
正面の一人の攻撃を、腕で逸らした。
右からの一人を、足を使って転ばせ、左からの一人には、体を沈めて避けた。
全部、流れるような動き、これは、僕の戦い方ではなかった。
僕はナイフを使って、接近戦に持ち込む。それが僕の戦い方だ。
でも、今の動きはまるで違う。
武器を使ってすらいない。
ただ、相手の力を使って、流して、崩している。
素人目でも分かってしまうほどの兎騎士のような熟達した様な戦い方…。
それだけで、アルディスの人生が大まかに理解してまう。
「……慌てているようだね。この体の持ち主は、よく動けるように鍛えているみたいだし。だから、動きがとても楽だよ。」
そんな熟達した人に身体を褒められるとむず痒いような、恥ずかしいような…。
戦いの場にいるはずなのに、そんな気持ちになってしまう。
「……うるさい。」
西条が、正面から向かってくる。
西条の動きは、部下たちと全然違って鋭くて、速くて、無駄がなかった。
……こちらも、長い間、戦いを続けてきた人間の動きだった。
「8年間、あなたを探しながら、あなたに会えた時のことを考え続けていました。」
西条が、攻撃を繰り出しながら言った。
「貴方様が死んでいたら、私たちはこんな苦労をせずに済んだのに…っ。あなた様が存在するだけで世が乱れるのですっ!ここで、おとなしく消えてくださいっ!!」
「……そうか。」
西条とは正反対に、アルディスの声は、静かだった。
「お前たちの苦労は分かるよ。でもね――」
右腕で西条の攻撃を受け流した。
「君たち、随分こっちで好き勝手やっていたよだね。」
西条が、動きを止めた。
「……何を言っているのです。」
「……僕には見えているんだよ。君たちに纏わりついている魔力の破片で君たちが何をしてきていたのかを。」
「……嘘、です。」
「嘘ではないよ。アルカディアから来たなら僕の異名を知っているよね?君たち僕を狙っていたようだけどほぼ無関係な人たちを襲ったね?」
西条の顔が、揺れた。
その一瞬の揺れを見て、アルディスが続けた。
「8年間、何かを信じて生きてきたのだろう。その信念は本物だ。ただね、間違った情報の上に積み上げた信念だったようだね。」
「……黙ってください。」
「お前たちに何も言う資格はないと思っているだろう。僕が全てを捨てて逃げ出したから。」
「……そう、ですね。」
「その通りだよ。僕は逃げた。」
アルディスの声が、少し変わった。
「それは否定しない。僕がしたことは、間違っていなかったと思うけど、正しくもなかった。でも、だからこそ――」
今度はより速く、より鋭く西条が、また動いたけど、
それでも、僕の身体にはダメージを負わせることができない。
「関係のない人間を巻き込む理由にはならない。」
西条の足が止まった瞬間、体が踏み込んだ。
胸の中心に、平手を当てた。
ドンっ!
という音がして、西条が後方へ飛んだ。
壁に背中を打ちつけて、崩れ落ち気絶する。
他の三人は既に地面に倒れており場は完全に落ち着気を取り戻していた。
六層の通路が、静かになり、リオさんが、息を呑んでいた。
「……田中さん。」
「大丈夫ですよ。」
口から出た言葉は、今度は僕の声だった。
あっ、喋れる…。
……勝手な人だなぁ。
アルディスの意識が、少し引いているようだけど、完全には消えていなかった。
頭の奥で、もう一人の自分がいるような感覚が続いていた。
「……リオさん、怪我はないですか?」
「……ないです。でも、田中さん、今のは…。」
「説明は後でしてもらいましょう。今は、ここを出ませんか?」
「……はい。」
リオさんは納得はしていないようだけど、頷いてくれた。
ヒナさんが、会社の別室にいると西条は言っていた。
西条たちが倒れている今のうちに、助け出さなければいけない。
「……ヒナさんを、探しに行きます。」
「どこにいるか分かるんですか?」
「白川グループの本社のようです。西条が言っていましたから。」
頭の奥で、アルディスの意識がまだいた。
――体、返すよ。
その声が、頭の中だけに聞こえた。
――でも、また後で体を貸してほしんだ。
――君の友達を助けるために。
……今度こそ仲間を助けるために。
歩きながら、答えた。
心の中で。
……分かりました。その時になったら、よろしくお願いします。
僕たちは六層の通路を、駆け上がっていく…。
――アルト、く、ん。
――急ぐのじゃ!
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