第2話 異世界魔王、不良を倒す
魔法が使えることが分かったことだ。
俺はこの不良どもを魔法の練習台にすることに決めた。
「さて、誰から痛めつけられたい?」
そこにいるのは、俺以外に4人。
俺が腹を殴ってまだうずくまっているのが1人。
それ以外に突っ立っているでくの坊が3人。
「痛めつけられたいかって?」
俺の言葉に3人が反応する。
「やっぱ調子乗ってんな」
「マジぶっ殺す」
「てめえ病院送りだ」
その言葉に、思わず失笑してしまった。
「おいおい。殺すのか病院送りかどっちだ。意見を統一することもできないのか、烏合の衆が」
「ああ!? ウゴーがなんだよ!?」
「烏合の衆だ。そんな言葉も知らんのか」
はあ、とため息をつく。
「まったく。知能が足りないやつらはこれだから困る」
会話をするのにも一苦労だ。
まともに会話ができないというのはストレスがたまる。
ああでも、懐かしいといえば懐かしい。
魔族の中にもこういう手合いはいた。
いわゆる脳筋で、難しいことは覚えられないバカだった。
だがしかし、バカではあるが優れた肉体を持っていた。
戦闘技術は高いから重宝していたよ。
そいつはいくらバカでも強かったから問題なく部下として使っていたのだが、このクズどもはバカのくせに弱い。
……擁護のしようもないな。
残念な生物だよ、まったく。
「おいおい。弱いだけならばともかく、おまけに頭も悪いとは……。真剣にきくが、お前らの存在価値とはなんだ? 俺に教えてくれないか?」
「あああああああ! うっぜえんだよこのカスがよおおおお!」
弱くてバカのクズが、短絡的に殴りかかろうとしてくる。
ちょうどいい。
魔法の実験を開始だ。
まず使用するのは闇魔法だ。
クズの影から出る手が足をつかんでその動きを止める。
そして次には影の中から闇でできた細い槍を出し、クズの体を突き刺す。
「ぎゃああああああ!!!」
足を刺し、腹を刺し、腕を刺し、胸を刺し、首を刺し、顔を刺す。
刺す。刺す。刺す。刺す。
何十何百の細い槍が、クズの全身に突き刺さる。
「あああああ! いてえいてえいてえええ! なんだこれ! なん、だ、これぇ……!」
涙を流しながらクズは痛みを訴えている。
のたうち回り、泣きながら悲鳴を上げるその姿はひどく滑稽だった。
思わず笑みがこぼれてしまう。
人は今の俺の姿を見て何と思うだろう。
非道?
最低?
ああその通りだ。
俺は魔王だからな。
ちなみに、このクズが体全身を刺されても痛がるだけで死んでいないのには理由がある。
それは俺がこのクズに治癒魔法を施してやっているからだ。
殺してやってもいいのだが……。
死んでしまっては魔法の実験にならないからな。
死体にむかって実験したところで空しいだけだ。
やはりこういうのは生きている者に向かってしなければ。
ふっ。
実験のためとはいえ、殺さないで生かしておくとは。
俺も甘くなったものだな。
おそらくこれも、今世の王真勇人と意識が融合した影響だろうな。
「お、おい。いったいどうしたんだ?」
クズが全身を刺されてもだえ苦しんでいるのを見て、他のクズどもが困惑している。
ちなみに俺が使った魔法は隠匿の魔法をかけている。
このおかげで魔法自体は目に見えないようにしているのだ。
「なんだ、なんなんだよ?」
「いったいどうしたんだよお!」
「すぐに理解できるさ」
さて、この2人にはどういう魔法を使うとするかな。
「よし、ではお前らには雷魔法と炎魔法を試してやろう」
雷魔法は電気を発生させて攻撃する。
炎魔法は炎を発生させて攻撃する。
とても分かりやすくてシンプルだ。
クズの1人の体を炎で焼き。
クズの1人の体に電気を流し込む。
「ぎゃあああああああ!!!!」
「が、ばばばばばばば!!!!」
炎と電気による苦痛で、クズどもは悲鳴を上げた。
「治癒魔法があるから怪我をしても平気だぞ。良かったな、クズども」
「熱い熱いあついあついあついあつあつあつあつ――――――!!!」
「痛い痛いいたいいたいいたいいたいたいたいた――――――!!!」
「ははは、いい声で鳴くじゃないか」
クズのくせに、悲鳴だけは一級品だな。
そこだけはほめてやろう。
「ああ、いま理解したぞ。お前たちの存在価値は、悲鳴で俺を楽しませることだったのだな」
なるほど。
ならば、その存在価値を存分に発揮させてやらねばな。
俺はなんと優しいのだ。
ちなみに、ここでこうしてクズたちが悲鳴を上げているが、誰もここには来ない。
本来なら、ここまで声を上げているならば誰か来そうなものなのに。
俺が防音魔法を使い、音を漏らさずにいるからだ。
どれだけ悲鳴を上げても誰も来ないから便利である。
さらには人払いのための魔法も使っている。
だから人がここに立ち寄るなんてことはない。
「う、うう……」
うめき声をあげるのは、先ほど俺に殴られたクズだ。
「ああ、お前を忘れていたな」
こいつも悲鳴をあげるという存在価値を発揮させてやらねばな。
「お前はそうだな……。水魔法を使ってやるか」
水魔法とは、その名の通り水を発生させて攻撃する魔法だ。
水を高速で飛ばすことで攻撃ができる。
大量の水を出すことで質量攻撃も可能だ。
だが、少量の水でもやり方次第では攻撃手段になる。
うずくまるクズの顔に手をやり、水を発生させた。
口と鼻が水で覆われ、ほんの少しの水でクズは溺れ始める。
「ぐがぼぼぼぼぼぼ」
クズは手足をバタつかせて苦しむ。
手を必死に顔に当て、顔に張り付く水を離そうとかきだすが、しかし魔法で操作している水がその程度のことで離れるはずもない。
クズの行動は無駄に終わり、溺れ続け、意識を手放しかけたところで水魔法を解く。
「ぷはっ」
はーはーと深呼吸をして、呼吸を落ち着かせている。
そして落ち着いたところを見計らって、俺は水魔法を再開とする。
「がぼぼぼぼぼぼぼ」
クズは再び水魔法により溺れ始める。
ふむ。
悲鳴こそ出ないが、その苦しむさまは滑稽でなかなか面白い。
見世物としては悪くないな。
そして水魔法による溺死体験ショーを続けていたら、何度目かでクズが「やめてくれ」と言ってきた。
「まって。やめてくれ。あやまる、あやまるからもうやめてくれ」
「やめてくれ、か。面白いことを言うな、貴様」
俺はにっこりと笑う。
そして、彼ら全員にかけている魔法を解除した。
痛み苦しみから逃れることができたクズたちは、助かったことに安堵する。
「た、たすかっ――」
「ああ、勘違いするな。別に助かったわけじゃない。一つ尋ねるために魔法を解いただけだ」
クズたちは全員でバカみたいな顔をこちらに向ける。
「おいクズども。質問だが。過去、俺――王真勇人がやめてくれと願ったとき、貴様らはやめたか?」
「そ、それは――」
「返答は、嘲笑だったろう」
王真勇人が暴力を受けた時。
根性焼きを受けた時。
何度も助けてくれ、やめてくれと懇願していた。
しかしこのクズどもはその無様な様を嗤っただけで、やめるどころか勢いをましてさらに暴力をふるった。
「《《わかるよ》》、その気持ち」
こいつらの気持ちは、よくわかる。
弱者を踏みにじるのが楽しいのだろう。
相手が痛み苦しむさまが、絶望するさまが愉快なのだろう。
強者である自分に助けを請う様は見ていて気持ちがいいのだろう。
異世界で魔王だった俺も、経験しているからよくわかる。
「俺もいま同じ気持ちだ」
このクズどもを踏みにじるのが楽しい。
痛み苦しみ絶望する様が愉快だ。
俺に助けを請ういまの無様な姿は、見ていてとても気持ちがいい。
「もっと俺を楽しませてくれ。もっと俺を愉快にさせてくれ。もっと俺を気持ちよくさせてくれ。それが、お前らの存在価値なのだから」
それを聞いたクズたちの顔が絶望に歪む。
その素晴らしい表情を見ながら、俺は嗤った。
「もっと無様に泣いて、もっと滑稽に鳴いて、もっとみじめに啼いてくれ」
クズたちは悲痛に暮れた顔をしていたが、俺は気にせず魔法を再開した。
そうだな。
次は対象を変えて魔法を放つか。
その後、下校時間となるまで彼らは地獄の中で苦しむことになった。




