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1話 異世界魔王、転生する




 ふと、目が覚めた。


「……ん?」


 目を開く。

 ここはどこだ?


 俺はいま、何をしていた?


 俺の名前はゾルディウス。

 人間という種族を滅ぼす、魔族の王だ。


 ……いいや、《《今は》》そうではない。

 今は……。

 


 今の俺の名前は、王真勇人(おうまゆうと)

 16歳の日本の高校生である。


 魔王ゾルディウスというのは、俺の前世の名前だ。



 ……ああ、そうか。

 いまはっきりと理解できた。


 俺はいま、魔王ゾルディウスという前世の記憶がよみがえったのだ。

 

 ふむ。

 これはつまり、異世界転生という奴か。


 かつていた、人間と魔族が争う世界から地球へと転生して来たことになる。


 地球で生まれた存在が異世界に転生するといった小説はよくあるが、異世界の存在が地球に転生してくるというのは初めてだな。


 いや、探せばそういった小説もあるか?



 なぜ異世界の魔王なのに日本の小説を知っているのかと疑問に思う者もいるだろう。

 それは俺が転生した王真勇人の記憶から読み取ったものだ。


 どうやら前世の記憶が目覚めた時、記憶が融合してしまったらしい。

 魔王ゾルディウスとしての記憶はあるが、同時に王真勇人としての記憶もある。


 そして融合してしまったのは記憶だけではないようだ。

 魔王ゾルディウスと王真勇人の意識も融合されてしまったようである。


 ゾルディウスとしての意識がベースとなりつつも、王真勇人としての意識によっていろいろと変えられているようだ。


 ……まあ、そこのところはどうでもいいか。


 意識だの記憶だの、あれこれ考えた所でどうにかなるわけではない。


 それに、何かが混ざったところで俺は俺だ。

 今の俺自身として生きていけばいいだけだ。



 しかし疑問はある。

 これまで16年もの間、王真勇人として生きていたのに、なぜ急に魔王ゾルディウスという前世の記憶がよみがえったのだろうか?


 

「おらおら、寝てんじゃねえぞ、王真ぁ!」 



 そんな疑問を感じる俺に、不快な声がかけられる。


 声のした方に目を向けると、そこにいたのは頭の悪そうな何人かの男だった。

 


「…………」


 ああ、そうだ。

 先ほどまでの王真勇人に起こっていた出来事が、いま思い出される。


 王真勇人――いや、いまからは俺と呼ぶことにしよう――は、ここにいるやつらにいじめられていたのだ。



 ここは俺が通う学校。

 俺は高校二年生。

 ここにいる三年の不良クズどもは、俺のことをいじめていた。

 

 放課後になると人通りの少ない場所に毎日呼び出され、ストレス解消のために殴られたり蹴られたりと、サンドバック状態。

 酷い時にはタバコの火を押し付けられたり、ゴミやら土を食わされたりしていた。



 今日はいつものように呼び出され殴られていたのだ。

 そして殴られた衝撃で地面に倒れて頭を打った。


 前世の記憶が目覚めたのは、その衝撃によるものだったのだ。



「ふむ」


 倒れ伏した状態から、俺は身を起こして立ち上がる。

 クズどもはその姿を見てニヤニヤと笑っていた。



「ということは、こいつらが俺の記憶を目覚めさせた奴らか」


「はあ? 何言ってんだてめえ」


「ああ、気にするな。ただの独り言だ」



 こんなクズどもでも、役に立つことをするじゃないか。

 どれだけ価値のない存在でも、長い人生で一回はいいことをするものだな……。



「てめえ、偉そうな口きいてんじゃねえっ!」



 内心で褒めていると、クズの一人――先ほど俺を殴って地面に昏倒させた者――が、俺に殴りかかってくる。


 だが。


「え?」


 クズの拳を俺は右手でつかんだ。


 先ほどまでとは異なる俺の反応に、クズは困惑している。



 先ほどまでの俺と、今の俺とではもう存在が違うのだ。

 

 魔王ゾルディウスの記憶がよみがえったいま、同じ肉体を使っていても、その使い方がまるで異なる。

 前世の戦闘技術を用いれば、この程度の存在など、いまの俺の肉体でもなんとでもできるだろう。


 そうだな。

 まずはこのクズを1分でボコしてやろう。


「て、てめっ――。はなせ、こら」


「わかった」


 クズの言う通りに俺は拳を離してやる。

 その瞬間、俺は右手でクズの腹を思い切り殴る。


「がは――」


 クズは俺の拳の威力に耐えきれず、その場で昏倒した。


 ふむ。

 当たり所が良すぎたか。 

 

 しかしだとしても、こいつ弱すぎだろう。

 1分でボコす予定だったのに、1秒でボコしてしまったぞ。


 雑魚だとわかってはいたが、想像以上の雑魚具合でいま驚いているところだ。

 これならば魔法を使うまでもない。


 ――っと、そこまで考えて、俺は魔法が使えるかの可能性に思い当たった。

 


 この世界、つまりは地球で魔法が使えるか?


 

 どうなのだろうか。

 前世を思い出す前の俺の記憶からすると、地球には魔法など存在しない。

 小説や漫画などの空想上の中の存在である。


 ならば魔法が使えないというのは普通の考えだ。


 しかし前世の記憶がよみがえるという、それこそ小説の中にしか起こらない現象が起こったのだ。

 ならば魔法が使えても不思議ではないだろう。



「物は試しだ。使ってみるか」


「は、はあ? お前何言ってんだよ。っていうか、お前一体なにしたんだよ!」



 俺に腹を殴られて昏倒するクズを心配し、周囲にいたカス共が集まっている。

 カス共はいきなりの事態に困惑している様子だ。


 やつらの困惑など俺にはどうでもいいことなので、無視して魔法の試験を行う。


 まずはごく簡単な魔法、ファイアーボールだ。



「ファイアーボール」



 呪文を述べつつ、前世と同じ要領で魔力を練ると魔法が出た。


 手のひら大の火の玉は校舎に向かって飛んでいき、壁にぶつかって消える。

 


「フハハハハ! 出るじゃないか。使えるじゃないか。魔法!」



 威力の低い魔法だ。

 この程度で消えるのは想定内である。

 もっと多くの魔力を注げば、この校舎を壊すくらいは可能だろう。


「良いぞ。魔法が使えるとなれば、できることも広がるな。楽しくなってきた」


「てめえ、何さっきから一人で盛り上がってんだよ! このカスが!」



 クズのうちの一人が、楽しい気分に水を差してくる。


 俺が魔法を出したことに驚いていない?

 ああ、仲間の心配をしていて俺の方を見ていなかったのか。


 クズ同士、仲間意識はあるようだな。

 まあどうでもいいことだが。



「おい、クズども。俺はいま気分がいい。特別にこのまま見逃してやるからさっさと去れ」



 前世の俺ならば、俺に向かってカスと宣ったこいつらは殺しているところだ。

 だが意識が融合したせいか、他人に対していくぶんか甘くなっているらしいな。


 前世を思い出す前の俺が真面目で人を殺してはいけないと心の底から思っていたこともあり、殺人に対する忌避感も覚えている。


 まったく。

 魔王だった時代には考えられないことだ。


 しかし、こいつらにとっては運が良かったな。



「は? なに言ってんのお前?」



 と、俺が特別に見逃してやろうというのに、こいつらは俺の慈悲を無駄にした。



「見逃す? は? 俺らの奴隷やってるお前が?」


「一回まぐれあたりしたくらいで調子のってんなお前」


「マジでむかついたわ。ぶっ殺す」



 クズどもはイキリ散らしながら俺の方に来た。



「なんだ貴様ら。痛めつけられたいならばそう言え」



 そうだな。

 魔法が使えることが分かったことだし。

 地球でどこまで魔法が使えるか、こいつらで練習することにするか。


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