第14話 異世界魔王、美少女二人から挟まれる
「いってらっしゃーい!」
「いってきます。お前も学校に遅れるなよ」
「わかってるよ。じゃね!」
愛華に見送られ、俺と千歳は学校へと向かう。
「魔王様。鞄をお持ちします」
「必要ない。自分の荷物くらい自分で持てる」
そもそも、俺からすればこの程度の荷物くらい全く負担にはならないしな。
俺の肉体は人間のものなので魔王時代の筋力は失われているが、魔法によっていくらでも自身の筋力をあげられる。
学校につき、2人で校門をくぐる。
「あ、王真君だ! おーい!」
すると、聞き覚えのある声がかけられた。
相手は弓村だ。
「王真君おはよう!」
「おはよう。お前は今日も元気だな」
「ありがと。弓村澄香は元気いっぱいです! これも王真君に会えたからかな?」
冗談っぽく弓村は笑いながら言う。
「ふっ。魔王を見て元気になる人間がいるとはな。お前も魔王軍に入る素質があるんじゃないか?」
「えぇ~。そう? 王真君に誘われちゃった~」
「……魔王様」
俺の横にいた千歳が、ぎゅっと俺の腕をつかむ。
千歳の顔は、どことなく面白くなさそうだ。
理由は察せられる。
魔王軍の配下である自分がいるというのに、他の者が魔王軍に誘われている姿が面白くないのだろう。
「む? ああすまんな。お前をないがしろにしていたわけではない。安心しろ。他にどいつが魔王軍に入ろうが、俺の一番の配下はお前だ」
「あ、芦野さん。おはよう」
ニコリと弓村は微笑みながら挨拶をする。
「お、おはよう」
それを見た千歳は表情を硬くしながらも挨拶を返した。
「弓村さん。私の名前しってたんだね」
「そりゃあもちろん! 私、クラスメイトの顔と名前はすぐに覚えるようにしているから!」
「す、すごいね……」
「こいつは俺の名前も知っていたくらいだからな。まだ4月だというのに、ご苦労なことだ」
「それって褒めてくれてる?」
「どういう風に受け止めるのかはお前の自由だ」
「じゃあ誉め言葉として受け止めましょう!」
「……お前はお前で、千歳とは別の意味で面白いやつだな」
こういうタイプの奴は、前世にもいなかったな。
「千歳?」
と、弓村は俺の言葉に反応する。
「あれ? それって芦野さんのこと?」
「ああ」
「……どうして、王真君が芦野さんのことを下の名前で呼んでるのかな?」
弓村は先ほどまでより小さい声を出す。
なぜかは知らないが、声のトーンも先ほどまでより若干低い。
「別に俺が誰をどういう風に呼ぼうが俺の勝手だ」
「う、うん。そうなんだけどさ……。確認だけど、いちおうの確認なんだけど。もしかして、王真君と芦野さんって付き合ってる? なんて」
……愛華にも聞かれたな、この質問。
なぜどいつもこいつも俺と千歳が付き合っているのか確認するのか。わからん。
とはいえ、これに対する俺の返答はかわらない。
「交際していない」
「そ、そうです。そんな恐れ多い」
と、俺と千歳は答えた。
「お、恐れ多い? 意外な反応……。じゃあ、どうして下の名前で呼んでるのかな?」
「それはそんな重要な情報か?」
「ま、まあ。それなりに……」
弓村は目を背けつつ、小さい声でいう。
「理由を述べるならば、こいつは俺の配下になった存在だから、親愛のために下の名前で呼ぼうと思っただけだ」
「はいか?」
弓村は首を傾げた。
「あれ? 王真君と芦野さんってバイトの先輩後輩だったりするの?」
「違う。バイトの先輩後輩ではない。もちろん委員会の委員長と副委員長でもない。千歳は魔王軍の一員となったのだ」
「王真君。魔王と名乗っているのは知っていたけど、魔王軍っていうのも作る気なんだ」
「これまでは作る気はなかったけどな。昨日千歳に配下になりたいと言われたからそうしてみようと思っただけだ」
「はい。私が魔王様に頼み込んで、魔王様の配下にさせていただきました」
「芦野さんはどうしてそんなことを?」
「それは、魔王様にあこがれたからです。魔王様は己というものを強く持っている、素晴らしいお方です。このお方についていきたいと思いましたので」
「あー。王真君が、しっかりした自分を持っているっていうのはわかるかも」
「どうした。千歳だけでなく弓村まで俺をたたえる言葉を言い始めて。本当に魔王軍に入りたいのか?」
「魔王軍……。ね、魔王軍に入ったら、私も王真君から名前で呼んでもらえるのかな?」
「ふむ……。そうだな、千歳のことも名前でよんでいることだし。そうするだろう」
「じゃあはいりまーす。よろしくね、王真君」
弓村は俺の言葉をきくや否や、魔王軍へ入ることを決めた。
即断即決だな。
その決断の速さは、魔王軍の一員としてはなかなか悪くない。
「あ、王真君なんて呼んじゃダメか。私も魔王様って呼ばないとダメ?」
「お前が俺をなんと呼ぼうがお前の勝手だ。好きなように呼べ」
「うーん。じゃあ王真君……ていうのは代わり映えしないから、魔王君って呼んでもいい?」
「お前の自由だ。好きにしろ」
「はーい。じゃあ魔王君って呼ぶね? あ、魔王君ってちょっとかわいいかも」
「かわいいか……?」
こいつの感性はよくわからん。
「ね、魔王君。私のことは? 私のことはなんて呼んでくれる?」
わくわくしつつ、弓村――否、澄香は俺に尋ねてくる。
まるで名前を呼ばれるのを心待ちにするかのように。
「澄香だ」
「! ね、もういっかい言って?」
「澄香」
「~~~~~!」
澄香は嬉しそうな笑顔をこぼす。
「いいねこれ。すっごくいい。魔王軍っていいかも」
「これの何がいいのか、俺にはさっぱりわからん。ただ名前を呼ばれているだけだろう」
「……私は、わかります。魔王様。私の名前も呼んでください」
「千歳」
「……!」
千歳も嬉しそうにしていた。
いったいなんなんだ。
そして、俺たちが話をしていると、小さく声が聞こえてくる。
「……くそ、朝からいちゃつきやがって」
「あれ、学年一の美少女って話題の弓村さんじゃねえか」
「となりにいるのは学年一の巨乳で男子生徒の間で有名な芦野さんじゃねえか」
「あの2人に挟まれてるなんて、うらやましいけしからん許せんマジでうらやましい」
「代わってくれ……。俺と代わってくれ」
「誰だあの男」
「知らねえよ、クソ。イケメンってわけでもねえのに。美少女二人を侍らせやがってよ」
「羨ましい……憎らしい……」
と、俺に嫉妬を向けてくる男子生徒の怨嗟の声が聞こえてきた。
普通の人間ならばそういうのにはうんざりするのかも知れないが、俺は魔王だ。
憎しみや怨嗟の声など、心地のいい音楽のようなものである。
心地のいい気分になれた、いい朝だ!




