おバカ貴族と部下
「改心させる」
心変わりをさせろ、というエディスからの指令にカサルは首を捻っていた。
泥棒をする人間にも色々いることは、マリエを見れば明らかである。大きく分けて三パターンだ。
罪悪感を抱きながら生きるために盗む者。
スリルを楽しみ、嬉々として物を盗む悪人。
そして──物を盗んだ方が効率がいいと判断する、合理的な人間。
最後に関しては、善悪という基準で動いていない。つまり更生というより、もっと効率のよい稼ぎ方があればそちらに移行するような手合いであり、そう言った人間は領内に一定数存在する。
風の靴を盗んだ男の身なりは、決して裕福そうには見えなかった。
カサルの見立てでは、あの男はマリエ同様に”金銭効率のいい稼ぎ方”を選択した結果、窃盗を働いている「合理的畜生」に見えた。
そしてカサルにとって、損得勘定だけで動く人間は、ある意味で最も扱いやすい「家畜」でもあった。
カサルはエルドラゴの囚人が収容されている、渓谷の地下刑務所へやって来た。
ここは硫黄臭い有毒ガスがたまに漏れ出る天然の拷問施設になっており、収容される罪人はその恐怖に怯えながら、エルドラゴに鉱石や異端核を送り続ける。
刑の重さによって、受刑者は地下深くの危険地帯へ送られるが、目的の窃盗犯はまだ刑が軽いため、比較的浅い階層の採掘場にいた。
「01931番。面会人が来ている。至急作業を止め、面会室に来い」
泥棒は自分に面会人がいるとは思わず、不思議な顔をしながら面会室へと入ってきた。そこで鉄格子の向こうに見えた顔に、泥棒は口を開けて「あ、アンタは……!」と言った。
「風の靴を売っていたお前に興味が湧いてな。……ここを出してやってもいいぞ」
「へ、へへ。……条件ですかい。良いですよ。ココを出られるなら何でも」
男は即答した。プライドも何もない、清々しいほどの生存本能だ。
「そうか。話が早くて助かる。では幾つか質問をさせて貰うぞ。まだ我もお前を使うか決めあぐねているのでな」
「何やらせようってんですかい。人殺しですかい、盗みですかい、それとも貴族様の汚れ仕事で?」
「そこら辺は卒なくこなせるのか? 」
「えぇ。ご命令とあらば。さぞ高貴な身分の御方とお見受けしやす。邪魔になる相手も多いことでしょう」
男は卑屈な笑みを浮かべる。カサルは鼻で笑った。
「勘違いするな。お前の手を汚させるために、わざわざエディス嬢から保釈の許可をもらってきたワケではない」
「はい? 」
泥棒は目をぱちくりさせて、カサルの言葉に耳を傾ける。
「我は、お前の良く通る元気な声を買っている。それにあの場にいた我を使って儲けに繋げようとした機転も悪くない」
「ヘヘッ。泥棒に店番を任せようってんですかい」
「いや。お前に店をやろう。自分の物なら、盗む必要もあるまい」
「へっ⁉ 」
「金はやらんが、物はくれてやる。それを全て売って金に換えて見せろ。売れれば、その半分の利益をお前にやろう」
「み、みえねぇな。そんなうまい話、他の商人に持って行きゃ、誰でも二言目には了承するぜ。店を持つなんざ、商人の夢だ」
「もちろん、普通の商人には任せられぬ事情がコチラにもある。……どうだ、今返事を聴かせて貰いたい。我も暇じゃあないのでな。ココから出て、我の犬になるのか。ならないのか」
男はゴクリと唾を飲んだ。目の前の美少年が、悪魔に見えたからだ。だが、この蜘蛛の糸を逃せば、一生この毒ガス満ちる地下で終わる。
「な、なりやす! 元からあっしには何もないですから! 人間の死体だろうが何だろうが、売りますよ! 」
「ヨシ。今日からお前は無敵の男だ。どんなヤツにも怯まず売り込めよ」
「了解しました旦那! 」
「そう言えばお前はなんて読んだらいい」
「へい、あっしはヘルメスと言います。どうぞ、いつ切られても文句言いませんので! どうぞよろしゅうお願いします! 」
こうして、元泥棒のヘルメスが部下になった。
カサルは満足げに頷く。
(コイツにはマリエ達が盗んできた盗品を売って貰う。後は店だが───適当に露店からやらせるか。また捕まったらそれはそれで愉快なことになりそうだが……真面目に見守るとしよう)
泥棒のヘルメスは更生するのでしょうか。やっぱり畜生だからムリなのでしょうか。
……どっちにしようかなぁ。
ではまた(^_^)ノシ




